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第48話 鉱石の採取の報酬

「さて、正直に言おう……これ全部買い取りするのは無理だ」

「え?」

 場所は鍛冶場から変わって、鍛冶場近くにあった一軒家の方に移動していた。俺たちは客間に通されて、ソファーに座って今回の報酬についての話し合いを行うことになった。

 そして、話し合いを行うことになったはずなのだが、ガルドは開口一番にそんなことを口にした。

 思わず間の抜けたような声が出てしまった俺に対して、ガルドは少しの笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「勘違いしないでくれよ。単純に、これ全部買い取るだけの金をすぐには用意できないって意味だ」

「あ、そういうことなんですね」

「まさか、クリスタルダイナソーを見つけて、そいつから奪ってくるとは思わなかったからな。しかし、よく見つけられたな」

「偶然見つけたような感じでしたけどね。でも、それだけお金になる魔物だったら、冒険者がこぞって見つけようとしそうですけど」

 たった一体の魔物を倒しただけで数千万ダウほど以上の価値があると聞けば、冒険者が黙っていない気がするのだが。

「普通のクリスタルダイナソーは、あんなに純度の高い鉱石を溜め込んだりはしないんだよ。ここか鉱山だからっていうのと、通常よりも長く生きた個体だったんだろう。ここまで大きな鉱石の集合体が取れるなんて、よくて数十年に一度だろうな。まぁ、そもそも滅多にいない魔物でもあるしな」

 ガルドの話を聞いたところ、どうやら俺たちは色んなタイミングと条件が噛み合ったおかげで、あの鉱石の集合体を奪うことができたらしい。

 他の魔物たちから取れた鉱石の純度が高かった理由も、冒険者の手が入っていないことが原因だったとのこと。

 色々とタイミングが良すぎたらしい。

「もちろん、後でちゃんと報酬は払わせてもらうつもりだが、お前さんたちは短剣が欲しかったんだよな?」

「はい、本来はそのつもりだったんですけど」

 元々はリリの短剣を貰うために、ガルドの依頼を受けることにした。しかし、最近魔物肉を売ったり、盗賊団から馬車を守ったりしていく中で結構お金も溜まってきた。

 短剣を買うこともそこまで難しくなくなってきたのだ。

「なんだ? 何か欲しいものが別であるなら遠慮するなよ、これだけ鉱石を取ってきてもらったんだ、善処するぞ」

「でしたら、武器の作り方を教えてもらってもいいですか? 多分、今後も武器が必要になると思うので、その時に自分で作れたらなって」

 俺は武器に【鑑定】をかければ、その武器の素材が何であるのか分かる。そして、俺には武器を作ることのできるスキルもあるのだ。

 それなら、今後かかるであろう武器の費用を最小限にするためにも、自分で作る術が知りたい。

「ほぅ……物じゃなくて、作り方を学びたいか」

「【錬金】と【生産】のスキルがあるから、せっかくなら自分で作ってみたいなと」

「そんなスキルまで持ってるのか……分かった。それなら教えてやろう。ただ、教えても鍛冶場がないと武器なんて作れないぞ? 毎回俺の所まで鍛冶場を借りに来るのも面倒だろ?」

「そうなんですよね。どこか、近くに借りられそうな鍛冶場ってあります?」

「近場……あっ、ちょうどいい所があるな」

 ガルドはそういうと席を立って、引き出しをガチャガチャといじって一つの鍵を持ってきた。

 そして、それを机の上に置くと、俺達の方にそれを差し出してきた。

「これは?」

「ミノラルにある屋敷だ。もちろん、鍛冶場だってある。一年前くらいに新しく立ててもらったんだけどな、あそこじゃ集中できないから結局使ってねーんだよ」

「え、貸していただけるってことですか?」

 まさか作り方を教えてもらえるだけじゃなくて、その場所まで貸してもらえるとは思わなかった。

 俺がその鍵からガルドに視線を移すと、ガルドは当たり前のことを言うような口調で言葉を続けた。

「いや、これやるよ」

「……え?!」

 ガルドは思わず声を上げて驚く俺を見て楽しそうに口元を緩めると、そのまま言葉を続けた。

「これと短剣と……あとはいくらか現金で後から振り込もう。それが今回の報酬ってことでどうだ? まぁ、全額現金がよければ現金でもいいけどな」

 王都に一から屋敷なんて立てたらいくらするか分からない。

 それでも、こんな提案をするくらいだから、ガルドからしたら本当に必要がない場所をあげることで報酬になるから都合が良いのだろうか。

屋敷を貰える上に、短剣まで貰えるなんて断る理由がない気がする。

 いや、それでも現金で貰って残りの人生をゆるっと生きた方がいいか?

 どちらも捨てがたい選択。そんな中で最後の一押しとなる要素があるとすれば……。

「ちなみに、キッチンは充実してますか?」

「ん? ああ、しっかりしてたと思うぞ」

「リリ」

「はい?」

 リリは突然話を振られたことが不思議だったのか、きょとんと首を傾げていた。

 ここ数日、リリの作ってくれた食事を食べていた。その旨さに毎回感動していたが、また王都に戻って宿暮らしになったら、あの料理はしばらく食べられなくなるだろう。

リリの料理を今後も食べていくためには、やはりキッチンのある環境に定住する必要がある気がする。

 そうなると、リリが今後も料理を作ってくれるかどうかがこの選択をする上での重要な要素になるだろう。

「リリ、俺に毎日ご飯を作ってくれるか?」

「……え?」

 リリは俺の言葉を受けてしばらく固まっていた。予想だにしていない言葉を言われて、脳の処理が追いついていないといった様子。

そして、リリは急に頭をぽんっと音を立てるように顔を赤くすると、微かに熱を帯びた瞳で俺のことを見つめてきた。

「えっ、あっ……え、えっと、喜んでお受けいたします」

 なぜか恋する乙女のような表情で頬に熱を帯びた顔。その顔の理由が分からずにいると、ガルドがぼそっと呟いた。

「……ご祝儀も一緒に振り込んどくか?」

「ん? あっ! ち、違いますから! 単純に毎日料理するのは大変になると思うけど、それでも料理作ってくれるか確認しただけですから! り、リリも変な勘違いしないでいいからな!」

 ガルドの言葉を聞いて、俺がプロポーズのような言葉を口にしていたことに気がついた。急いで訂正すると、リリは耳の先まで真っ赤にして俺のことをジトっとした目で睨んできた。

 そして、微かにむくれるような表情でぼそっと呟くように言葉を漏らしていた。

「も、弄ばれました」

 そんな言葉と勘違いしたリリの返事を思い出して、俺は色んな感情のせいで体温を一気に上げてしまったのだった。

 それでも結局、俺はガルドの屋敷を選んだのだった。

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