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13話 熟練の技

「これが私の教育ですよ。エアランス!」

 フリスが風系初級魔法を放つ。

 風で編んだ槍を打ち出すもので、殺傷力は極めて低い。
 ただ、拳で殴られるのと変わらない威力があるため、質が悪いことに変わりはない。

 フリスの暴挙を目の当たりにして、トムじいさんは……

「……やれやれ」

 ワンステップ、横に移動することで魔法を回避した。

「「なっ!?」」

 フリスとドグが驚愕していた。
 それも仕方ないだろう。

 風魔法は威力は低いが、圧倒的に速い。
 魔法によっては、音を超える速度で飛翔するものもある。

 そんな魔法を、あの距離で、予備動作なしに回避されたのだ。
 フリスとドグはさぞかし驚いたことだろう。

「……」

 ネコネも驚いているらしく、目を大きくしていた。

「お前さん、非常時でもない限り、魔法は人に向けて放つものではないぞ」
「な、なにを……」
「貴様、フリス先輩にふざけた口をきくな! ファイアランス!」

 先に我に返ったドグが魔法を放つ。
 今度は火属性の魔法だ。
 初級だろうと、直撃したらタダでは済まない。

 しかし……

「……」

 トムじいさんはまったく動揺せず、落ち着いていて、再び魔法を避けてみせた。

「なるほど」

 なぜ、トムじいさんは魔法を避けることができるのか?
 そのからくりが理解できた。

 ただ、フリスとドグは理解できないらしく、目の前の光景が信じられないとばかりに瞬きを繰り返している。
 至近距離で魔法を何度も回避してみせる。
 それは恐怖を感じることだったらしく、二人は震えていた。

「さて」
「「っ!?」」

 トムじいさんが前に出ると、フリスとドグはびくりと震えて、後退する。

「やんちゃな生徒はおしおきをしなければいけないが……」
「くっ……お、覚えておきなさい! この屈辱、必ず晴らしてみせますよ!」
「あぁ!? 待ってください、フリス先輩!」

 脱兎の如き逃げ出す二人。
 貴族と言っていたような気がするが、とてもじゃないが高貴な姿には見えないな。
 この様子なら放っておいても問題はないだろう。

 それよりもトムじいさんだ。
 攻撃は回避していたけれど、もしかしたら見えないところで怪我をしていたかもしれない。
 俺の目も万能ではないからな。

「大丈夫か?」
「おや、これは……むっ」

 トムじいさんは、恥ずかしいところを見られたというような顔をして……
 次いで、鋭い表情に切り替わる。

 なんだ?

「どうして姫様が暴君と一緒に……」
「暴君? なんのことだ?」
「とぼけるか……そうか、もしや姫様によからぬことを? 姫様から離れよ!」
「えっ」

 トムじいさんがものすごい勢いで駆けてきた。

 一瞬で目の前に。
 大地を踏み抜くような勢いで一歩を出して、その力を拳に転換して打ち出す。

 ギィンッ!

 トムじいさんの拳は結界によって防がれた。

 今の一撃は完全な不意打ちで、俺も対応できなかったのだけど……
 こういう時のために、常に結界を展開している。
 ある程度の攻撃は防いでくれるから問題ない。

 とはいえ……

「おい、いきなり攻撃とはどういうことだ?」
「それは儂の台詞である。姫様に近づき、なにを企んでいる?」
「いや、俺は……」
「問答無用!」

 さきほどと違い、ものすごく苛烈だ。

 トムじいさんは、結界なんて気にしないとばかりに拳を連打する。
 そんなことをすれば、普通、拳の方が砕けるのだけど……

 その様子はない。
 むしろ、結界の方が砕けてしまいそうだった。

「マジか」

 結界を拳で砕くなんて、初めて見た。
 とある仕掛けがあるとしても、なかなかできることじゃない。

「面白いな」

 ニヤリと笑う。

 強者との戦いは好きだ。
 俺の魔法がどれだけ通用するか、確かめることができる。
 また、さらに成長して新しい魔法を習得、開発できる良い機会でもある。

 俺は魔力を練り上げて……

「やめてください!」
「「っ!?」」

 ネコネの叫び声に、俺とトムじいさんはピタリと動きを止めた。

 なんて大声。
 耳がキーンとする。

「なにか勘違いしているみたいですが、スノーフィールド君は悪い人ではありません。スノーフィールド君も、おじいさんとケンカをしようとしないでください」
「えっと……」
「あー……」

 トムじいさんと顔を見合わせて、

「「ごめんなさい」」

 揃ってネコネに頭を下げた。
 時に、男は女性にどうやっても敵わないものなのだ。

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