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6話 友達になってほしい

 一限目が終わり、休み時間が訪れた。

「「「……」」」

 クラスメイト達から好奇心の視線が飛んでくる。
 しかし、声をかけてくる者はいない。

 どれくらいの期間になるかわからないが、しばらく、俺はアカデミーに通うことになるだろう。
 不都合が起きないように、クラスメイトと友好的な関係を気づいておきたいのだけど……

「……あの」

 声をかけられて振り返ると、ネコネがいた。
 そういえば、すぐ隣の席だった。

 ネコネはまっすぐにこちらを見ると、ややあって、ぺこりと頭を下げた。

「今朝は申しわけありませんでした……」
「うん?」
「私の問題なのに、無関係のあなたを巻き込んでしまうなんて……王族としてだけではなくて、一人の人間として失格です。本当に申しわけありません」

 そこまでしなくても、と思ってしまうくらいネコネは頭を深く下げた。

「そのことについて、別に謝ってもらう必要はない。俺が勝手にしただけだ」
「ですが……」
「そうだな……気にしているというのなら、礼をしてもらいたい」
「はい、もちろんです。なにをすればいいでしょうか? 私にできることであれば、なんでも……」

 真面目な人だな。
 本当に俺が勝手にしただけなので、気にすることなんてないのに。

 王女だから、そういった責務を感じているのだろうか。

 いや。
 身分は関係ないような気がした。
 ネコネ・レガリアという人物だからこそ、と言えるのかもしれない。

「なら、友達になってくれないか?」
「……え?」
「王国に来たばかりで、友達どころか知り合いも一人もいない。打算も混じっているが……君が友達になってくれると嬉しい」
「えっと……そんなことでいいんですか? その……私、一応、王女なんですけど」
「さすがにそれは知っている」
「なら、他にも用意できるものが……お金とか地位とか」
「そんなものよりも、君と友達になりたい」
「……っ……」

 ネコネが赤くなる。
 風邪だろうか?

「それで、どうだろう?」
「は、はい! 私でよければ喜んで」
「よかった。じゃあ、これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします。スノーフィールド君」
「よろしく、レガリアさん」

 握手を交わす。

 友達になれば一緒に行動しやすく、護衛もしやすい。
 打算が九割なのだけど……

 でも、残りの一割は、彼女に興味があってのことだった。



――――――――――



「スノーフィールド君」

 昼休み。
 飯をどうするか考えていると、ネコネに声をかけられた。

「お昼、どうするんですか?」
「それを今、考えていたところなんだ」

 弁当なんてものはない。
 アカデミーにある施設でなんとかしようと思っていたが……

「私、いつも学食を利用しているんです。よかったら、一緒に行きませんか?」
「ありがとう。一緒させてもらうよ」

 どうにかしてネコネを誘おうと考えていたので、ちょうどよかった。

 それにしても……
 他に誘う人はいないだろうか?
 俺のことを気にしているのかもしれないが、気にかけすぎて他の友だちを蔑ろにしたら、問題の種となる気がする。

「他に誘う人は?」
「えっと……私、友達がいないので」

 ネコネが寂しそうに苦笑した。

 彼女は美人だ。
 そして、第三王女。
 友達なんて腐るほどできそうなのに……どうしてだろう?

「行きましょう」
「ああ」

 今は疑問を後回しにして、ネコネと一緒に学食へ移動した。

 学食は円形になっていて、三階建てだ。
 全ての生徒、教員がやってきても対応できるように、これだけの広さにしたらしい。

「スノーフィールド君はなにを食べますか? ごちそうしますよ」
「いや、それは悪い。今朝のことなら、あまり気にしないでほしい」
「大丈夫です。お詫びとかではなくて、なんていうか……アカデミーへようこそ、みたいな歓迎の挨拶みたいなものですから」
「なるほど。そういうことなら甘えるとしようか。肉を頼む」
「はい」
「……」
「……え、それだけですか?」

 不思議そうな顔をされてしまった。

「肉であればなんでもいい。多めだと、なお嬉しい」
「ふふ、お肉が好きなんですね」
「よく食べるからな」

 魔法の研究で部屋に一ヶ月閉じこもっていた時、干し肉には世話になったものだ。

「少し待っていてくださいね。代わりに、席を取っておいてもらってもいいですか?」
「了解だ」

 ネコネと別れて席を探す。
 ほどなくして、二人用の席を確保することができた。
 中央のカウンターに近いから、ネコネもすぐに見つけることができるだろう。

「……おい、見ろよ」

 ふと、そんなささやき声が聞こえてきた。
 視線を向けてみると、男子が二人、ネコネの方を見ている。

 敵意はないが、良い感情もない。
 嘲るような笑みを浮かべている。

「……あれが無能王女なんだろう?」
「……姉妹はとても優秀なのに、あの人だけらしいぜ」
「……もったいないな。でも、外見は俺好み」
「……それな。彼女にして、俺好みに調教してやりたいな」
「ボム」
「「うわぁ!?」」

 鬱陶しい会話をしていたので、二人の料理を魔法で爆破してやる。
 怪我はないが、料理が飛び散りひどい有様になっていた。

「おまたせしました。って……あれ? なにかあったんでしょうか?」
「さあ?」

 とぼけつつ、ネコネに奢ってもらったハンバーグ定食を食べることにした。

 それにしても……
 今の連中も今朝の貴族もそうだけど、ネコネに対する雑を超えた態度が気になる。

 ここはアカデミー。
 地位は関係なくて、実力だけが全て。

 だからといって、ネコネは第三王女だ。
 いくら立場を気にしなくてもいいとはいえ、多少は気にするのが人というものだ。

 それなのに、ネコネはまったく敬われていない。
 それどころか嘲笑われている。
 無能と蔑まれている。

 いったい、その理由はなんだろう?

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