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467 どこかで見た光景

ふぅ~。

『はあ、美味しかったですわ。ごちそうさまでしたですわ』
『おいしかったにゃ。ごちそうさまでしたにゃ』
『すっかり習慣になったな、食後の緑茶。もはや飲まないと落ち着かぬ。我は少々熱めの渋めが好きだな。ごちそうさま』

各自のお弁当に用意されたお茶を飲んで、一息つくアイナ様たち。湯呑みを置いて、ごちそうさま。
いただきますも、ごちそうさまも、サーヤたちのおかげで既に当たり前になっている。

〖美味しい上に体に良いそうですしね。私は熱すぎず温すぎず、渋みの中にも甘みが感じられるお茶が好みですね。ごちそうさまでした〗

食後のお茶までしっかり堪能したエル様たち。
例のごとく、凝り性のゲン達により、緑茶の種類も豊富になってきた。
そして、入れ方にも好みがあるエル様達のために、山桜桃と春陽はお茶の入れ方も色々伝授されている。もちろん今日のお茶も

『ニャーニャは熱いのも渋いのも苦手なのにゃ。だから温めの甘みのあるお茶が好きにゃ』
『私も上品な甘みを感じられるお茶が好きですわ。さすがに温度はニャーニャより高めの方がいいですけども』
落ち着きますわよね~と話していると、

『ちょっと待て。ということは一人一人の好みに合わせて用意してくれたのか?』
『『あっ!』』

アルコン様のお気づきの通り、今日もしっかりと各々の好みに合わせてお茶は用意されている。

〖まったく、こんな日くらい皆同じで構わないというのに〗
『本当ですわ。朝早いというのにお茶まで気を使って頂いて』
『ありがたいけどにゃ。山桜桃ちゃんと春陽君は頑張りすぎにゃ』
『そうだな。これは二人には特別な土産を用意しないとな』
山桜桃と春陽は、どうしても不遇な環境から救ってもらったという思いがいまだに強く、いくら言っても頑張りすぎてしまう。

〖と言うことは、このドワーフさん用と書かれた物は?〗
ドンドンッとテーブルに置かれる大きな水筒が二つ。エル様がゲンから託された分だ。

『え~と、それはきっと、ものすごく熱々で渋々のお茶と』
『キンッキンに冷えた麦茶にゃ!そして水筒の危機にゃ!』はぁはぁ
バンッとテーブルに手をつくニャーニャ。

〖そうですか⋯〗
『何があったニャーニャ⋯』
ご立腹のニャーニャに、若干引き気味のエル様とアルコン様。

『そうですわね。初めて親方とおかみさんに、ここでお茶と麦茶をお出しした時、お茶はひと飲み、ニャーニャの麦茶は水筒ごと奪われてあっという間に飲み干されましたものね』はぁ
『そうにゃ!しかもニャーニャの大事な水筒、真っ二つにされて分解されるところだったにゃ!必死で奪い返したにゃ!』
『そうでしたわね。涙目のニャーニャに親方たち舌打ちしてましたものね』
『チッて言ったにゃ!チッて!』
未だ冷めやらぬニャーニャの怒り⋯トラウマ?

〖なんとも、容易に想像できますね〗
『それは災難だったな』
お茶談義からドワーフさんたちのやらかし談義に花を咲かせていると⋯

ドンドンドンっ!
『お~い!アイナ様!』
『戻ってるんだろ?』
『開けてくれー!』
ドンドンドコンっ!

ドアが、ぶち壊しかねない勢いでドンドン叩かれる。

『な、なんだ?』
〖討ち入りですか?〗
アルコン様とイル様はあまりの音に敵襲かと構えるが、当のアイナ様とニャーニャは

『大丈夫ですわ。いつものことですわ』
『そうにゃ。ドアはこの為に丈夫に出来てるから壊れないにゃ。安心するにゃ』
『待ち人がいらしたようなので、今こちらにお連れしますわね』
『やっぱり呼ばなくても来たにゃね。鼻が利くにゃ』
いつものことだと平然としている二人。

ドコドコドコっ!
『『『おーいっ』』』
ドンドンドンドコンっ!

『いつも?これが?』
〖ドアとは、この為に丈夫に作るものでしたか?〗
どんな環境だと悩むアルコン様とエル様。
小さい頃からこれが当たり前なアイナ様たちは、その様子に気づかない。

ドンドンドン!
『お~い』
ガチャっギィー

『皆さん、いらっしゃいませですわ。ただいま戻りましたですわ』
『みんな、ただいまにゃ!』
にこやかに迎えるアイナ様とニャーニャ。迎えるのはやはり、親方たちの息子三人組。

『おう!おかえり!』ニカッ
『邪魔するぜ!』ヨッ!
『お宝の匂いがするぜ!』くんくん
なんか三人目だけおかしい⋯

『お宝は分かりませんが、私たちもあなた方にお聞きしたいことがあるのですわ』
(お宝、恐らくアルコン様の事ですわよね?ニャーニャ)
『呼びに行く手間省けたにゃ。とっても大事なことなのにゃ』
(絶対そうにゃ。ドワーフから見たらきっとアルコン様は歩く素材の宝箱なのにゃ)

『俺たちに?』
『大切なこと?』
『なんだ?』

『それを聞くためにお客様がいらっしゃってますの』
(そうですわよね。大丈夫でしょうか?アルコン様は角と翼はそのままですものね)
『お願いだから失礼のないようにしてにしてにゃ』シャキンッ
(アルコン様はナマモノにゃ!失礼なことしたらおしおきにゃ!シャキンッ)

『おう?俺たちに聞きたいこと?』
『なんだか知らんが、客人がいるんだな?』
『そんで、ニャーニャはなんで笑顔で爪出してんだよ?』
アイナ様とニャーニャの裏の会話が聞こえていないドワーフさんたち。

『んにゃ?ついにゃ』シャキンッ
(いつでもオッケーにゃ!)
『まあまあ。皆様、では上がってくださいませ。お客様にご紹介致しますわ』
(ニャーニャ、ほどほどにしてくださいませね)
『どうぞなのにゃ!』
(それは、ドワーフさんたち次第にゃ!)

そんなこんなで、ドワーフ御一行様ご案内~♪

『エル様、アルコン様、お待たせしてしまって大変申し訳ありませんですわ』
『こちらが親方たちの息子さんたちにゃ』
部屋に戻ると、エル様とアルコン様は自分たちでまたお茶を出してくつろいでいた。

『え?きゃ、客人って、まさか?』
『だって、こんな所にいるはずないよな』
『だ、だよな?でも確かに』
ドワーフさんたち、ソファでくつろぐ二人を前に自然と膝を着いていた。

『あ、あら?』
『まだ紹介してにゃいにゃ?』
アイナ様とニャーニャは、ドワーフさんたちの様子に拍子抜け⋯

『ばばば、バカヤロウ!さすがに分かるぞ』
『こここ、この気配、か、神様だろ、それに』
『ドドド、ドラゴン?そ、それもその色は、え、エンシェント⋯』
顔面蒼白でハハーという感じで床にひれ伏している。

『まあ、お分かりでしたか。そうですわ。医神エルンスト様と、エンシェントドラゴンのアルコン様ですわ』
『優しい方たちにゃ。安心するにゃ』
本来なら、親方たちの息子たちの反応が普通なのだろうが、聖域で何人もの神たちに、他にも色々なすごい人達がいることに慣れてしまったアイナ様とニャーニャ。感覚は麻痺しているのかも?

〖顔を上げてください。普通にしていただいて大丈夫ですよ〗
『そうだな。そのままじゃ話もできないだろ』
『さあ、こちらにお座りくださいませ』
『今お茶用意するにゃ』
エル様たちも普通にするように言うが

『い、いや滅相もない』
『お、恐れ多すぎる』
『眩しすぎる』
動く気配がない。

『ええ?大丈夫ですわ』
『そうにゃ。お茶美味しいにゃよ。おせんべいも美味しいにゃ!』
『ニャーニャ、そういうことじゃないと思うぞ』

そんなやり取りの中、にっこり笑顔のエル様が
〖まあまあ。ドワーフの皆さん、どうぞ座ってください。聞きたいこともありますしね。親方たちはあっという間に馴染んでくださいましたよ。それとも、あなたがたには出来ないと?〗ひゅお~おぉ

がくがくぶるぶる
『めめめ、滅相もない!』
『すすす、座らせていただきます!』
『ほほほ、本日はお日柄もよく!』
優しい声でにっこり話しているはずなのに、底知れぬ冷気を感じたドワーフさんたち、慌てて動き出すが

『何を変なことを仰ってますの?』
『動きも変にゃ。手と足が同じ方から動いてるにゃ』
訳の分からないことをしゃべり出し、右手右足を一緒に出しながら歩こうとしてギクシャク動いている三人。
不思議がるアイナ様とニャーニャ。

『効果的面だな。気の毒に』
〖ふふふ。なんですか?アルコン〗ひゅお~
『いや、なんでも』
アルコン様、相変わらずうっかり⋯きっと双子がいたら
ぴゅいきゅい『『おとうしゃん、ダメダメ~』』と言われたことでしょう。

『そそそ、それで』
『ななな、何をお聞きに』
『ななな、なりたいので?』
やっと座ったけれど、エル様の圧に負けてどもりまくりのドワーフさんたち。見かねたアイナ様とニャーニャは

『ひとまずお茶でもいかがですか?聖域でとれる緑茶というものですわ』
『熱々だからをつけて⋯』
ごっくん!どんっ!
『にゃ⋯』

しーん

〖⋯⋯〗
熱々のお茶をひと息?で飲み干したドワーフさんたちに唖然とするエル様と、

『お、おい。大丈夫か?』
血走らせた目を見開いて、顔を真っ赤にしているドワーフたちを思わず心配して声をかけるアルコン様。

『あ、あの、皆さん大丈夫ですの?』
アルコン様が声をかけても無言で瞬きすらしないドワーフたちに声をかけるアイナ様。

そして、
『つ、冷たい麦茶飲む⋯』
ギンっ!ゴっ!ドンっ!
『⋯にゃ?』

しーん

〖⋯⋯〗
目を光らせ、麦茶を光の速さで飲み干したドワーフさんたちを、またもや呆然と見るエル様。

『お、おい。息してるか?』
目を見開いて、鼻からフシューフシューと息を吐き出してるドワーさんたちを、やはり心配するアルコン様。

『ど、どこかで見た光景ですわね』
『お、お代わりいるにゃ?』
おそるおそる麦茶の大きな水筒を差し出すニャーニャ。すると直ぐ様⋯

ギンっ!!バッ!とくとくとくとく

『ヒィッ!こわこわにゃっ』
『そ、そうですわね。落ち着くのを待ちましょうか⋯』
うんうん、と頷く面々…

結局、麦茶を飲み干すまでドワーフたちは飲み続けたのでした。


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