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1話 妹の死

「お悔やみ申し上げます。」
「いえ、本日はお越しいただいて、ありがとうございます。」
 生まれて1ヶ月しか経っていない娘の葬儀で挨拶が交わされた。

 俺は、佐々木 優斗といって、まだ35歳だが、自分で言うのなんだが、日本ではかなり売れている俳優。日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ももらっている。

 去年、男女の双子が産まれたが、妻はお産が原因で亡くなってしまった。それ自体はとてもショックだったが、できちゃった結婚で、俺の自由はこれでなくなったと不満も多かったので、1ヶ月経ったこともあり、あまり悲しみはない。

 ありがたいことに仕事はたくさんあるので、子育ては、家政婦に任せて、仕事の合間で余裕があるときだけ子供との楽しい時間を過ごしている。

 そんなとき、仕事の現場に電話が入ってきて、双子の女の子の方が窒息死したという連絡だった。まだ生まれて1ヶ月なのに、どういうことだ。家政婦が面倒を見ていたんじゃないのか?

 幸いなことに、仕事の現場が近かったので、30分もかからずに家に戻ったが、既にできることはないとのことだった。掛け布団が口を覆い、それを手で払うことができずに息ができなくなったということらしい。家政婦は、すぐに帰って来れるから大丈夫と、ビルの1Fのコンビニに買い物に出ていて、その間に事件が起こったと聞かされた。

 どうして、俺の周りで女性ばかりがいなくなってしまうんだ。男の子より女の子が欲しかったんだ。娘と笑いながら、一緒に食事したり、買い物したりという生活を夢見ていたのに。

 そうだ、昔から大金を払っている知り合いの医師を呼んだ。大声で怒鳴ったので、医師は他の仕事を投げ出して慌てて駆けつけ、15分ぐらいで到着した。

「今回は、大変なことで。気を落としていることでしょう。」
「本当だ。俺は女の子が欲しかったんだ。どうして、こんなんことに。そうだ、どうして呼んだかというと、双子の男の子は、女性として育てることにした。だから、見た目も女性に見えるようにしてくれ。まだ死亡して1時間も経っていない、この子を使ってもいい。」
「女の子にということですが、子供も産めるようにということですよね。」
「そんなことができるのか? できるなら、そうしてくれ。急いで。」

 医師は、単に男性器を切り落とし、女性器のように皮膚を作り替えることを想定していたが、依頼の趣旨を考えて、お腹あたりで体を切断し、男の子の上半身と、女の子の下半身をつなぎ合わせるという手術をすることにした。

 言い換えると、臓器は男の子のものを、子宮は女の子のものを、大腸と尿道を下半身に繋ぐというものだが、一番、難しいのは背骨を接合し、その中の神経を繋ぐことであった。また、血管も繋ぎ合わせなければいけない。ただ、最近は、ヘルニア等の治療向けに、そのような手術をサポートする薬も開発されていた。

 まだ生後1ヶ月で、双子であり、死体もまだ1時間経っていないということであれば、それが一番、現実味がある方法であろう。これなら自分でできる範囲だ。

 手術は6時間に及んだが、成功し、しばらくは、赤子には申し訳ないが、全く動けない状況で3ヶ月程度を過ごすことになり、成長には半年ほど遅れることになったが、手術したとは分からないぐらい自然にハイハイもできるようになって、育っていった。また、若い頃だったということもあり、医師の腕も良く、傷は全く分からなくなった。

 4歳ぐらいになった時に、他の女の子と一緒におままごととか、お人形で遊ぶとかはあまりせず、ジャングルジムとかで遊ぶことが多かったのは気になったが、少し早めだが小学5年生の時に初潮を迎え、中学校になると、年々、女性らしい体に変化していった。

 優斗は、この子を溺愛し、母親がいないので、ショッピングにも同行し、お金はいくらでも払うから、好きなものを買っていいぞと、お兄さんのような関係で付き合っていた。娘も、そんなお父さんは大好きだった。

 ただ、娘は、いつもおしゃべりしているという雰囲気はなく、どちらかというと寡黙で、父の優斗から見ると、娘としてはやや物足りなかった。もう少し、どうでもいい、くだけた話しを娘が笑いながら続けて、明るい食卓とかを期待していたが、それは自分のせいかもという後ろめたさもあった。

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