301章 エマエマと店にやってきた
ミサキはエマエマと一緒に、焼きそば店にやってきた。みんなに気づかれないよう、社員側の扉を利用する。
シノブは突然の訪問に、腰を抜かしてしまった。ミサキはともかく、エマエマまでやってくる
とは思っていなかったようだ。
「エマエマさん、どうかしたのですか?」
「一度でいいので、訪ねてみたかったんです・・・・・・」
エマエマはテレビ放送が切り替わったあと、焼きそば店をどうしても訪ねたいといった。反対する理由を思いつかなかったので、こちらについてきてもらうことにした。
マイは突然のできごとに対して、ハイテンションモードに突入する。
「エマエマさんと会えるのは、とっても感激です」
「マイさん、お久しぶりですね。猫アレルギーは良くなったんですか?」
「はい。なんとかなりました」
マイは厚手のマスク、フェイスガードを着用。猫アレルギーから体を守るために、万全の装備で臨んでいる。彼女の姿を見ていると、全世界で大流行した、コロナウイルスを彷彿とさせる。
エマエマは建物の中を観察する。
「ミサキさんの働く店はいいですね。私も客として、利用してみたいです」
シノブは慌てて、ストップをかける。
「エマエマさんの来店を知られたら、人数はパンクしてしまいます。収容しきれない人が押し寄せた場合、建物崩壊、人身ピラミッドの引き金になってしまいます。死亡事故を起こしたら、取
り返しのつかないことになるでしょう」
エマエマは超一流の歌手。シノブの店をパンク状態にして、人身事故を起こすリスクは0とは言い切れない。
「店をのぞくだけでも・・・・・・」
「そちらもお断りしたいです。私は従業員、お客様の生命を守っていかなければなりません」
アヤメのときはOK、エマエマはNG。シノブは線引きをはっきりとしている。
エマエマは引き下がらなかった。
「どうにかできないですか・・・・・・」
お客様のお願いを頑なに断ると、店のイメージダウンにつながりかねない。シノブは渋い表情で、エマエマの利用にOKを出す。
「エマエマさん、客であることをはっきりと伝えてくださいね」
「わかりました」
「人数が急激に増えたら、すぐに退避してくださいね」
「はい。すぐに退避します」
シノブは肺にたっぷりの空気を入れたあと、すべてを空中に吐き出す。彼女の中で覚悟を決め
ているように感じられた。