305章 アヤメ
自宅のポストに一枚の手紙が入っていた。
「ミサキさん、誰からですか?」
送り先の名前を確認すると、「クドウアヤメ」と書かれていた。
「クドウアヤメさんです。アイドルとして活躍されていた方です」
過去形、現在進行形のどちらがしっくりとくるのかはわからない。
「ミサキちゃんと一緒に、写真撮影をした女性ですね」
「そうです。一緒に写っている女性です」
敏感肌というハンデを抱えながらも、きっちりとやり遂げている。ハンデを言い訳にしないところは、非常に好感を持てる。
「ミサキさんほどではないけど、とっても美しい女性ですね」
妖精の作り上げた造形が本物を上回る。アヤメに対して、申し訳ない気持ちになった。
エマエマの表情が曇った。
「社長に捨てられたと知ったときは、悲しい気持ちになりました。私も売れなくなったら、同じことをされるかもしれませんね」
利用価値のある間は奴隷労働、利用価値を失ったらポイ捨て。どちらにしても、人として大切にされていない。
ミサキは手紙を開封する。
「ミサキちゃん、元気にしていますか? 私は元気に過ごしています。
社長に捨てられたときは助けていただきました。ミサキちゃんに助けてもらえたからこそ、現在の自分があると思っています。
水着撮影、入浴シーン撮影などをしています。新しいことに挑戦することも多く、刺激のある日々を送っています。
フリーになったあと、収入は100倍になりました。実力次第ではあるものの、フリーは稼げることを知りました。アイドル業界に固執せず、フリーの道を模索すればよかったと思います。
近日中に家を訪ねようと思っています。そのときはいろいろとお願いします」
手紙を読み終えた直後、ベンツがゆったりとしたスピードで停車する。
「ミサキちゃん、久しぶりだね」
「アヤメちゃん・・・・・・」
アヤメはある女性に、視線を送った。
「エマエマさんですか?」
「はい、そうですけど・・・・・・」
ミサキ、エマエマ、アヤメの3人は目立つ。周囲をざわつかせないために、家の中に入るようにお願いした。