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517 鎧の精霊

コツ⋯コツ⋯

地下の隠し部屋へ向かう階段。鍛治神と隊長の足音だけが響く⋯

〖響くな⋯【遮音】〗
ついでに気配遮断もかけ、鍛治神が隊長に話しかける。

〖⋯隊長、俺の後ろにいろ。何だか嫌な予感がする〗
『そういうわけには参りません。私は護衛隊長ですから。悪い予感がするなら尚更です』
〖いや、俺がいく。おそらく、あの鎧は俺に向かって来るはずだ。何とか、とっ捕まえて、鎧の精霊を叩き起す!〗
『ですが⋯』
〖お前には、その間、部屋にいる他の者たちを守ってやって欲しい。充分危険だが、頼めるか?〗
『⋯⋯分かりました。ですが、鍛治神様に手に負えないと判断しましたら、動きますよ』キッ
〖分かった分かったよ。だから、そう睨むな。さあ、いよいよだぞ。頼むぞ〗
『かしこまりました』

鉄で出来た頑丈な扉の前までやって来た鍛治神と隊長。
立ち止まって視線を交わすと、

スっと、隊長が扉の脇に移動し取手に手をかける

再び視線を交わし、頷き合うと、一気に扉を開く。
それと同時に飛び込む鍛治神。すぐ様、

ガシャーンッ

金属と金属が激しくぶつかり合う音が⋯っ

『くっ、鍛治神様、少しは様子を見るとかして下さい!』
部屋にいる者を守るも何も無いでしょうが!と、心の中で毒づく隊長。急いで、鍛治神たちの余波を避けて奥にいるエルフと精霊たちの元へ。

だが、そこには仲間を守ろうと、こちらに敵意を向ける者たちが⋯
味方だと分からせるために隊長は

カッ!

眩いばかりの光を放つ。そして、顕した姿は⋯

『あ、貴方様は⋯』

『私は天界で神に仕える者。あちらにおわす方は鍛治神様です』

『『おお⋯』』
『なんと⋯御使い様に、鍛治神様にまでお目にかかれるとは⋯』

涙を流して感激するエルフたちと、安堵する精霊たちが目にしている隊長の背には、先程まではしまっていた大きな翼。第一部隊の隊長でもある彼の翼は中でも美しく、白や銀と言うより金色に輝いている。
隊長はあえて天界の者しか持たない、大きな翼を見せることで、エルフたちを安心させたのだ。

『安心してください。私たちはあなた方を助けに来たのです。あなた方を苦しめた似非エルフどもには、これから主神様より天罰が下されます。その前にあなた方を安全な場所へお連れしたいのですが、この状況がそれを難しくしています』

『『あ⋯』』
『あの子は、自分の意思ではないのです』
途端に顔を青くするエルフたち。

『分かっています。鍛治神様もそれを承知で、何とか無事に助け出せないかと、苦心されておられるのです』

ガキーンッ

こうしてる間も鍛治神様のバトルアックスと鎧の盾が衝突する音がしている。
そして鎧の方も、剣と魔法で攻撃してくる。

〖くっ!やはり中にいるのは子供かっ〗
この子供に意識は無い。と言うより、心を閉ざしているのか?今、鎧を操ってるのはこの子供についてた精霊だな。だが、精霊もまた操られてるのか⋯

〖おい!鎧の精霊、起きろ!いつまで寝てる気だ!?おいっ!〗

ドンッ

〖クソっ!こっちが強く出られないと分かってて、遠慮なしにやりやがるな。おいっ!エルフたち!この子供に名はあるのか!?〗

『『『え?』』』
急に話を振られたエルフたちは、固まってしまったが、そこを

パンっ!

『しっかりして下さい。あの子供に名はありますか?』

隊長が手を鳴らし、目を覚まさせる。

『あ、あ、いえっ、名はありません。ですが、その子たちは生まれた時から力が強く、姉のその子を、日の巫女、妹を月の巫女と呼んでおりました』

『妹?妹がいるのですか?ここにはいないようですが』
見渡してもそのような少女の姿は見えない。

『月の巫女は、人質として、別の場所へ連れ去られたのです。この子たちの両親と共に。三人とも連れ去られる時、私たちを守って、酷い怪我を負っているのに。あの子があの鎧を受け入れたのは、家族と私たちが人質になっているからなのです』

『では、家族やあなた達が無事に助かると知れば、あの子供の意識は戻るかもしれないですね』

『ですが、どこにいるのか⋯』うぅっ

『そうですね。ですが、たしか先に重症のエルフと獣人たちを保護しています。もしやその中にいるかもしれません。あなた方が最後ですからね』

『おお、本当ですか?』

『ええ。今、仲間に確認を取ります。ああ、あなた方の怪我も酷いですね。今、治しますから、あの子供⋯日の巫女に呼びかけてください。あなた方は無事だと』パアッ

『『『あ、ああっ』』』パアっ
『『『あ、ありがとうございます』』』ううっ

『いいえ、遅くなり申し訳ありません。さあ、声をかけてください』

『『『は、はい』』』
『日の巫女、私たちは無事ですよ』
『日の巫女、私たちはもう大丈夫です!』
『もうヤツらに怯えなくて良いのですよ!』
堰を切ったように声を上げ始めるエルフたち。その間に


『聞こえますか?そちらの状況はいかがですか?』
『はい。今、粗方の治療を終えたところです』
隊長は救護に当たっている隊長と通信する。
『その中にエルフの親子はいませんか?』
『エルフの親子ですか?います。魔力の質が似ているからおそらく親子かと。特に子供の魔力が強いようです。ですが⋯』
『なんだ?』
『一番、危ない状態なのが、その親子なんです。医神様がいらっしゃれば、もしくは⋯』
『そうですか⋯私が主神様に頼んでみます。それまで必ずもたせてください。その親子は必ず助けねばなりません。頼みましたよ』
『了解です』ぷつんっ⋯

とりあえず、間違いはなさそうですね。急がねばなりませんね。

『主神様』
〖うん。聞いてたよ。今、医神ちゃんをこっちに呼んで準備してもらってる。もう少し待って〗
『畏まりました』ぷつんっ

今は待つしかなさそうですね。間に合うことを祈りましょう。さて、

『鍛治神様、もう少しもたせてください!』

〖分かってるよ!〗
簡単に言ってくれるな

ガインガインッ

〖おいっ!お前ら、まとめて目を覚ませ!〗

ガッシャーンっ
ダメだな。もたせろって言ってもな。このままじゃ、いつか周りに被害が出そうだ。俺が本気を出せば一撃で大人しくできるが、こいつがタダじゃ済まないだろ。
魔力がダダ漏れでコントロールが出来てないからな。魔力が枯渇しちまう前に何とか助けないとまずい。

〖おいコラっ!鎧の精霊起きろっ!このままじゃ、乗っ取られるぞ!〗
くそっ!あの鎧の精霊めっ!精霊石をどこにやりやがった?直接、石に神力を送り込めれば、あいつを叩き起こせるのにっ!
思い出せ~あいつが何を言ってたか~


〖よし!こんなもんか?〗
『そうですね。さすが鍛治神様ですね。その無骨な性格と、太い腕からよくこの様な繊細な鎧が完成したものです。まあ、一重に私の魔力操作の賜物ですけどね』
〖お前は一言も二言も余計なんだよ。あとその自意識過剰もどうなんだ〗
『本当のことなのですから、仕方ないではありませんか』
〖そうかよ。まあ、いいから仕上げといくぞ〗
『畏まりました』

完成した鎧に、かつてのエルフの王と共に、魔力を注ぐと、鎧の胸元に光が集まり、石の形を作っていく。すると⋯

『ふわあ~あ』

でっかい欠伸をしながら精霊が目覚めた。

『んんん~』

そして、伸びをしながら、自分の体を見渡すと

『あらあ、けっこう可愛いけど、もうひとひねり欲しいとこよね~』

ずるっ
『は?』
〖な、なんだ?〗
なんか、とんでもない奴が生まれちまったような?

〖なんだって?この鎧の精霊に決まってるじゃないのよ~〗

いや、そういう事を言ってるわけじゃ⋯

『ああ、私を作ってくれた神様とエルフね?よろしくね~』

『え、ええ』
〖ああ、よろしく〗
なんだ、この軽さは?

『ところで、中々いいデザインだけど、まさかこの精霊石、そんな胸のど真ん中に付ける気ぃ?』

『え、ええ』
〖ダメか?〗

『ダメに決まってるじゃない!そんな目立つところ、狙われて砕かれでもしたら、私死んじゃうじゃないのよ~』ぷんぷんっ

『そ、そうですね?』
〖それは、悪かった〗
確かに、そうだな

『分かってもらえればいいのよ。あ、でもデザインは割といいから、ダミーの石でも嵌めてちょうだいよ。あっ、だからってケチらないでよ!うんと可愛いのじゃないと許さないんだから!』

『え、ええ』
〖わ、分かったよ〗
二人で呆気に取られていると

『うんうん。じゃあ、これはどこかに隠さなきゃね』

『〖え?隠す?〗』
何言い出してんだ?

『そうよ♪本物見えるとこにしたら、ダメじゃない?みんながあっと驚くところとかないかしらね?』

『さ、さあ?』
〖そう言われてもな?〗
どうしろと?

『ん~どこがいいかしら?鎧のデザインも少しいじって~そうね、襟なんかつけだらどうかしら?』ぶつぶつ

〖な、なんだありゃ?〗
『さあ、なんでしょうね?』

『あ、ここなんかどうかしら?外から見れないのは残念だけど、私が愛でてあげればいいわよね?うふ?』

『あれは、なんでしょう?』
〖さあ?なんだろな?〗


う~ん、ろくな記憶しかないなっ
〖くっ〗
ガインガインッ

まったくっ、あいつのおかげで面倒なことにっ

ドンッ!ガシャンッ!

本当にどこにやりやがった?⋯ん?襟?まさか?

バタバタバタバタっ
『鍛治神様、隊長!お連れしました!』
『姉様っ』
『『日の巫女!』』

〖ん?〗
間に合ったか

『鍛治神様、医神様より伝言でございます。〖間に合うに決まっているでしょう。私は日々精進しているのですよ。あとは頼みましたよ〗だそうです』

〖そうかよ。あいつは預言者か?まあ、いい〗
それより

〖おい!こいつの家族だな?こいつに声をかけろ!こいつの魂は今、闇に囚われてる!お前たちの声で呼び戻せ!〗

ガイーンッ
〖はやくしろ!〗

『『『は、はい!』』』
『姉様っ!私だよっ』
『日の巫女っ、私たちはここよ!』
『すまなかった!もういいんだ!私たちは無事だ!日の巫女っしっかりしてくれ!』
『姉様っ』
『『日の巫女っ!』』

【⋯ううっ、つきのみこ?とうさま、かあさま?】

〖⋯っ!〗
鎧の動きが鈍った!今だ!

カッ!

鍛治神は鎧の動きが鈍った一瞬を見逃さず、眩い光を放った。

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