316章 わだかまり
一つの部屋に30人が集まっているのに、まったく混雑していなかった。圧倒的な家の中の広さを、知ることとなった。
30人くらいの女性の視線は、DRAZに注がれることとなった。
「DARZさんですか?」
DARZは距離を取ろうとしているのか、一歩後ろに下がった。これだけの人数を前にしたことで、恐怖を感じているのかもしれない。
「はい、そうですけど・・・・・・」
一人の女性は、手を胸の前で合わせる。
「テレビでは何度も見たけど、生で見るのは初めてだよ。生きている間に、本物を見られるとは
思わなかった」
髪の長い女の子に、肩をポンと叩かれた。
「エマエマさんだけですごいのに、DRAZさんとも交友関係を持っているなんて。ミサキちゃんは雲の上の存在だね」
緑色の髪の女の子は、部屋に飾られているサインに気づいた。
「エマエマさん、ルヒカさん、ズービトル、キイさん、DARZさんのサインが飾られているよ」
栗色の瞳をした女性は、鼻息を荒くする。
「本物のサインだ」
「入手困難なサインを、全部そろえるなんて」
「ミサキちゃんは街のヒーローだよ」
「ミサキちゃんは宝物のような存在だよ」
相手は名前を知っているけど、こちらはどこの誰なのかも知らない。どのように対応していいのか、さっぱりわからなかった。
「ミサキちゃん、私たちに戸惑っているんだね?」
「うん。どこの誰なのかもよくわからないから」
DRAZは心境を察したのか、肩をポンと叩いた。
「悪い人たちではなさそうなので、彼女たちを信頼していきましょう」
「DRAZさん・・・・・・」
「ミサキさんは、心から慕われているんですね」
ミサキは力なく頷いた。
「ミサキちゃん、ご飯を食べているところを見たい」
40分前に食べたばかりなので、おなかはあまりすいていない。彼女たちの期待に応えられる自信はなかった。
「ミサキちゃん、ご飯は食べられそうかな?」
「40分前に食べたばかりだから、たくさんは難しいかもしれない」
「ミサキちゃんが食べられるように、料理の量をコントロールするね」
30人の女性たちは、食事の準備を行った。たくさんの人数がそろっているのに、無駄な動きは一つもなかった。一つにつながれているかのように、サクサクと作業を進めていた。
「ミサキちゃん、ご飯の準備ができたよ」
テーブルの上に並べられたのは、サンドウィッチ、から揚げ、ケーキだった。一部のメニューについては、先ほどとかぶっていた。
「ミサキちゃん、思う存分食べていいからね」
パーティーの第二幕が開けようとしていた。名前も顔も知らない人からだったので、大いなる違和感があった。