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3話 孤独

 今日、会社に来ると、営業部がざわざわしていた。何かあったのと聞くと、副社長が懲戒解雇になったらしい。どうも、会社経費を横領したことが原因だと聞いた。営業部長には、第2営業部の部長が任命され、担当役員は業務管理部を所掌している山本常務が兼務することになった。

 だいぶゴネタようだったが、秘書が横領の証拠を申告したということで、逃げ道がなくなったようだった。乙葉は、その話しを聞いて、身を守るためには、準備しておくことが重要だということ、また、あの秘書は、あの時、平然としてたけど、副社長と刺し違える覚悟で私と話してたんだろうと思った。

 乙葉は、第1営業部の通常の営業となり、部下なしのマネージャーとなった。ただ、3年間、営業部にいたけど、本当の営業業務は1回もしたことがなく、成果を上げられない日々が続いた。

 そんな中、社内では、実力は全くないのに同期1番でマネージャーに昇格した乙葉へのやっかみからか、誰もが批判するようになり、枕営業だとか、副社長と寝て、いい待遇を受けているとか、気持ち悪い女として噂されるようになった。

 トイレに行くと、よく乙葉について女性社員が噂していて、入った途端に話しをやめて、穢らわしいものでも見たように出ていってしまう光景もよくあった。ある日、トイレで便座に座っていると、乙葉がいることに気づかずに、女性達が話す声が聞こえてきた。

「ねえ、乙葉って、副社長の子供を妊娠して、おろしたっていう話し聞いた? あんな汚らしい女と一緒の会社にいるって嫌だよね。お金が欲しければ、おじさん騙して寝ちゃえって、本当に汚い女。気持ち悪い。」
「そうよね。子供ができた時に、誰の子かわからなかったらしいよ。何人の男と寝てたんだか。もしかしたら、ホステスとかの方が本業かもね。」
「本当にどうしょうもない女ね。いつも、海外に行くたびに、ホテルでエッチしまくっていたんだって。それで、美味しいご飯食べて喜んでいたって。」
「そうそう。それで、給料あげてもらって。副社長がいなくなってよかったけど、なんであの女は残っているの? 辞めちゃえばいいのにね。」

 私が、抵抗できずに、どれだけ苦労してきたのか知っているのと涙が出てきた。誰も守ってくれないからなのに。その女性達がいなくなった後、涙をボロボロ流しながら静かにトイレを出た。

 特に、男性の時に、同期で、一緒に飲みに何回も行って仲良しだった女性の声も聞こえたのはショックだった。

 また、食堂に行っても、乙葉が来ると、周りはサッといなくなり、リモート会議のアプリの使い方とか周りに聞いても、みんな無視で、こんな広いオフィスなのに、私の味方は一人もいなんだって実感した。

 たしかに副社長は私を性の対象としか見てなかったと思うけど、かわいいねとか、いっぱい話しかけてくれた。今、この会社では、誰も話しかけてくれず、存在していないみたい。前の方が良かったかも。

 こんな中、営業なので外に出ても文句は言われないので、毎日、外の公園で過ごす時間が増えた。新規開拓と言っても、どの会社に、どうやってアプローチすればいいかわからないし、聞いても、マネージャーなのにって教えてくれる人もいない。会社のホームページ見て、メールを出しても、返事は全く来ないし、どうしていいかわからない。

 そんな時、営業部では、山本常務が営業第1部長を呼び出した。

「ところで、宮下さんの悪い噂を聞いているが、その真偽は不明だし、過去のことは問わないことにする。ただ、彼女の成果とか聞いたことないし、これから、助けてほしいという部門を見つけ、そこの専属になるか、新規顧客開拓をしてもらって、その結果に基づく評価をしてもらいたい。そうすれば、少なくても社内の不満はなくなるだろう。」

 その後、部長との面談を受けて、助けてほしいという部門をあたったけど、どこも手を上げなかった。それどころか、多くの部門から、副社長の指示を伝えて図に乗ってるのが嫌いだった、お前のような枕営業は気持ち悪いから来るなと、あからさまに言われた。

 色々な部門に行った時に、部長がいなくなると、女性たちが廊下で、汚い女、消えろよと乙葉に言葉を投げた。最近は、トイレでも、汚い女は入ってくるなと、はっきり言われるようになった。

 人によっては、食べてたガムを乙葉に吐き捨て、売春女、せめて廊下に落ちてるゴミでも拾って会社に貢献しろと笑って言ってきた。

 男性も同じだった。昔はコピー用紙の箱とか持ってると、持ってあげようかとか、声をかけてくる優しい男性とかいっぱいいた。でも、最近は、こいつが副社長が囲ってた女、よっぽどいい女なんだろうな、たしかに胸も大きいし、大きな喘ぎ声出すんだろうな。誰とでも寝るんだったら、声をかけてみようかなんて、ニヤついて嫌らしい目しか向けない。

 営業は続けたが、経験もなく新規顧客の開拓はできず、全く成果が出ないことから降格となり、給料は半分にまでなった。私が悪いわけじゃないのに。この年で、こんなこともできないのかと言われても、これまで会社が守ってくれなかったじゃない。

 1人ぼっちになった乙葉は、そういえば、同期で仲良くして、いつも爽やかだった坂本 健一を思い出した。そうだ、今は女性だけど、彼なら優しく相談にのってくれるはず。そこで、営業で苦しんでるから、話しを聞いてくれないかとメールした。

 いくら待っても返事は来なかった。それどころか、社内では、乙葉は、次の枕営業先を坂本さんに決めた、いつも、体を使って、誰かの権威を借り、気に入らない人を排除していく女だと再び噂が流れ始めた。坂本が、周りに言いふらしたのだろう。そのうち、乙葉を「やどがり」というあだなで呼ぶ人も増えてきた。

 ある日、机の引き出しに、白い液体が入ったコンドームが入ってることもあった。また、女子トイレにある個人用の棚に入れていたナプキンが消えていた。急にきたので、慌ててトイレのトイレットペーパーをあてて薬局に行ったこともあった。

 さらに嫌がらせはエスカレートし、乙葉が裸でベットで寝てる写真が出回るようになった。副社長のものが深く入っていく動画もあるらしい。フェイクなのか、副社長が秘密に撮影した本物なのか、見たことがないのでわからないけど、何枚もあり、ファイルで転送されてるので、かなり広まってるらしい。

 でも、乙葉にこれって伝える人はいなかったので、噂としか分からなかったが、誰もが、気持ち悪いという表情で乙葉のことを見てたので、本当なんだと思う。

 おそらく、副社長にいじめられた人達が、副社長に恨みを持っていて、副社長の親派を攻撃しようとしたものの、ほとんど親派がいなかったので、副社長の指示を伝えてきた乙葉が攻撃の対象となったという面はあったのだろう。

 乙葉には、そんなことに気づくことはなく、ただ、自分がいじめられているとしか思えなかった。誰も、乙葉に話しかけなくなり、乙葉も、もうこの会社にはいられないと思い転職することにした。

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