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7 キャラバンの村/ミト、最終試験①

 「随分と、いきなりの提案ですね、長老。明日が最終試験と聞いていたのですが……」
 ミトは長老のところまでやって来ると、苦笑まじりに言った。

 「ボンジュール♩ミト。ちょっと、待っておれ」
 「待っておれ、じゃないですよ!」
 護衛担当が長老をたしなめた。

 「さっきのグリズリーのあの感じ、もう、あの家の中の食料は全て食われていますよ」
 「まあまあ、後で食べ物支給するから、許してちょ」
 「ちょって……長老、全然反省してないでしょ」
 「ちーっす」

 話しているところへ、ラクト達もやって来た。

 「おう、ラクト……と?」

 長老の、少し垂れている目が大きく見開いて、ラクトのすぐ後ろにいるマナトを見た。

 「お主は……」
 「ど、どうも。マナトといいます」
 マナトは挨拶した。見れば見るほど長老だった。

 その長老が、自分以上に驚いた様子で、マナトを凝視している。

 「あのぅ……?」
 「このキャラバンの村には、いわゆる拠り所をなくした者たちも多く在籍しておる。しかし……」

 長老が、マナトをじろじろと見ながら、つぶやいた。

 「長生きはするものとは、よう言ったものじゃなぁ」
 「おい長老、熊は?」
 ラクトが、長老の言葉を遮る形で尋ねた。

 「おっと、そうじゃった」
 長老は気が変わったように振り向いた。

 「あの家の中だ」
 護衛担当が代わりに答えた。

 「ありゃりゃ。まったく、気まぐれが酷いというか、ホント、てきとーだよな、長老」
 「ほっほ!何を言うておる。キャラバンになったら危険がいっぱいなんじゃぞ。外へ出たら、こんなふうに相手と対峙する事なく急な戦闘に入ることだってあり得るのじゃ」
 「あ~また、そうやって自分のやった事を正当化しようとする」
 「これラクト。年寄りをなじるんじゃあない」
 「あっ!出てきました」
 護衛担当が、扉の壊れた民家を指差した。

 「えっ!!!」
 マナトは戦慄した。

 デカい、デカすぎる。遠巻きにも大きい事が分かる。四つん這いになっているが、二足歩行になればおそらく人間の数倍はある大きさをしている。

 そして、ボウガンの矢尻のような爪、ダガーの剣先のような牙は、容易に人間の身体を貫き、致命傷を与えてしまえるほどの鋭さだった。

 鼻を小刻みに動かして、肉食の生物特有の怪しく光る小さな目が、次なる獲物を探している様子だった。

 「おっほほ!ありゃ主級だな。密林に生息しているグリズリーの中でも」
 ラクトが楽しそうに、はしゃぐような感じで言った。

 「長老」
 護衛担当が促した。

 「うむ。……よいか、ミト」
 「はい」
 「少し形式は異なるが、これよりキャラバン最終試験を開始する。これまでの修練の集大成じゃ。自分の呼吸で、前に出て闘ってみい」
 「分かりました」

 ……えっ、マジで?あれとタイマン、やるんすか?

 「この時期のグリズリーは、空腹で気性が荒い。十分気をつけていくんじゃぞ」
 「はい」
 「大丈夫じゃ。自分の力を信じるんじゃ」
 再び、長老が言った。

 「これまで村で頑張って訓練してきたんじゃ。必ず……」
 更に、長老が言った。

 「なにアツくなってんだよ、長老。ミトが出れないだろ」
 ラクトが注意した。

 「あっ、悪い悪い。つい」
 「長老、大丈夫ですよ」

 ミトは笑顔で穏やかに言うと、前に出て、グリズリーのほうへと歩き出した。

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