12話 犯人は誰だ?
「あの……どうでしょうか? 呪いは解けたのでしょうか?」
「悪い、ダメだった」
素直に失敗したことを告げた。
「そうですか……」
「ただ収穫はあった」
「え?」
「俺の魔法で解呪できない呪いなんて、普通は存在しない」
「す、すごい自信ですね……」
「それだけの努力を重ねてきた、という自信はあるからな」
俺の力が通用しない。
敵が世界最高峰の呪術師というのなら納得だけど……
しかし、呪いを見る限りそこまで複雑なものではない。
解呪できなかったのは別の問題があるからだ。
「基本、呪いっていうものはかけたらそれきりだ。その後、継続的になにかをする必要はない。ただ……レガリアさんにかけられている呪いは別だ。定期的に魔力を補充されている形跡がある」
「えっ」
「継続型の呪い。たぶん、何度も呪いを上書きしてきたんだろうな。だから、何重にも呪いに包まれることになって、そうそう簡単には解呪できないようになっている」
解呪魔法を100回使えば、さすがに解呪できるだろう。
ただ、さすがに面倒だ。
それと根本的な解決にならない。
ここまで執念深い呪いをかける相手だ。
解呪しても、また上書きされるだけ。
犯人を見つけないとダメだ。
「どこの誰か知らないが、犯人は、よっぽどレガリアさんに魔法を使ってほしくないみたいだな」
「そのような人がいるなんて……」
「犯人に心当たりは?」
「……わかりません。一応、私も王族なので、いるといえばいるのですが……」
「心当たりが多すぎる、ってことか」
ネコネは恨みを買うような人物ではないだろう。
ただ、王族という立場故、狙われる可能性はある。
例えば、王が言っていた謀反を企む者。
そいつの犯行かもしれない。
「そうだな……ところで、魔法が使えないと判明したのはいつだ?」
少し考えて、そんな質問を投げかけた。
「えっと……6歳の頃ですね。アカデミーには初等部から通っているのですが、その時の検査で、なにも使えないことがわかりました」
「けっこう前だな……その間、ずっと?」
「はい」
6歳から15歳の今まで、約9年、ずっと魔法を使うことができなかった。
魔法が使えないのに、それだけの期間アカデミーに在籍できたのは、王族だからだろう。
ただ、それだけじゃなくて……
その間、ずっとネコネは諦めていないのだろう。
いつか魔法が使えることを信じて、がんばっていたのだろう。
その根性。
魔法に対する想いは嫌いじゃない。
「って、そうじゃない」
問題は、6歳の頃に呪いをかけられたということ。
以後、犯人は継続して呪いをかけて、上書きし続けてきたのだろうが……
「案外、簡単に犯人が見つかるかもしれないな」
「えっ、どうしてですか?」
「6歳の頃に呪いをかけられて、それは今も続いている。つまり犯人は、レガリアさんが6歳の頃から今まで、ずっと近くにいる人物、っていうことだ」
「あ」
「6歳から今まで、ずっと近くにいる者は? その上で、魔法が得意な者。あるいは、魔法の知識が深い者。それと……そうだな、よく一緒に過ごす者はいるか?」
「……何人か心当たりはあります」
ネコネは暗い表情に。
今の条件に当てはまる者は、家族や親友など親しい人以外いない。
そんな人が犯人かもしれないと考えて、憂鬱になったのだろう。
「犯人探しが嫌になったか?」
「……いえ。スノーフィールド君が考えている通りのことなら、なおさら、突き止めないといけません。ここで逃げるわけにはいかないのです」
強い人だ。
王族とか護衛対象とか抜きにして、少しだけネコネに好意を持った。
「それで、条件に当てはまる人は?」
「まずは家族ですね。父、母、兄、姉、妹、祖父、祖母……数えるだけでも大変ですね」
「王族だからな」
「それと、初等部からの友達が五人。アカデミーとは別に、個人で雇っている教師が三人。侍女と執事が二人ずつ。護衛の方が三人。あとは……庭師のトムおじいさんですね」
「けっこう多いな……ところで、なんで庭師と親しいんだ?」
「とても知識が豊富で、楽しい方なんですよ」
散歩とかしている途中で知り合い、こっそりと交流を続けていた、というところだろうか?
どちらにしても、思っていた以上に犯人候補が多い。
どうやって絞っていくべきか?
「とりあえず、トムじいさんのところへ案内してくれ」
「トムおじいさんを疑っているんですか……?」
「まだなんとも言えない。ただ、知識が豊富なら手がかりを得られるかもしれないからな」
それと、大抵は老人は交友関係が広いものだ。
別の人から見たネコネの印象を聞いておきたい。
――――――――――
「貴様、これはどういうことだ!?」
トムじいさんがいるという中庭へ移動すると、怒声が響いてきた。
聞き覚えのある声だけど……
「この方を誰だと思っている? 将来、アカデミーを背負って立つ天才、フリス様だぞ!」
「ふふ」
バカコンビ……もとい、ドグとフリスだった。
なにやら庭師を怒鳴りつけている。
ネコネが顔を青くしているところを見ると、あの庭師がトムじいさんなのだろう。
「フリス様を葉で汚すなど失礼極まりない。断罪する必要があるな」
「ですが、私の作業中はここに入ってはいけないと、そこに書いておりまして……」
「言い訳をするか、見苦しい! これだから平民は」
「まあまあ、ドグ君。そう、あまり怒らないであげてほしい。私は気にしていないよ」
「さすがフリス様。その寛大な心、見習いたいと思います」
なにをしたいんだ、あの二人は?
たくさんの生徒の前で俺に負けた鬱憤を晴らすため、あちらこちらで問題行動を起こしている、ということはちらりと風の噂で聞いたが……
本当になにをやっているんだ?
「とはいえ、このままなにもなしでは示しがつきませんからね。私が直々に教育をしてさしあげましょう」
「そうですね。おい、フリス様の教育を受けられること、感謝しろ」
「困りましたな……」
好戦的な二人に対して、トムじいさんはあくまでも落ち着いていた。
慌てることなく、取り乱すことなく、常にマイペースだ。
その余裕の正体は、もしかしたら……
「た、大変です、スノーフィールド君。助けに行かないと!」
「いや……たぶん、大丈夫だ」
「え?」
「おもしろいものが見られるかもしれないぞ」