343章 本番当日
マラソンの本番当日がやってきた。
本番までのトレーニングは3回ほど。ぶっつけ本番に近い状態で、10キロマラソンに取り組む。
天気は曇り、気温はちょうどいいくらいだった。ベストコンディションで、マラソンに挑戦できる。
44キロだった体重は、45キロまで増量させた。マラソンにおける、体重減に十分な備えをした。
ランナーはミサキ、アヤメの二人だけ。一般向けではなく、特別な人だけが走るマラソンのようだ。
マラソン会場には、10万人を超える観客が集まっていた。路上の広さからして、キャパオーバーに思えた。ドミノ倒しになりかねないので、人数を制限したほうがいい。
観客の応援は、こちらに向けられた。
「ミサキちゃん、ファイト」
「ミサキちゃん、頑張れ」
「ミサキちゃんの走るところ、とっても楽しみ」
ミサキに対する応援が多かったものの。アヤメに対する声援もあった。
「アヤメちゃん、ファイト」
アヤメはこちらに声をかける。
「ミサキちゃん、ゆっくりといこうね」
「アヤメちゃん・・・・・・」
アヤメの足腰は、一回りも逞しくなっていた。本番に向けて、妥協のないトレーニングを積んできたことは、素人目にもわかった。
ピストルの音が鳴らされた。ミサキは右足から前に進める。
ミサキは順調なペースで、3キロ付近までやってきた。ここまでは練習不足を感じさせなかった。
「ミサキちゃん、とってもいいペースだね」
ミサキの足は急にストップ。魔法をかけられたかのように、体は硬直してしまった。
「ミサキちゃん、ゆっくりといこう」
優しい声をかけているけど、本心はどうなのかわからない。
「アヤメちゃん、ごめんね」
「ミサキちゃん、水分補給をしよう」
3キロ地点に給水場を設けられていた。ミサキはそちらで、大量の水分補給をする。
足を動かそうとするも、あげることすらままならない。
「ミサキちゃん、どうしたの?」
「足が硬直してしまって・・・・・・」
「どうしても無理なら、リタイアしようか?」
リタイアの4文字を聞き、体を支える力を失った。ミサキは地面に膝をついてしまった。
アヤメは両手で×のポーズを作る。すぐさま、スタッフ、病院関係者などがやってきた。
「ミサキさん、体はだいじょうぶですか?」
たくさんの人に応援されたのに、大失態をさらしてしまった。自分のふがいなさに、大いにいらだっていた。