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第80話 タルト山脈中間地点

「リリ! そっちにも行ったぞ!」

「はい!」

 俺たちはそれからタルト山脈を登っていった。

 自然豊かなタルト山脈には王都に敷かれているような綺麗に舗装された道などなく、途中からは整備されていない道を登っていくことになった。

 そして、そんな場所に自ら突っ込んでいけば、当然魔物たちに襲われたりする。

 というか、現在進行形で戦闘中だった。

 ハイファングやハイウルフの群れを倒した後、俺たちは目の前に現れたヘルタイガー数体に囲まれていた。

 ヘルタイガーというのは、トラ型の魔物で俺よりも一回り以上大きな体をしている。成長し過ぎた牙は口に収まりきっておらず、俺たちを捕食しようとしているのか、その牙からはよだれが垂れていた。

 俺は【剣技】、【肉体強化】、【道化師】のスキルを使って、体を軽くしながら短剣で鋭い一撃を放っていた。

 刃に抵抗を感じないで切られていくヘルタイガーの姿を確認しながら、俺は一人で戦っているリリの方にちらりと視線を向けた。

 その視線の先では、俺が作った短剣を引き抜いて、華麗な体さばきでヘルタイガーの体を切りつけているリリがいた。

 力に任せるのではなく、短剣の動きに任せるような剣の動き。

 今までではできなかったであろう剣の切れ味に任せるような刀使いを見て、俺は微かに口元を緩めていた。

 俺がよそ見をしていると思って、襲ってくる二匹目のヘルタイガーの首元に短剣を突き立てて、そのまま短剣を引き抜くと、ヘルタイガーはその場に倒れて動かなくなった。

 短剣についている赤い液体を払って、リリの方に視線を向けると、リリの方も戦闘を終わらしたようだった。

「調子いいみたいだな、リリ」

「はい! アイクさんからもらった短剣、凄い切れ味です」

 リリは短剣の刃先を眺めながら、嬉しそうに口元を緩めていた。テンションの上がったような声色から察するに、結構気に入ってくれているようだった。

「正直、初めは結構切れすぎていたので、使いこなせるか不安でした」

「あー、俺もガルドさんから貰った短剣そんな感じだったわ」

 俺もガルドからの短剣を貰った時、その切れ味に驚いていた。

 さすがに、ガルドの短剣ほどではないが、俺が作った短剣も武器ランクはAだったし、俺のお古なんか比較にならないくらいに切れるだろう。

 リリの場合は、新品の短剣を使うこと自体が初めての経験なはずだ。俺以上にその切れ味に驚いているかもしれないな。

 リリに切られてつけられたヘルタイガーには、大きな一太刀の刀傷が残っていた。その刀傷は綺麗な一直線になっており、新品の短剣を使い慣れてきたことが見て分かった。

 これだけ短剣を扱えれば、もう短剣が手に馴染んで来ているだろうな。

「ワイバーンが出ると言われてる場所まで、もうそんなに遠くはない。このまま魔物を倒しながら進んでいこう」

「はい!」

「……いや、兄ちゃんたちはここまでしか運べないぞ」

「「え?」」

 このまま勢いに乗って押し進んでいこうというタイミング。そんなときに、馬車を止めていた御者のおじさんにそんなことを言われた。

「『え?』じゃないだろ。初めに言ったはずだ、D級の冒険者を連れて馬車で来れるのは、ここが限界なんだよ」

 御者のおじさんは俺たちに少し呆れた笑みを向けたあと、短いため息を吐いた。

 タルト山脈に向かう馬車は道中の魔物が多いため、同乗する冒険者の冒険者ランクによって行ける場所が限られる。

 俺達のようなD級の冒険者の場合、凶暴な魔物が出現する地域の手前で降ろされてしまうのだ。

 御者だって、実力のない冒険者と共に魔物が凶暴な場所には行きたくはない。これは仕方がないことだ。

「あっ、そうでしたね」

「兄ちゃんたちみたいに強ければ、目的地まで運んでやってもいいんだけどな。悪いな、決まりなんだよ」

「いえ、ここまで運んでくれてありがとうございました」

 魔物に囲まれてしまっても、俺たちを信じて馬車を引いてくれたのだ。お礼は言っても、謝られることではない。

 俺たちは手を振って御者のおじさんを見送って、目的地の中間地点でお別れを済ませた。

「結構、日が落ちてきましたね」

 リリに言われて空を確認すると、すでに日が傾いていた。

 今日は野営をすることになるだろうし、時間的にはそろそろ野営の準備をした方がいいかもしれない。

 そして、何よりもお腹もすいてきたしな。

「今日はここまでにいておくか」

 俺たちは新しく買った野営セットを広げて、夕食の準備をすることにしたのだった。

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