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49 広場にて①

 マナトはケントに尋ねた。

 「ちょ、ちょっと、市場開いて、売るんですよね?村の特産品を」
 「もちろん」

 そう言うと、ケントは売り場の前で腕を組んで仁王立ちしているミトとラクトの前に立った。

 そして、背中の大剣に手をかけると、

 「さあ!どこからでも、かかってきやがれ!!」

 ケントは周りに向かって叫んだ。

 「ひぇ……」
 「何、あれ……」
 「ダメよ、見ちゃいけません……!」

 ケントの叫びを聞いた周りの衆は、売り場から更に遠ざかった。

 観衆は皆、まるで腫れ物を見る様な目でケント達を眺め、関わろうとする者は誰もいなかった。

 「ケントさん、ちょっと……?」
 「長老がよく言ってるんだよ。『市場における商売は、戦いだ』とな……」

 ……いや、そういう面ももちろん、あると思いますけど、絶対、この状況は間違っているような……。

 ふと見ると、観衆の中に、フィオナ商隊もいた。

 「……」
 ウテナが、唖然として見ている。

 「ぷフっ……」
 ルナが後ろを向いて、震えていた。笑いを堪えているようだ。

 「何やってるのよ、あんた達……」
 フィオナが呆れ口調で言った。

 マナトの脳裏に『この村の者達は皆、商売が下手くそなんじゃ』という、長老の言葉が蘇える。

 下手というか……いや、これはもはや、商売をするというより、決闘をしに来たみたいな状況になっているじゃないか!

 「あのぅ、ケントさん。ちなみにこれまで、どれだけ売り上げて来たんですか?」
 「フフっ……ないぜ」

 まるでそれが誇りとでも言いたい様子で、ケントが鼻を高くした。

 「今日も、誰もかかってくるヤツはいねえようだな」

 ……えぇ〜。

 「と、とりあえず、別の方法でいきましょう!ケントさん、ミト、ラクト」
 「んっ?おう。でも、どうするんだ?マナト」

 とはいえ、日本でいくら頑張っても営業成績が皆無だったマナトもまた、全然、この状況をどうするか、見当もつかなかったが、

 ……何日もかけて、盗賊とも戦って、そこまで苦労して、ここまでやって来たのに……ひとつも売れないなんて、絶対ダメだ!!

 「み、皆さん!驚かせてすみません!」

 とりあえず、やってみるしかない!と、マナトは観衆に向かって、大声で言った。

 「私達は先ほど、王宮にて、交易をして来たキャラバンです!この衣服は、王宮にて納品した生地と同じものを使用してつくったものなんです!ぜひ、一度お手に取ってみて、色合いや肌触りを感じてみて下さい!決して、決闘をしに来たのではありませんから!」

 その後、マナトは同じことを、観衆や道行く人に向かって繰り返して宣伝した。

 「……王宮で納品して来た生地ですって」
 「へぇ……」

 観衆の中で、婦人が数人、少し興味を持ってくれたようだった。

 すかさずマナトは衣服を持って、婦人のもとへと服を持っていく。

 「ぜ、ぜひ!お手に取って、感触を確かめて下さい。見るだけもいいので」
 「あら、よろしいの?」

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