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4 青年ミト②/青年ラクト

 「ほら、どんどん、食べて」

 マナトは泣きながら、料理をすべて平らげた。

 「よかったら、僕の住む村、キャラバンの村に、来てみない?」
 「……えっ?」

 マナトを覗き込む、ミトの目は優しかった。

 「他に行く所がないなら、ね」
 「……いいんですか?」
 「もちろん。キャラバンの村は、異国の人を受け入れるのに、とても寛容なんだ。実は僕も、ここの地方出身じゃないんだよ」
 「あっ、そうなんですか」
 「もとはウシュムという、ここより遥か東方の地方出身なんだ。でも幼かった頃の記憶しかなくてね」

 すると少し、ミトの声のトーンが低くなった。

 「ある時住んでいた街に、ジンが襲って来たんだ」

 ……ジン?

 「……もしかして、ジン、知らないの?」

 マナトの表情を見たミトが、目を丸くして、意外そうな顔をして言った。

 「あぁ、すみません。知らないです」
 「塵から出来ている怪物だよ。血を持たないんだけど、普段は、人間に化けているんだ」
 「な、なるほど……」
 「……それでジンに連れ去られたんだけど、キャラバンの村の人達に助けてもらったんだ。それで、キャラバンの村の子として育ててもらったんだよ」
 「そうだったんですか……」
 「うん。でも、ウシュムはここから遠いんだけど、いつか行って、故郷のみんなに、元気な姿を見せたいと思ってる」
 「そうなんですね……」
 「君も、帰る場所があっても、なかったとしても……それでも、キャラバンの村は暖かく迎えてくれるはずだよ。僕が、そうだったように……」
 「……」

 マナトは少し、言葉に詰まった。

 ただただ、見知らぬ自分にここまで尽くしてくれる、言ってくれるミトの心遣いだけが、マナトの荒みきった心に、ずっと染みていた。

 風は心地よく吹いている。そよそよと、草は気持ちよさそうに揺れている。

 「……よいしょっと」

 マナトは立ち上がった。

 「お世話になって、いいですか?」

 自然と、マナトはミトに言っていた。

 「よし!そうと決まれば……」
 ミトも立ち上がった、その時だった。

 「お〜い、ミトぉ〜!」

 草原の、傾斜の低い側から、男がこちらへ向かって上って来ているのが見えた。

 「ラクト!」
 ミトが言った。

 「おう!なんだ、やっと説得できたのか」

 ミトと同じく、このラクトと呼ばれた青年も、マナトがここで倒れていたことを知っていたようだ。

 「長老も、大丈夫だった?」
 「大丈夫だ。ジンでなければ、連れてこいという話だ」

 ラクトの背丈はミトよりほんの少しだけ低いようで、明るめの茶髪、濃いめの茶色まゆ毛に、大きな茶色い目をしていた。

 上半身は、ミトと同じで着ているシルク風の黒い下着をラクトも着用しているが、肩掛けはしておらず、腰巻きは緑一色でミトが着用しているものと少し違った。左腰には、やはりミトが持っているのと同じダガーをつけていた。

 ミトよりも少し、やんちゃというか、野生感が漂っていた。

 「俺、ラクト。名前は?どこから来たんだ?」
 ラクトと名乗った青年が、マナトに尋ねてきた。

 興味津々に聞いてくるところ、ミトと一緒だとマナトは思った。

 「マナトです」
 「おっ、お前も、トが末尾か。俺とミトと一緒だな。それで?」
 「えっと、日本という国で……」

 ――ヒュッ。

 何かがマナトの右頬をかすめた。

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