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閑話《とある貴族が動く時》

とある王国の北。
広大な森と山を背後に持ち、真冬には大雪が吹き荒れる辺境の地に──その貴族は居た。

「……密猟団と奴隷商が繋がっている、と?」
「そのようです。……今から2年ほど前、南の国境近くの森で──」
「あー待った、どうにもその口調は慣れない。……いつも通り喋ってくれ、ニクス」
「カロさ…………兄さんがそう言うなら」

苦笑するのは、青藤色の髪に薄群青色の瞳の少年──ニクス・ヴィーゾフ。

それに対して「やっぱりそっちの方が落ち着く」とこぼした、漆黒の髪に浅葱色の瞳の若い男──カロ・ヴィーゾフ。


「……続ける。今から約2年前、南の国境近くの森で突如火災が起こった。幸い火はほとんど広がらずに鎮火したんだが……」

元々、付近の村で怪しげな男たちが、子供らしきマントを深々と被った者を連れて森に入って行ったのを目撃していた。
目撃されただけで10人ほど証言がある。まぁ、同じ子供だった証言もあるだろうけど……。

とにかく。
村人の相談を受けた領主は調査をするべく、騎士団一個中隊を派遣した。

……彼らが森の奥に入った頃、突然前方から衝撃波を感じ、直後に火の手が上がった。
駆けつけると結構な大きさの建物から炎があがっているのを確認。
そこから出て来た男たちを保護……しようとしたが、一部が抵抗し拘束。
街に連れ帰り詰問した所、その者たちが“無属性の魔石”の違法製造業者である事が発覚した。
あと密猟団がその森で狩りをする際、その施設に泊まる事があったらしい。

この結果を聞いた領主は、すぐさま追加調査を命令。
その結果……施設から複数の子供の亡骸が見付かった。
ただ……証言のあった人数と合わせると1人足りないらしい。
そしてその子供の側で“黒猫を見た”という噂が度々出ていたそうだ。

***

「……森で黒猫?」
カロ兄さんが首を傾げた。

「その噂曰く、子供が何かに向かって喋っているのを不審に思って様子を見に行くと、子供の影に溶けるようにして黒猫らしきモノが消える……とか」

「…………“影渡り”か」

……流石兄さん。
話が早いな。
「おそらくはそうだ。……その黒猫を魔獣と仮定して、状況から推測すると、黒猫は“大猫族”の変異(ユニーク)個体。子供は《言霊(ことだま)》使いだろうな」

「つまりその子供は黒猫と契約を交わし、何処かに逃げのびた可能性が高いということか……」
こくり、と俺は頷いた。

兄さんは椅子から立ち上がりつつ言う。


「なら早めに保護しないと……今度は黒猫が狙われる可能性があるな」


「すぐに捜索隊を結成します」
「頼んだ。……俺も召喚獣たちに頼んでくる」

そう言いながら2人は部屋を後にした。

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