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466 感謝の気持ちを

〖ふぅ⋯美味しいですね〗
優雅な所作で食事を進めるエル様。
優雅なはずなのに残像が見えるのは何故だろう⋯

『え、ええ。そうですわね』
ようやく味が感じられるようになりましたわ⋯
『ほ、ほんとにゃね。温かいコンポタがほっこりじんわりするにゃ』
疲れた心がほぐれるにゃ⋯
『このライスバーガー、新作だな。やっぱり作り置きだなんてことは無かったな』
今日ほど気遣いがありがたい日はない⋯

ようやく落ち着きを取り戻したエル様のおかげで、ようやく味を感じながら食べられるようになったアイナ様たち。三人とも言葉の裏に何かが隠れている⋯

〖サンドイッチといい、この新作のライスバーガーといい、主食とおかずが一緒に頂けるというのは素晴らしいですね。片手で手軽に食べられて、しかもひとつずつ包んで手を汚さずに食べられるなんて今まで考えられませんでしたよ〗
さすが師匠たちの作り出す料理は違うとエル様は感心しきり。もちろんその点はエル様だけでなく

『本当ですわね。今まで片手で食べられる携帯食など、石のように硬い干し肉くらいでしたものね』
『ず~っと噛んでるようにゃ。口の中の水分なくなるにゃ』
『ああ、あれか。美味くもないしな。二度とあれには戻れぬな』
アイナ様とニャーニャの言葉で味を思い出したのか、アルコン様の眉間に深い皺が寄っている。それにしても、アルコン様もそんなもの食べたことがあるんだね。

『同感ですわ。それに引替え、こちらは美味しい上にお肉やお魚、卵焼きなどのメインの他に必ずお野菜が一緒に食べられますから、バランスもとれてますものね』
『それににゃ、それぞれパンやご飯に味も染みて、それがまた美味しいにゃ!にゃーにゃはこの甘いハンバーグみたいなのが気に入ったにゃ!もちろんハンバーグもお気に入りにゃ!』
アイナ様とニャーニャの分は、エル様やアルコン様のものより小さめに作られているので、アイナ様とニャーニャも思ったより種類を食べることが出来ている。まあ、朝から大変だったのだから、いつもよりお腹が減っているのも手伝っているのだが

『この甘いのは、つくねと言うらしいぞ。鶏肉と玉ねぎで出来てるそうだ。ハンバーグはボアやオークの肉らしいな。だが、こちらも子供たちのために色々な野菜を細かくして入れてあるらしいぞ。我はこのカツサンドも好きだ。野菜など要らぬとサーヤたちに会う前は思っていたが、考えが変わった。この千切りキャベツとやらはカツによく合うな』
野菜は好きではなかったのにと言いながら、アルコン様はパクパクとすごい量を食べている。

〖私はこの天ぷら⋯かき揚げと言いましたか?このライスバーガーも好きですね。おにぎりで以前唐揚げや、えび天が入っている物も頂きましたが、また違う美味しさですね。染みた甘めのつゆがなんとも〗
エル様の前からもどんどんご飯が減っている。

『そうにゃよね!つゆが染みたとこ美味しいにゃよね!』
〖はい。その通りですね〗
ニャーニャとエル様はタレや肉汁が染み込んだご飯やパンのトリコになったようです。

『これ、一応お箸やフォークやお皿も用意してくださってますが、外で食べることを想定して下さったのでしょうね。おかずやサラダも手で食べられるように一口サイズにまとめてくれてますわ』
『親方やおかみさんが作ってた楊枝ってコレだったんにゃね。ひとつひとつ丁寧に作ってたにゃ。これも大事に持ち帰るにゃ』
アイナ様とニャーニャが、綺麗に盛り付けられたおかずのお重を見ながらしみじみと言います。

〖そうですね。皆さんに感謝しなくてわ〗
唐揚げが刺さった串を食べながらエル様も言います。でも、お肉ばかり減っているような?

『ん?我の楊枝だけ金属で出来ているな』
アルコン様が自分のものと見比べて驚いています。

『え?そうなのですか?私のは木ですわね』
『ニャーニャも木にゃよ』
びっくりして、みんなが確認しだします。
〖私もです。もしかしてアルコンだけ牙があるからと気を使って素材を変えてくれたのかもしれませんね〗
エル様が冷静に分析をすると
『ありえますわね』
『きっとギン様やハクたちの分も変えてるにゃね』
アイナ様とニャーニャもおそらく、みんなに合わせて作ってくれているのではないかと言う。
『なんと⋯』
アルコン様はまじまじと自分の楊枝を見て呟いています。

〖まったく、心して頂かないといけないですね。ですが、無理はしないでくださいと再度お伝えしないといけないですね〗
ご飯を作ってくれたゲンさんや山桜桃と春陽だけでなく、脇を固めたドワーフたちにも感謝しなくては。

『くすくす。おそらく言っても無駄でしょうけれど』
『そうにゃね、何でもないとか、当たり前のことだとか言いそうにゃ』
アイナ様たちも苦笑い。

『ならば、我らも勝手に感謝の気持ちを表せば良いのではないか?』
ニヤリとアルコン様がとってもいい事を言います。
〖いいですね。それ。アルコン、実にいいことを言いますね〗ニヤリ
エル様も負けじといいお顔で賛同します。

『感謝を?』
『どうするにゃ?』
とってもいいお顔の二人に若干引き気味のアイナ様たちが聞くと

〖この辺りで美味しいものや、聖域に役立つようなものはありませんか?〗フフ
『後で見回りも兼ねて色々探索せねばな』フフ

エル様とアルコン様の意図に気づいたアイナ様たちは
『ああ!そういうことですわね!』ぱんっ
手を打ちならして賛同し、
『もちろんにゃ!後で親方の息子たちに話を聞いたら、そのまま巻き込むにゃ』ぽむっ!
ニャーニャも肉球をぽむっとして賛同する。
ここに来て悪いお顔で算段を組み始める四人。だけどその前に


『ふえっくしょいっ!う~』ぶるるっ
『おう!なんだなんだ?誰に噂されるような悪さしたんだよ?』ワハハ
『うっせぇよ。そんなことしてねぇよ。そんなことより』ニヤ
『ああ。アイナ様の城に行かないとな』ニヤ
『おうよ!お宝の匂いがプンプンする気がすんだよな』フッフッフッ
『さあ、行くか!』
『『『『『おうよ!』』』』』

噂の親方たちの息子たちが、アイナ様の城に集結しようとしていた。

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