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第56話 翌朝と次の行き先

「……ん」

「あ、アイクさん。おはようございます」

「おはよう、リリ」

 バングたちと酒を飲んだ翌朝。

少し飲み過ぎたこともあり、俺はいつもよりも遅くまでベッドで寝ていた。何か視線を感じるなと思って目を開けると、リリが俺のベッドに両肘を置いて俺の顔を覗き込んでいた。

俺が目を覚ましても、特に変わらずにじっと俺の顔を見つめていた。

「……なぜリリが俺の部屋にいる? ていうか、何をしてるんだ?」

「朝ご飯の都合があるので、起きてるかどうかの確認をしにきました」

「ほぅ、それで?」

「アイクさんがまだ寝てたので、起きるまで寝顔を見てました」

「いや、そうはならんだろ」

 俺がベッドから体を起こすと、リリも俺の隣で立ち上がって部屋のカーテンを開けた。

 カーテンから入る日の光を少し眩しく感じて目を細めた先には、俺の寝ぼけ顔を見て口元を緩めているリリがいた。

「朝ご飯作って待ってますね」

「……おう。ありがとうな」

「いえいえ。私、助手ですから」

 リリは俺の言葉を嬉しそうに受け取ると、軽やかな足取りで俺の部屋を後にした。

 これはもう助手ではなく、あれなのではないかと思ってしまう考えを振り払い、俺もリリに続くように自室を後にした。

 廊下を歩いていくと、俺とリリの部屋以外使われていないことを改めて実感するくらい静かだった。

 ……使ってない部屋の方が圧倒的に多いんだよな。

 さすがに、これだけ部屋が多いと使用人とかが必要なのかもしれない。なんとか稼ぎを増やして、部屋とか庭の手入れをできる人を雇うべきだよな。

 いや、逆に庭の手入れを趣味にするというのもいいのか。

 そんなことを思いながら階段を下りて、俺はキッチンへと向かって行った。

さすがに、何もしないで椅子に座っているわけにはいかないと思ったので、俺は皿だけでも運ぼうと思ってキッチンに顔を出したのだった。

「リリ、運ぶだけでも手伝おうか?」

「大丈夫です! 私にお任せください!」

 リリの手元を見てみると、スクランブルエッグと燻製肉とサラダのワンプレートを作ろうとしているようだった。

 朝にはちょうど良い量とバランスの取れた食事。

 リリの食事スキルに感心しながら、俺は先程の考えをぽろっと漏らすように口にしていた。

「使用人かぁ……いくらぐらいで雇えるんだろ」

「え?!」

 俺がそのままキッチンを後にしようとすると、リリが慌てたように俺の腕を両手で掴んできた。

 何事かと思って振り返ると、リリは何やら不安そうな顔で瞳を揺らしていた。

「アイクさん! 違いますよ、別に朝だから手を抜いたとかじゃないです! ちゃんと朝からがっつりしたものが良ければ、すぐに作り直しますよ!」

「ん? なんで急にそんなことをーーいやいや、違う違う! 料理にケチをつけてるとかじゃないって! 部屋も広いし、毎日リリに食事を作ってもらうのも大変だろうから、使用人いた方がいいかなって思っただけだから!」

 どうやら、俺の独り言のタイミングは悪かったらしい。いや、普通に考えてそんなタイミングで言ったら勘違いするよな。

 俺が空き部屋のこととかを色々説明をすると、リリは安堵のため息を吐いていた。

「あ、アイクさんの食事を作るのだけは譲りませんよ。だって、私助手ですもん」

 別に使用人に反対という訳ではないようだったが、料理を作る所だけは譲れないらしかった。

 まぁ、リリの料理を毎日食べられるなら全然いいんだけどな。

 ようやく話がまとまると、タイミングを見計らったようにノッカーの音が聞こえてきた。

 あれ? 来客の予定はなかったはずだけどな。

 そんなことを思いながら玄関の方に向かって行くと、何やら聞き覚えのある声が俺の名前を呼んでいた。

 俺が玄関の扉を開けると、そこには仕事着姿のイーナが立っていた。

「おはよう、アイクくん。昨晩ぶりね!」

「おはよう、イーナ。えっと……遊びに来たって訳じゃなさそうだな」

 イーナの服装を見てそんなことを言うと、イーナは小さく頷いて言葉を続けた。

「うん。ちょっと、アイクくん達に用事があってね。アイクくん達って、これから何か用事があったりする?」

「用事? いや、特にないけど」

 今日はまたふらっと冒険者ギルドに行こうと思っていたくらいだが、別に行かなければならないという訳ではない。

 行ったとしてもクエストを受けるか分からないしな。

「そっか。それなら、これから一緒にブルクに行けたりするかな?」

 イーナはそんな言葉と共に少しの笑みを浮かべていた。

 確か、ブルクというのは商業都市で有名な場所だ。商人のイーナもそこの街を拠点に活動していると言っていた。

「ちょっと、力を貸してもらえると助かるかなって」

 イーナは申し訳なさそうに少しだけ眉を下げながら、そんな言葉を口にした。

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