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13話 歯医者

 美奈がパラソルの下でカフェラテを飲んでると、横に座っている男性と目があって、気まずかったのか、先方からお辞儀をした。
「こんにちは。いい天気で、気持ちいいですね。この季節、とっても気持ちいい。」
「素敵なお嬢さんから声をかけてもらうなんて光栄です。気持ちいい天気ですね。この辺にお住まいですか?」
「ここから10分ぐらい歩いたところに住んでます。」
「そうなんだ。僕もそんな感じですけど、差し障りがなければ、お住まいのビルとかどこですか?」
「グランドメゾン高輪というところです。」
「そうなんですか。これは奇遇ですね。私も、そこに住んでいるんです。」
「それじゃ、時々合うかもですね。お仕事は何やっているんですか?」
「歯医者の先生です。」
「そうなんだ。じゃあ、お金持ちですね。羨ましい。何階にお住まい?」
「22階です。ところで、お嬢さんは、学生、それとも働いてるの。何階に住んでるの? お名前は? 僕は、斎藤俊夫といいます。」
「学生とそれほど変わらないんですけど23歳で、IT系の仕事というか、そんな仕事しています。住んでいるのは25階。名前は、伊東美奈といいます。よろしくです。」
「こちらこそ。最上階に住んでるんだ。(お金持ちのお嬢さんなんだろうね。綺麗な人だし、これからも知り合いでいられたらいいな。)
 できたら、LINE交換だけでもさせてください。今後、レストランとかにお誘いしたいので。」
「いいですね。私のLINEは、これ。これから、俊夫さんって言いますね。」
「恥ずかしいな。じゃあ、こちらも、美奈さんって呼びます。今日はいい日になった。」

<いい女じゃないか。俊夫、守護霊の俺も、鼻が高い。清楚でお金持ちのお嬢様。やっちゃって、結婚しちゃえよ。できちゃった結婚でいいさ。その後、毎日少しづつ薬を飲ませて、自然死にできれば、遺産も入るってもんだ。お前の知識を最大限、使えるじゃないか。頭の中で聞こえているよな。>
<私が横にいるの、気づいている? この子にひどい事したら、お返しするからね。
 美奈、この人の守護霊は危険だし、そんなのが憑いている人は気をつけた方がいい。また、エリートの男って、身勝手で、いつでも裏切りそうだし、あなたの顔にだけ興味があるだけだと思うし、信用できない。住んでるところとか、ペラペラ話しちゃって大丈夫? ストーカーとかもいるのよ。まあ、暴力団よりはいいと思うけど。あなたは、相手を手球に取っているように思ってるようだけど、あなたが騙されると思った方がいいわ。そろそろ、自分はすごいという傲慢な考えを改めなさい。いつか失敗するわ。>

 この後、2人は交際を重ね、週に1回ペースでレストラン巡りと言って、美味しい料理、お酒を楽しむ時間を過ごした。
「美奈さんの年齢だと、そんなに給料は高くないだろうから、最上階に住んでいるということはご両親がお金持ちとかなのかな?」
「両親はもう亡くなっているんです。海外で事故に遭い。」
「それは、失礼なことを言ってしまった。」
「いえいえ、もうだいぶ昔の話しだから大丈夫。その時の保険金もあって(嘘だけど)、また、IT会社と言っても小さなベンチャーみたいな会社だから、ドカンと売れると、その一定マージンが私に入るって感じで、そこそこ収入はある。」
「そうなんだ。それは立派だ。ところで、彼とかいないの。」
「う~ん。いないんですよ。(これまで学んだけど、日本だと清純な感じの女性が好かれるので、そのように演じた方が得ね。) 同じ質問なんだけど、俊夫さんは、彼女とかいるの?」
「ちょっと前まではいたけど、別れちゃって、今はいない。僕は30歳で、友人とかは歯科衛生士とか女性が周りにいるからチャンスはいっぱいあるだろうとかいうけど、うちにはピーンとくる人がいなくて、どうしよかなって思っていたところに、とびっきり素敵な美奈さんと会ったということなんだ。」
「それって、付き合ってということだと思えばいい?」
「そうだけど、OKしてくれる?」
「う~ん。どうしよう、うそうそ、付き合おう。」
「今日は、恋人記念日だね。じゃあ、乾杯だ。乾杯!」
「乾杯! うふ。」

<やめた方がいいって。美奈って、なんか私のこと、いつも無視するけど、長い経験に基づいて言っているんだから、少しは聞きなさいよ。>
<無駄、無駄。この子も、お金持ちが好きなんだよ。お互いさまじゃないか。男女って、そんなもんだろ。恋愛なんか、今どき信じてる人なんかいたら、逆に信用できないって。お互い、打算で付き合って、騙し、騙されながら生きていくんだよ。俺は、いつも、こいつにそう頭の中でつぶやいているぞ。>
<俊夫さんとは、本当に別れた方がいいわ。美奈、気づいて。>

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