388章 個性的ラーメン
ミサキ、シノブ、ホノカ、ドリスはラーメン店の前に到着する。
「ミサキさんは移動するだけで大変ですね」
「はい。かなり疲れました」
仕事場に到着するだけで、90パーセントの体力を失う。ラーメンを食べたあとに、無事に帰ってこられるのか。
「ミサキさん、一人で入ってください」
「わかりました。一人で入ります」
極限の空腹状態からか、体は左右に揺れる。
「ミサキさん、一人で行けそうですか?」
「シノブちゃん、問題ないよ」
「もうちょっとくらいは、食べておいた方がよかったのでは・・・・・・」
「依頼主のために働く必要がある。おなかをすかしておかないと、おいしく食べるのは難しいよ」
ラーメン店の暖簾をくぐると、20歳くらいの女性が立っていた。
「ミサキさん、いらっしゃい」
ミサキはかすれた声で、ラーメンを注文する。
「ラーメンをください」
「これから準備しますので、しばらくお待ちください」
どのようなラーメンを食べるのか。腹ペコ成人は大きな期待に包まれることとなった。
「ラーメンできました。これから持っていきます」
「お願いします」
5メートル以上は離れているのに、鼻孔を強烈に刺激された。香りからすると、ニンニクだと察しがついた。
「ミサキさん、特性ニンニクラーメンです」
強烈すぎるにんにくの香りに、鼻を思いっきりつまんでしまった。う〇ちよりも、ある意味で
強烈なにおいを漂わせていた。
「すごいにおい・・・・・・」
「においはきついですけど、味はとってもおいしいですよ」
味も大切だけど、においもとっても重要な要素。あまりにきついにおいは、女性は敬遠しがち
だ。
「冷めないうちに食べてください」
ミサキのおなかは、究極の空腹状態。にんにくラーメンを食べないという、選択肢は存在していなかった。
鼻をつまんだ状態で、にんにくラーメンを喉に通す。
「すごくおいしい・・・・・・」
空腹であることも重なって、20人分のラーメンをあっという間に完食。そのあと、汁を一滴残
らず飲み干す。特殊な体をしているので、塩分の大量摂取は問題ない。
「ミサキさん、すごくいいですよ。あまりにおいしくて、夢中になっているように感じました」
香りは0点だけど、味は100点満点。ここまでギャップのあるラーメンは珍しい。
「にんにくラーメンの次は、醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンをお願いしたいです。どれくらいなら食べられますか?」
「5人前なら、食べられると思います」
「にんにくラーメン20人磨、醤油ラーメン5人前、味噌ラーメン5人前、塩ラーメン5人前はパワフルですね。大食い少女といわれているだけのことはあります」
通常の人であっても、30人分のラーメンを食べることはできる。ただ、スープを飲み干すのは困難を極める。塩分には致死量があり、大量摂取は死に至るリスクをはらむ。大食い大会で汁を
飲まないのは、参加者の健康を考慮している。
ミサキの目の前に、醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンが姿を現す。いずれも個性は強く、通常のラーメンからはかけ離れていた。
「個性の強いラーメンを作るのはどうしてですか?」
「他と同じではつまらないじゃないですか。特色のあるラーメンを出してこそ、売れると信じています」
特化していなければ、見向きもされないのは事実。他と同じものを持っているだけでは、クローンラーメンとみなされる。
「4年間必死にアルバイトして、運営資金をゲットしました。労働を無にしないためにも、絶対に成功させたいんです」
「成功を心から祈っています」
「ミサキさん、ありがとうございます」
ミサキは醤油ラーメンを食べる。見た目はとても変わっていたけど、味はかなりよかった。
「すごくおいしいです」
「ミサキさん、ありがとうございます」
20前後と思われる、女性が姿を見せた。
「ミサキさん、今日はわざわざありがとうございます」
「こちらこそお招きいただきまして、本当にありがとうございます」
「リクの作ったラーメンはどうですか?」
「味はすごくおいしいですよ」
女性は顎に手を当てて、じっくりと考えるポーズを取った。
「私としては、普通のラーメンを作ってほしいです。あまりに変わっているので、お客様受けは良くありません」
リクはほっぺたに空気を大量に詰め込む。
「アサミおねえちゃん、私は私のやり方でラーメンを売りたい」
アサミは家計簿らしきものを見せていた。
「赤字になったら、ラーメン店をたたむことになる。4年越しの夢は、完全に潰えることになるんだよ」
「それは・・・・・・」
「リクはラーメン作りの才能がある。堂々と勝負すればいいよ」
リクの視線はこちらに向けられた。
「ミサキさんは、どう思いますか? 正直な感想を聞きたいです」
「もうちょっと普通にしたほうが・・・・・・」
リクはため息をついた。
「ミサキさんがそうおっしゃるなら、やり方を変えてみようと思います」
リクはラーメンを見つめる。評価をされていないからか、とっても寂しそうにしていた。