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1.婚約破棄

きらびやかなドレスを纏った令嬢たちに華やかなシャンデリア、豪華な食事に囲まれた会場はまさに世の女性の憧れだろう、ただ一人今の私を除いては。

「ここで発表する!今日までアリス・アンリゼットは私の婚約者であったがこの場でアリス譲との婚約は解消する!」

私はやはりそう言われるのだろうなとは思っていたが、毅然とした態度で元婚約者を見つめていた。クリス・ベルナンドは私の許嫁であり、現在の王の第一子に当たる。もちろん王位継承権は第一位にあたり、次期国王になる人物でもある。そして、今私の元婚約者になった男でもある。元婚約者の側にあまりにも知りすぎた顔が私を見て不敵な笑みを浮かべていた。

「アリア」

思わず彼女の名前を口に出すと可愛らしい顔に似つかわしくない憎たらしい笑顔を浮かべ続けていた。

「ああ、可哀想なお姉様。でもご安心ください。ね?陛下」

「ああ」

クリスは差し出されたアリアの手に自分の手を愛おしそうに重ねると私のほうに厳しい視線を向けて言い放った。

「そして、この王立魔法学院の卒業の場で発表する!新たにアリア・アンリゼットを我が婚約者とする!」

あまりにも突然のことに周りの生徒たちは口々に様々なことを言っていたが場を制するように拍手をした人物がいた。あれはクリスの側近のレイだ。なるほど、レイも私が婚約者ではないほうがいいと思っていたらしい。

レイに釣られて他の参加者たちもまばらな拍手から盛大な拍手を打っていた。

「そうよね、アリス様は素晴らしい方だけどもう聖女としての力は発動できていないと聞いていましたし…」

「それにアリア様は最近聖女としての力を発動なされたとか」

「それでは今回の婚約破棄も仕方ないわね」

私は噂話をしている令嬢たちの方を向き、わざと目線を合わせると笑顔を向けた。ここで弱腰を見せてしまえば私の今までの努力も水の泡になってしまう。

令嬢たちはさっと踵を返すと会場の壁側へと向かっていった。度胸がないのであれば喧嘩を売らなければいいのにと内心思いながら前にいる二人を見つめた。

「私との婚約破棄の件は陛下もご存知なのですか?」

「ああ」

クリスは短く冷徹に答えると私を見た。

「クリスもそれでいいのですね」

彼の目を見つめるが綺麗な黄金色の瞳の中に私を見放したような冷たい考えが見えるだけで私は捨てられたのだと理解した。

「…私、アリス・アンリゼットは今回の婚約破棄を受け入れます。どうかお二人に聖女フローラの祝福がありますように」

「アリス」

「なんでしょう?」

クリスに呼び止められ会場を去ろうとしていた足を止めた。振り返るとクリスは少し動揺しているような顔を見せたが、すぐに先ほどの冷徹な面差しを私に向けた。

「私のことは婚約者ではなくなったのだから殿下と呼ぶように」

「…ええ、クリス殿下。さようなら」

私はそう言うと会場を後にした。従者が「お早いお戻りですね」と不思議そうにしていたが具合が悪くなったと伝え早く屋敷へと向かうように伝えた。

馬車の中では思ったよりも平静でこれからどう自分の身を振っていくかだけを考えていた。まず、両親たちも今回の件を知っていたのか尋ねなくてはならない。私はまだ日も落ちていない美しい景色を眺めながらただぼんやりとしていた。

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