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マドカ日本むかしばなし


 それは昼下がりの教室にて──。

「ジューーン!」
「何よ? 満面の笑顔にテンション上げて?」
「あのね? ボクさ? 物語創作やってみたんだ♪」
「……は?」
「だーかーらー! ボク、物語を創作してみたんだってば! チャレンジしてみたの!」
「何で?」
「いや、最近『ネット小説』とかって人口(じんこう)増えてるじゃん? 小説投稿サイトとかも『ウドは木偶(デク)の坊』状態だし」
「それ、たぶん『雨後の(たけのこ)』ね」
「最近じゃ、マンガやゲームと同等にアニメ化も多いんだよ?」
「そうなの? 確かに『赤毛のアン』とか『少公女』とかは、昔あったわね。私もアレはケーブルテレビで観ていたかな? かなり原作を脚色していたけど……一応は『文学作品』だから、親からも『観ていい』って許可されていたアニメだし」
「ううん。そーいうのじゃない。そんな退屈なのじゃない」
「じゃあ、アクション性の高い『三銃士』とか『里見八犬伝』とか?」
「それもアニメあったけど、そーいうんじゃない」
「え? じゃあ……まさか『怒りの葡萄(ブドウ)』とか『カラマーゾフの兄弟』とかを? 子供には難解過ぎない?」
「もう、そーいうのじゃないってば! 何さ? その変なタイトルは?」
「じゃあ、どんなのよ?」
「例えば『俺の妹が痛いのは嫌いなので転生したら迷い猫ですけど何か?』とか」
 ……何よ? そのカオスな作品観は?
 とりあえず先刻の発言を〝スタインベック〟と〝ドスエフトスキー〟に謝れ。
「でね? ボクも『面白そうだなぁ? やってみようかなぁ?』と思って……やってみちゃいましたー♪」
「………………」
「でねでね? どんな出来なのか……ジュンの感想が欲しいんだ♪ 最初に聞かせるなら、ジュンがいいもん♪」
「……………………」
「にひひ♪」
「核シェルター、ネットで買えるかしら?」
「ふぇ? 何で?」
「地球、滅亡間近だし」
「どして?」
「あなたが文章や創作を(たしな)む──それは、つまり超絶大災厄の予兆という事……」
「どういう意味さッ!」



「んじゃ、始めるねー?」
 いえ、私「聞く」って言ってないんだけど?
「コホン……昔々、アパホ●ルに、おじいさんとおばあさんが()んでみました」
「……待てぃ」
「ふぇ? 何さ?」
「そこは『あるところに住んでいました』でしょ! 何よ『アパホ●ルに()んでみました』って! 妖怪みたいじゃない!」
「店舗数ハンパないよね? あの社長、やり手……」
 ()いてない。
「見えてる●パが(すべ)てじゃない……知らない●パも()るんだ……ホラ、キミの近所の暗闇に…………」
 何をおどろおどろしく言い出したのかしら?
「んじゃ、続けるねー?」
 続けるのッ?
「ある日、おじいさんは山でメル●リを、おばあさんは川でケ●タッキーをしに行きました」
「待て待て待てーーッ!」
「おばあさんが川辺でファミリーパックをムシャムシャ食べていると──」
 何事も無かったかのように続けたわね……しゃあしゃあと。
「──川上から〝大きな強敵(とも)〟が、どんぶらこ……どんぶらこ……と」
 何だ〝大きな強敵(とも)〟って……。
()が人生に微塵(みじん)も悔いなしぃぃぃーーーーッ!」
「うわッ? ビックリしたッ!」
「おばあさんは腰を抜かしました」
 うん、まぁ……そうでしょうね。
 私がビックリするぐらいですもの。
 唐突な奇声ですもの。
「アワアワと足掻(あが)くおばあさん! だけど、腰を抜かしているため逃げられない! 戦慄に怯えつつも()いずるだけの無様さ! 背後から迫るは、世紀末覇王!」
 マドカ?
 あなた『カオス』って言葉を知ってる?
「おばあさんは懇願(こんがん)する──『助けて! 助けて!』と! しかし『我は〈世紀末覇王〉! ()びへつらいなど何の意味も()さぬわぁぁぁ!』──非情の気迫が絶望へと呑み込む! おばあさん絶体絶命!」
 ……マドカ?
 何処へ向かっているの? この話?
「その時! ズキューン! 世紀末覇王の眉間を貫く一条の銃弾!」
 まさかの飛び道具出たッ!
「ズゥゥゥン──絶命に倒れる世紀末覇王! 銃撃は何処から? おばあさんが周囲を見渡すも、その姿は見つけられない。だから、ただひたすらに感謝するのであった──『神様ありがとう! アタシに友達をくれて!』と」
 友達、関係無い……。
 そして、立派な殺人事件……。
「パスカルに遭わせてくれて♪ パスカルに遭わせてくれて♪ ありがとうボクの友達パスカルに遭わせてく~れ~て~♪」
「いきなり何の歌ッ?」
「迷作アニメ『ヤバいクマ パスカル』の主題歌」
「知らないわよッ!」
「で、命拾いしたおばあさんは〈世紀末覇王〉の亡骸(なきがら)に『ペッ! クソが!』と唾を吐きかけ──」
 性格ッ!
 おばあさん、性格破綻し始めたけど!
「──その光景をスコープ越しに眺めていたスナイパーは、ニヒルな苦笑にサングラスを外したのであった……狙撃仕様ライフルを携えたおじいさんでした」
 おじいさんッ!
「メル●リで買ったライフルが、ギリ間に合ってラッキーでした」
 おじいさーーんッッッ!
「とりま、桃太郎は鬼ヶ島へ向かいました」
 あ、いきなり超割愛した。
 さては、あなたメンドクサクなったわね?
「三匹の家来は無敵でした」
 ああ、それはもう出会った設定なのか。
 割愛しまくってるけど……まぁ、この辺は定番設定だから聞かなくてもいいか。
「猿も豚も河童も無敵でした」
 家来が違うんですけどッ?
 逆に、これまでの展開が気になるんだけどッ?
「鬼は死に絶えました」
 また超割愛した!
 鬼ヶ島、超割愛に滅ぼされた!
「女も子供も根絶やしです」
 表現ッ!
「桃太郎達はホクホク顔で金銀財宝を根刮(ねこそ)強奪(ごうだつ)しました」
 人聞きッ!
「だけど、夕陽が涙に染みる……お金があっても、桃太郎には空しいだけでした」
 ……いきなり何があったの? 桃太郎?
「お金よりも大切な物……それに気付いたものの、時すでに遅かった」
 うん、そうね。
 問答無用に大量虐殺したものね……鬼を。
「猿も……豚も……河童も……もはや(かえ)らない」
 え?
 ホントに何があったの?
「桃太郎は恥じました──独占欲に駆られて親友(しんゆう)達を手に掛けた愚かさを!」
 桃太郎ーーーーッ?
「だけど、お腹も減ってきたので帰る事にしました」
 淡白に自己完結するな。
 良心の呵責(かしゃく)は何処へ行った。
「夕飯はケ●タッキーのファミリーパックでした」
 繋がった!
 一番どうでもいい伏線が繋がった!
「サクサクで、おいしかったです」
 感想は、どうでもいい。
 あなたの嗜好は、どうでもいい。
「こうして桃太郎家族は円満に暮らしましたとさ」
 ふぅ、やっと終わってくれたか。
 う~ん?
 まぁ、この子はこの子なりに〝やった事が無い事へチャレンジしてみた〟のよね?
 その姿勢は買ってあげたいかな?
 この子の〝前向きさ〟を無下に否定したくないもの。
 正直、不向きではあるけどね? クスッ♪
「数年後、財産独占に駆られた殺しあいが勃発(ぼっぱつ)するまでは……」
 怖ッッッ!
 怖い続編あった!
「三つ巴です」
 さっきの教訓は!
「教訓を得ても、また私欲に繰り返す──人間とは、何と愚かしい生き物でしょう」
 ……マドカ?
 それらしく(まと)めているつもりだろうけど、それ人間讃歌になっていないからね?
「もうメンドクセーから、これでめでたしめでたし♪」
 投げるな。
 そして、物語創作をナメるな。
 全国の創作者さん達に謝れ。


「ね? ね? ジュン、どうかな? ボクの物語、独創的だった?」
「うん、まぁ……独創的だったというか、独創性しかなかったというか……何て言うか……」
「ぃよぉぉぉーし! んじゃ、次は幼稚園だ★」
 ……うん? 幼稚園?
「行って、どうするの?」
「園児達に語り聞かせて、子供の生の反応を見てみる!」
「日本の情操教育を揺るがすなァァァーーーーーーッ!」


 青空にスパーーンと澄み響く顔面ハリセンの音……。
 それが、私の感想でした。

 とりあえず、今日も日常は元気です。




[おしまい]

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