30 サライにて／ウテナ
「んなっ！？」
殴りかかって来た女はビックリした様子で、サッと拳を引いて、少し下がった。
拳を受け止めた水が、スッと水壷に戻る。
「なんなの、コイツ……！」
背中まであるストレート黒髪ロングで、マナトと同じくらいに背が高く、全体的に細身で、肩から腰下まで、緑を基調にしたエスニック風の色鮮やかなつなぎ服を着ている。
端正な顔立ちでありながら、少し切れ長の目の中に光る明るく茶色い瞳は、強気な女性の雰囲気を醸し出していた。
そして、その目尻は完全に上がっている。激おこぷんぷんもいいところだ。
「くっ……！」
女は身構え直した。完全に臨戦体制に入っている。
「ちょ、ちょっと待って！落ち着いて下さい！僕は女の人の悲鳴が聞こえて、それでビックリして外に出てきただけなんです！い、いったい、何が……あっ？」
よく見ると、女の髪が濡れている。
……これは、まさか。
「そこの野蛮な男が、あたし達の風呂場に忍び込んで来たのよ！！」
女がマナトの後ろにいる、ラクトを指差して怒鳴った。
「ほ、ホントに勘違いだったんです！」
ラクトが、マナトを盾にしながら必死に弁解した。
「てっきり俺達の宿泊スペースと思って入っちゃって、それで誰かが身体拭いてたから、てっきりミトかマナトかと思って、ちょっかい出してやろうと思って、バレないようにこっそり忍び込んで……」
……なにやってんの、ラクト。
「ホントにすみません〜！！」
ラクトが大声で謝った。
「なんだ？」
「どうしたどうした？」
騒ぎを聞きつけた周りの者達がやって来て、ざわざわしてきた。
すると、中庭のほうから、別の女の人が走ってきた。
「どうしたの！？ウテナ！？」
女の人が言った。先に殴り掛かってきた、ウテナと呼ばれた女より背は低めで、首より少し長い金髪に、青色のつなぎ服を着ている。肌は白く、碧眼の垂れ目をしていて、ウテナという女よりは物腰柔らかそうな雰囲気だ。
「ウテナ。騒ぎ起こすと、フィオナさんに……」
ウテナに何やら耳打ちをしている。
「……チッ、仕方ないわね。次、入ってきたら、そこの連れごと、２人とも殺すからね」
――パタンっ。
マナト達の隣の宿泊スペースの扉が閉まった。
……こわっ。
「おいお前ら、どうした？」
ケントがやって来た。騒ぎを聞きつけて駆けつけたようだ。
「あっ、いや、何でもないというか、何と言うか……」
ラクトがあせあせして言葉を詰まらせた。
「ちょっと、井戸端会議をしてて、それで盛り上がって、大きな声出しちゃっただけというか、そんな感じです、ははは……」
マナトがフォローに入って、ケントに言った。
「そうか？それならいいが。……ん〜。そろそろ、お風呂、入ろっかな〜」
ケントは背伸びしながら、自分達の宿泊スペースに入って行った。
周りの者達も、何もないと分かると、離散した。
