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328章 10年後(終わり)

「セカンドライフの街」に転生してから、10年の歳月が経過した。

 アカネは超能力を駆使したこともあって、総資産は未知なるレベルに到達。魔法を使わなければ、正確な金額は判断しかねる。

 大金をもたらしたのは、ソラとその街に住んでいる人たち。良きパートナーとして、関係を継続している。

 ソラの尖った性格に、変化は見られなかった。部下はつらい思いをしながら、新しい王様と関係を続けている。

 アカネは仲裁役として、500回以上は間を持った。それにもかかわらず、上司、部下のどちらも変わることはなかった。生まれ持ったものは、簡単に変わることはなさそうだ。

 住民の生活レベルは明らかに変わった。家、食生活、服装のいずれも、以前とは違っていた。バナナ、飴だけで生活していたころの面影はまるでなかった。

 住民の生活以上に、見た目も変わっていた。不老不死のスキルを持っている女性以外は、確実に年齢を重ねていく。50年後には、知っていた人は死んでいき、自分だけは取り残される。そのことを考えると、無性な寂しさに包まれる。

 一人で過ごしていると、室内は暗くなった。

「アカネさん、お久しぶりです」

「メイホウさん、お久しぶりだね」

「いろいろと考え事をしているんですね」

「はい・・・・・・・」

「アカネさんには悪いですけど、状況を変えることはできません。100年後には、すべての人は入れ替わるでしょう」 

「そうですか・・・・・・?」

「100年後、200年後も必要とされるのは変わらないでしょう」

「・・・・・・・」

 玄関のチャイムが鳴らされる。

「お友達が来たようですね。私は失礼します」

 メイホウがいなくなると、室内は明るさを取り戻す。

 扉をゆっくりと開けると、よく知っている顔が二人立っていた。一人はミライ、もう一人はカスミだった。

「ミライさん、カスミン、いらっしゃい」

 ミライは今年で37歳。体力的に衰えたのか、絵の描くペースはかなり下がった。20代のような無理はもうできないようだ。

 ミライはいまだに独身である。結婚するつもりは、まったくないようだ。

 結婚年齢に変化はなかった。女性は10歳くらいになると、籍を入れて新しい命を誕生させる。体の負担の大きさに耐え切れず、流産するケースは珍しくなかった。

 カスミは10年前とあまり変わらない。パワフルで明るい性格をしている。

 カスミの孫は、昨年に結婚。妊娠4カ月ということで、新しい子供を誕生させようとしている。順調にいけば、30歳前後で、玄孫を預かることになる。

 カスミが80まで生き、子供が10年ごとに新しい命を誕生させたとする。来孫、昆孫、仍孫、雲孫などを生で見ることになる。日本では絶対にありえない。

 アカネは不老不死。理論上は、雲孫よりも下の世代を見られる。

 結婚願望はほとんどなかった。本当に好きな人が現れるまで、1000年、2000年であっても待ち続ける。

「アカネさん、「セカンド牛+++++」を食べに行きましょう」

 ミライは絵描きで、大金を得ている。「セカンド牛+++++」を、好きなだけ食べられる立場である

「ミライさん、ありがとう」

「カスミンも行こうよ」

「アカネさん、ありがとうございます」

 3人で肉屋に向かった。100年後は会えないなら、今、このときを大切にしていきたい。

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