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2話 父親の死

 私は、佐々木 ほのか。有名俳優の優斗の1人娘。今は高校3年生で、お父さんの意向で、小学生から、全寮制の俳優・女優育成学校に入れられている。そこは、学習は一般と同じだが、女優となるための、ダンス、演技などの授業が夜まで行われていた。

 子役というオファーもあったが、お父さんが、子役としてのイメージが定着して後で苦労することが多いので、高校生を卒業するまでは芸能界には出さないという方針で、勉強と、演技などの訓練に専念した。

 私は、少し悩みがある。先日、女性を抱きしめて、ドキドキしている夢を見た。友達とかは、好きな男性が夢に出てくるという話しをしているのを聞いたことはあるけど、女性を抱いている夢なんて聞いたことがない。

 また、女性のバストを見ると、なんか、ついつい目が行ってしまう。もちろん、私だって、大人の体だから、一人エッチもしたことはある。とても気持ちいい。それでも、そんなこと思うって、私は変なのって悩んでいるけど、誰にも相談ができない。でも、授業が厳しいので、勉強とか、訓練とかに没頭していると、こんな悩みは、いつの間にか忘れてしまう。

 高3の夏、突然、優斗が急に倒れたという連絡が入り、病院に駆けつけたが、すでに亡くなっていた。心筋梗塞ということで、あまりに急だったので、呆然としていたが、後ろから知らない人が近づいてきて、話しかけてきた。

「お嬢さん、こんな時に話したくないが、どうしても今、話さなければいけないことがあります。よろしいですか。」
「なんですか。」
「お父さんは、投資に失敗して、借金を作ってしまい、家も抵当に入っていて、借金を返すと財産は全てなくなる。ただ、家を手放すことで借金はゼロになることはラッキーだとも言える。あなたが背負う借金はない。また、あなたの学費は、来年の3月の卒業までは払われているので、心配はない。ただ、それ以降は、君一人で生きていくしかない。お父さんが、日頃から仲良くしていた伊藤政策研究所の伊藤所長に、さっき、お父さんの死亡を伝えたら、卒業後は、君に働いてもらいたいと言っていた。一回、所長と会ってみたらと思う。」
「あなたは、誰ですか。」
「ごめん、ごめん。私は、お父さんの顧問弁護士を長く勤めていて、資産管理もしてきた。お父さんの資産がなくなることで、先月、顧問契約は終了したが、個人的付き合いから、何かあったら、お嬢さんの面倒を見てくれと言われていたんだ。そんな矢先に、お父さんがお亡くなりになるとは思ってもいなかった。ただ、そう言っても、私にできるのは、伊藤所長をご紹介するぐらいだけだが。」
「よく、わかりませんが、では、伊藤所長にお会いしてみます。」

 お父さんは、親族との付き合いはなく、お葬式は、ほのかだけで最小限で実施し、その1週間後に、伊藤所長と会うことにした。

 ホテルの喫茶店で会うことになったが、想定していたのは、お父さんと同じぐらいの年齢のおじさんだと思っていたら、30歳すぎぐらいの背が高く、すらっとした女性だった。ほのかからは、着てる服はおしゃれで、コーヒーを飲んだ後、カップについたリップを拭き取る仕草などから、大人のおしゃれな女性にみえた。

「初めまして。佐々木ほのかといいます。弁護士さんから紹介されたのですが、私が働くって、どのようなことでしょうか?」
「お父さん、大変でしたね。お父さんには、いろいろトラブルがあると、私に依頼があり、その解決になんでもしてきたの。研究所という名前だけど、有力者のために裏で動く仕事をしているの。わかるかしら。そこで、男性とか女性とか、私が書いたシナリオで演技してもらって、解決に導いていくというか。」
「簡単にいうと、人を騙す仕事をするということですね。」
「そんなところね。」
「捕まったりしないんですか?」
「可能性はあるけど、私がこの仕事をして10年経つけど、そんなことになったのはゼロ。私はシナリオを書く才能があるから、バレたりすることはないって信じてもらいたわ。また、演技がとても上手い人ばかりで、足跡を残さない技術レベルも高いから、バレないし、バレても見つからない。あなたも、その技術を学べば大丈夫。私、お父さんにお世話になったから、せめて娘さんに恩返ししたいのよ。」
「給料制なんですか?」
「4月から入社してくれれば、まず、大学に行ってもらっていいわ。大学の費用はこちらで払うから。そして、1ルームマンションをこちらで用意するから、住宅費も不要。そして、生活費として、月に15万円渡すわ。その代わり、時々、仕事をお願いするから、私のシナリオに沿って動いて。もちろん、そのために必要な経費は払うわよ。」
「大学卒業後は?」
「住宅はそのままにして、当面、月に50万円渡す。仕事のレベルがあるから、それ次第で、個別に追加料金を双方で決めて、納得の上、その仕事をしてもらう。どうかしら。」
「まだ分からないことが多いですが、それ以外に選択肢もなく、ありがたい話しなので、進めさせていただきます。嫌になったら、やめてもいいのですよね。」
「すでに着手した仕事はやり切ってもらうけど、やり遂げれば、嫌になったら辞めてもいいわよ。」
「わかりました。入社します。まずは、何をすればいいですか?」
「高校を卒業したら、次の日に私の事務所に来て。その時に、4月からどうするか伝えるから。3月に入ったら、この名刺にあるメールアドレスに連絡して。」
「わかりました。では、その時に。」

 よく分からない内容であったが、妙に自信ありげで、こんな女性になりたいと思わせるオーラが半端ない感じだったので、ほのかは圧倒され、この人の下で働くことにした。

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