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第129話 尋問の時間

「さて、それじゃあ、話を聞くことにしましょうか」

 ポチの氷柱によって馬車を貫かれて上空に挙げられてしまった盗賊団を下ろして、拘束した後に俺たちは盗賊団の前に立っていた。

 この盗賊団が野良の盗賊団なのか、ワルド王国からの依頼を受けて馬車に突っ込んできたかで状況は変わってくる

 状況的には盗賊団は圧倒的に不利な状況。それだというのに、まったく怖気づかずにこちらに睨みつけている肝っ玉の大きさには少し驚いた。

「言っておくが、何もしゃべるとはねーぞ!」

「……アイクさん。少しお時間をください。必ず必要な情報は吐き出させるので」

「ひっ!」

 ハンスが低い声でそんな言葉を口にすると、盗賊の一人がハンス恐れるあまり情けない声を漏らした。

その声から伝わる感情は一気に伝染して、この場の空気を一瞬でピリついた。

 俺の隣に佇んでいるハンスに目を向けると、ハンスが盗賊たちのことを威圧感だけで殺せそうなくらいの勢いで睨みつけていた。

 思わず隣で息をのむほどの形相。

 ハンスがイリスをどれだけ大切に思っているかは、以前イリスを助け出したときの反応で大体分かっている。

 勝手な想像だが、実の子くらいに大切に思っていると思う。その子を危険にさらそうとしたのだから、その相手に対して湧き出た怒りが収まるわけがない。

 さっきまでそんな素振りを見せなかったのは、状況を打開させるために感情を必死に押さえていたのだろう。

 ……そう思うと、ハンスの精神力ってかなりえぐいな。

「お任せしたところですけど、今回は俺に任せてください。あまり時間をかけると、他の盗賊に狙われる可能性があるので」

 俺はハンスよりも一歩だけ前に出て、拘束されている盗賊団の前に立った。

「この中で一番偉い人は誰だ?」

「……」

「まぁ、言わないならいいか」

 とりあえず、俺は一番威勢が良さそうな男を見つけて、そいつの元に近づいていった。

「なんだ、小僧。お前みたいなガキに話すことはーーぐっ!」

 俺は何か言いそうだった男の頭を鷲掴みにすると、そのまましばらく握力でその男の顔を握り潰すようにして掴んだ。

「いてててっ! てめっ、は、離――いたいたいっ!!」

 ルーロとの修行でステータスが上がった状態で、本気で握り潰したら大変なことになりそうだったので、俺は加減しながらも強くその頭を握っていた。

 イリスは襲われるということに対して、少しトラウマを持っている。

そんな子を狙ってきたということが許せないのと、少しくらい痛めつけない示しがつかないだろうと思って、そのまま十秒ほど痛めつけた後、俺はこめかみを掴んだ状態で口を開いた。

「【催眠】。『おまえ達は、誰かに依頼されて俺たちを襲ったのか?』」

 俺がそう問いかけても、周りの盗賊たちは俺達の方を見ようとしなかった。

 おそらく、そんな程度の痛めつけでは情報を吐かないと確信しているのだろう。

 しかし、その周りの期待を裏切るように、男は平坦な口調で言葉を口にした。

「ワルド王国の上の方から指示をもらった。ミノラル周辺に王女を乗せた馬車がくるかもしれないから、見張っていろと。見つけ次第、誘拐して来いと。かかった費用は全額負担するから、派手にやってもいいと」

「あ、兄貴?!」

 どうやら、周りが兄貴と呼ぶということは、この人がリーダー的な存在なのだろう。

 周りの子分はさっきまで口は割らないと息を巻いていたのに、頭を握りつぶされそうになったから、怖くて情報を吐いていると思っているかもしれないな。

 面目を潰してしまった形になったが、そんなの気にする必要はないか。

「野良ではないってことか。……『俺たちがどこに行こうとしてたのか、おまえ達は知っているのか?』」

「それは知らない。ただミノラル周辺を張っていろとだけ言われた」

 なるほど。まだワルド王国側に俺たちがどこに向かうかの情報は届いていないらしい。ただ届いていないだけなのか、それとも知る術がないのか。

 後者であることを祈りたいが、多分そうはいかないのだろうなぁ。

「次の質問だ。『他におまえ達みたいに、依頼を受けた盗賊は何組くらいいる?』」

「正式な数は分からない。多分、ワルド王国が抱えている盗賊たちは、ほとんどだと思う」

「ほとんどか。結構量多いんだろうなぁ。『盗賊団以外にも勢力はいるのか?』」

「詳しくは分からない。おそらく、裏傭兵団の連中も声はかかっていると思う」

「裏傭兵団? 『裏傭兵団ってなんだ?』」

 聞きなじみのない言葉が返ってきたので、そのことについて問うと、男はそのまま言葉を続けた。

「詳しくは知らない。ただ、何か大罪を犯したにも関わらず、実力を買われた集団だと噂されている」

「実力を買われて……」

 その言葉を聞いて、思い出したのは以前にワルド王国で戦った男のことだった。

 当時の俺よりもずっと実力があり、隙をついてなんとか眠らせることに成功した相手。

 他の盗賊団とは実力がまるで違っていたし、別の組織に属する方が納得できる。

もしかすると、今回のイリスの護衛の依頼中に、またあの男と再会するのかもしれない。

そう思うと、自然と生唾を飲み込んでいた。

 道化師になってから、初めて勝てないと思った相手。その相手と修行後に再開できる機会が来るとは思わなかった。

 不思議と恐怖心とは別の感情が湧き出ているような気がして、つい緩んでしまった口元を隠すように口元を片手で隠した。

 期待するなんてどうかしているだろ。

そんなことを考えながら、右手で男の頭を掴んだままだったことをふと思い出して、俺はその手を離した。

 力なくその場に倒れ込む盗賊をそのままに、俺は振り返って言葉を続けた。

「それじゃあ、先を急ぎましょうか。こいつの話が本当なら、他にも俺たち狙ってくる盗賊団がいるからーーえ? な、なんですか?」

 しかし、振り返った先にいたリリとポチ以外の面々が俺に驚くような視線を向けていた。言葉を失ってただ見つめられるという状況に、逆に驚いて俺は半歩後ずさっていた。

「……アイク様は冒険者様、なんですよね?」

 遠慮気味に聞いてきたイリスの質問の意味が分からず、俺は首を傾げながら間の抜けたような返答を口にした。

「え、ええ」

 なぜ今のタイミングでそんな質問なんだと思って小首を傾げていると、ハンスが周りの考えていることを代弁するかのように口を開いた。

「……アイクさんは、過去にどこかの軍隊に所属とかしていたのですか?」

「いやいや、ただの冒険者ですよ! ほ、本当に!」

 どうやら、俺が異常なくらいにスムーズに尋問した様子を見て、ただ者ではない何かを感じたらしかった。

 まぁ、珍しいジョブではあるけど、俺はただの冒険者だ。

 しかし、いくら言っても納得してもらえず、何かが過去にあって、深い闇を背負っているのではないかと勝手な考察が始まってしまっていたようだった。

 そして、なぜか騎士団からの眼差しが、少しだけ羨望する者を見るようなものに変わったのだった。

 ……まぁ、悪い気はしないけど、この誤解が解ける日は来るのだろうか。

 そんなことを考えながら、俺たちは先を急ぐために再び馬車に乗り込んだのだった。

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