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472 エル様とアルコン様

そして⋯

『し、しっかりしろアイナ様』つんっ
『そうだぞ。死ぬのはまだ早いぞ』つんつんっ
『ニャーニャはなんで伸びてんだ?』つんつんつんっ
ドワーフさんたちが突っついているのは⋯

『アイナ、ニャーニャ、大丈夫か?そろそろ起きろ。干からびてるぞ。ほら、ゲンの茶でも飲め』とくとく
床にばったりと倒れ込み涙を流しているアイナ様とニャーニャ⋯
そして、アルコン様干からびてるなんて、ひどい⋯
でも、お茶を用意してあげるだなんて、モモとスイがいたら
ぴゅいきゅい『『おとうしゃん、えら~い』』ぱちぱちっ
って、してもらえたかもしれないね。
『本当か!?』
かも、ね?かも。

『うううっ無理ですわぁ』
『力尽きたにゃぁ』
哀れアイナ様⋯
アイナ様とニャーニャは一心同体、ニャーニャも力尽きた⋯
二人に一体何が?


〖ふふふ⋯いい感じですね。聖域に戻る前に大変良い実験が出来ました〗にやにや
エル様はひとりほくそ笑んでいる。

アイナ様から結界の仕組みを聞き出したエル様は、頭の中で素早く計算し、帰りがけに上空から効果を確認し、その効果次第では聖域と他の精霊王の地でも試そうと考えていた。

こそっ
『『『容赦ねぇな』』』

〖ふふふ、何か?〗

『『『ヒイッ』』』ビクゥっ
震え上がるドワーフさんたち
『⋯⋯』
無言で首を振るアルコン様

そう、アイナ様がさせられ⋯
〖何ですか?〗
ア、アイナ様がしたことは⋯
〖その通りですよ〗
まず初めに、元からある結界を補強すること。

『ご主人、頑張るにゃ!』
『はいですわ』
アイナ様の足元には結界の魔法陣が光りだす。そして、アイナ様を中心に、放射線状に何本もの光の矢が走っていく。既に埋められている魔石に力を送っているのだ。

〖石も増やしましょうか?〗にっこり
『は、はい。かしこまりましたわ』
『ご、ご主人、頑張るにゃ』
元からの結界石に追加注文が⋯
更に、その外側にひとつ目の新たな結界を広げ

〖ああ、同じ数では間隔が広がってしまいますからね、石も増やしてくださいね?〗にっこり
『は、はいですわ』
『ご、ご主人、ファイトにゃ』
ここにも追加注文が⋯
更に更に、その外側にふたつ目の新たな結界を広げ

〖いい出来ですね。ああ、でもやはり石は増やしてくださいね?〗
『は、はいですわ』
『ご、ご主人、無理はしないでにゃ』
こうして里は二重三重の結界で覆われ、里の守りは強化された⋯

そして、新たな結界が完成すると
〖ふむ。さすがですね。では、早速、携帯用の結界石を作りましょう。里の皆さんの分と、そうですね、予備も作っておきましょうか?百個くらいですかね〗にっこり
『ハ、ハイ。カシコマリマシタデスワ』
『ご、ご主人、しっかりするにゃ!ゴーレムみたいになってるにゃ!カクカクにゃ!』

そして⋯

『ううう、もう指一本動かせませんわぁ』
『ニャーニャもにゃ、動けないにゃ』
魔力を使い果たし、今に至る⋯

ぼそっ
『哀れな⋯』

『ゔ⋯』ぱたっ
『にゃ⋯』ぱたっ
アルコン様、それ、トドメです。

『あ~がんばれアイナ様』
『ニャーニャもがんばれ』
『気をしっかりもて』
ドワーフさんたち応援するが⋯

〖ふふふ⋯ドワーフさんたちはこの石を里の皆さん一人一人に持たせてくださいね。特に里の外に出る時はお忘れなく。ああ、それから、こちらをなくさずに持ち歩けるように加工もお願いしますね。お手の物でしょう?ドワーフですしね〗にっこり

エル様は再びほくそ笑む。
これが上手く行けば、アイナが作った結界石を人知れず色々な地に埋めたり、ばら撒くのもいいかもしれませんね。ふふふ⋯

『ううっ』ぶるっ
『ご主人、しっかりにゃ』
アイナ様の受難はまだこれからかもしれない⋯

『あ、ああ』
『分かったよ』
『じゃあさっそく⋯』
そそくさと逃げ⋯持ち帰って、と、伝えようとすると

〖ああ、あなた方は奥様がいらっしゃるのですよね?〗にっこり

唐突に話を変えるエル様。そんなエル様に疑問を覚えるが、それ以上にあの笑顔に恐怖を覚えるドワーフさんたち。

『お、おう』
『い、いるけどよ』
『そ、それが何か?』
この城に来てから、どもりまくりのドワーフさんたちに

〖では、ご紹介頂けますか?〗にっこり
エル様、本日一番の笑顔。

『『『は?』』』
目が点になるドワーフさんたち。

〖ですからご紹介下さい〗にっこり
エル様、有無を言わさない笑顔。

『『『⋯⋯』』』カチーン
固まるドワーフさんたち。

『あ~。こうなったら連れてくるしかないんじゃないか?』
さすがに気の毒になったアルコン様がドワーフさんたちに話しかける。

『ええ?』
『な、なんでだ?』
『でもまあ⋯』
ちらっ

〖ふふふ⋯〗にっこり

ぶるぶるぶるっ
『わ、分かった』
『い、行ってくるよ』
『す、すぐ戻るからよ』
だだだだだだっ

ドワーフさんたち、エル様必殺無言の微笑みの圧に負け、ダッシュで退散。残されたのは⋯

『アイナ、ニャーニャ、大丈夫か?』
アルコン様がアイナ様とニャーニャを起こしてソファに座らせる。
『ありがとうございますですわ⋯』
『ありがとうにゃ』
二人はだるい体を何とか動かし、おいちゃん特製のハチミツレモン水改良版!疲れも吹き飛ぶ生姜はちみつホットレモン!を飲む。

『はあ、染み渡りますわ。いつもの甘酸っぱいはちみつレモンにピリリと生姜が聞いていますわ。更にこのとろみ⋯体が芯から温まりますわ』
『ありがたいにゃ。でもこれはサーヤちゃんが一生懸命集めてる、すいすい葛にゃね。またサーヤちゃんの水まんじゅうが遠のいちゃったのにゃ。あとで捕まえるの手伝わないとにゃ』
『そうですわね』
『でも癒されるにゃ。おいしいにゃ』
ふぅ~と、やっと一息つくアイナ様とニャーニャ。

『全く、少しは手を抜いても良かったのではないか?』
アルコン様がそんな倒れるまで続けなくても⋯と言うと

『いいえ。それは出来ませんわ。万が一、出来の悪い石が誰かの手に渡ってしまったら?その方に何かが起こってしまったら?その方の命を守る手段がその石しかなかったとしたら、出来の悪い石では守ることは出来ませんわ。ですから、石の出来に差を作ってはいけないのですわ』
『ご主人っ』キラキラ

アイナ様は真剣な顔でそう言います。自分の都合で石を適当に作る訳にはいかない。命がかかっている物に優劣をつけるわけにはいかないと。そんなアイナ様をキラキラしたおめ目で見るニャーニャ。

『そうか、そうだな。すまなかった』
アルコン様はそんなアイナ様に笑顔を向けてから素直に謝る。
『だが、それなら尚更無理のない数に絞ってやるべきだな。明らかに今回はやりすぎだ』
そう言って、今度はエル様に厳しい目を向けるアルコン様。

〖そうですね。確かに調子に乗って無理をさせました。申し訳ない〗
エル様も今回は素直に頭を下げるが

『ええ?頭を上げてくださいませ。私も気をつければ良かったのですわ』
今までずっと結葉様や姉や兄の精霊王たちの無茶振りに振り回されてきたアイナ様。頭を下げられることに慣れずに慌ててしまう。しかも相手は神様だ。だけど今回は

『ご主人、でもにゃ、さすがに今回はアルコン様が正しいにゃ。エル様に不敬は承知で申し上げるにゃ。先にごめんなさいにゃ。後で罰は受けますにゃ。でもにゃ、ご主人が倒れたら元も子もないにゃ。それに、限界の状態で作ったら、いくらご主人が気をつけても、出来の悪い石が出来てしまうかもしれないにゃよ』
『ニャーニャ⋯』うる
ご主人思いのニャーニャが、意を決して進言した。

『ニャーニャの言う通りだ。アイナ。今回許して同じことを繰り返せば、いつかニャーニャの言葉通りになるぞ。それにニャーニャの言葉は主を思ってのことだ。命を救う医神であるエルンスト様が神罰を下すはずがあるまい。もし、その気なら⋯』
今は人型をとっているエンシェントドラゴンであるアルコン様の瞳がドラゴンのそれとなり、ゴキゴキと音を立てて右手の爪だけをドラゴンの爪に変化させる。

『ア、アルコン様、お気をお鎮めくださいませ』
『そうにゃ!さすがにそれはダメですにゃ!』
自分とニャーニャの為に神に向かって威圧を放つアルコン様にアイナ様が驚き、ニャーニャは自分の発言がアルコン様を巻き込んだと思い、アルコン様を止めようとする。

エル様はというと
〖構いませんよ。アルコンの言う通り、今回の非は私にあります。神罰など下しませんよ。それに、おそらくアルコンが今回ここまでしたのはアイナのことだけではないのでしょう〗
フッと笑ってみせた。

『その通りだ。サーヤの名付けの時のバートもそうだったが、アルミ箔の時などにしてもそうだ。面白がっているのも多少は本当だろうが、本当はサーヤに魔力を使わせることも目的なのだろう?サーヤに魔力を使わせ、早くサーヤを強くしたい気持ちは分かるがな?ことを急ぎすぎではないか?サーヤもアイナも神ではないのだ。神に比べたら脆い存在なのだぞ。焦りすぎて壊してしまっては元も子もないのではないか?』
アルコン様は今までのことも踏まえて、この行動だったのだ。サーヤや子供たちの目がない今だからということもある。

『『アルコン様』』
今まで見た中で一番厳しい顔をしているアルコン様。そこまでみんなを思っての言葉にエル様は⋯

〖⋯⋯〗
バートと私は似たところがありますからね。アルコンの言う通り、面白いからと言う部分はありますが、焦っていたのも事実ですね。強くなればまたいつかのようにサーヤを簡単に奪われることは無いと焦りがあったかもしれません。それを指摘されて気づくとは⋯いやはや

〖そうですね。確かに焦りがあったかもしれません。申し訳ない。これはからは気をつけるとお約束しましょう。無理はさせません〗
『本当だな?』
〖はい。お約束します。まあ、私の性格が今更治ることはありませんから、楽しむことは辞めないかもしれませんけれど〗ふっ

〖⋯⋯〗
『⋯⋯』
しばし無言で向かい合っていた二人

『分かった。信じよう』ふっ
アルコン様はようやく姿を元に戻し、アイナ様とニャーニャはほっと息をついた。
そこへ

『おーい。戻ったぞ』
『カミさんたち連れてきたぞ』
『そんで、これからどうすんだ?』
どやどやと、ドワーフさんたちが戻ってきました。

『一体なんだって言うんだい?有無を言わさずさ』
『まったく要領をえないんだからさ』
『落ち着いて説明しとくれよ』
『『『あ、アイナ様、ニャーニャ、お帰り』』』
約束通り、奥さんたちを連れてきてくれたようです。

『ただいま戻りましたわ』
『ただいまにゃ』

『お客様か⋯い?』ビシッ
『『え?』』ビキンっ
あ、固まった

『邪魔してるぞ』
〖ふふ。初めまして。お呼び立てして申し訳ありません。私がご主人たちにお願いしたのですよ〗にっこり

『か、神様に、ドラゴン様』
『と、とんでもない』
『こ、光栄でございます』
奥様たち、何とか返事をしたと思ったら

〖では、聖域に戻るとしましょうか。ドワーフさんたちも一緒に〗にっこり

『『『は?』』』
『『『な、なんだい?』』』
話がまったく見えてないドワーフさんたちに、容赦ない笑顔を見せるエル様。

『本当に分かったのだよな?』
『お、おそらくは?』
『たぶんにゃ?』

さっきのやり取りはなんだったのかと思うアルコン様たち。とりあえず、聖域に戻ることになるようだ。

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