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4話 決闘

「まずは小手調べといこうか……ファイアランス!」

 ドグは炎の槍を生成して、勢いよく放つ。
 うん。
 なかなかの一撃だ。
 主席と言っていただけのことはある。

「ふっ」

 俺は横に跳んで炎の槍を避けた。
 炎の槍は円状に展開された結界に衝突して、そのまま消えた。

 魔法で防御することも可能だったのだけど……
 結界の効果を確かめたかったため、避けることにした。

 なるほど。
 これなら確かに、周囲に被害が出ることはなさそうだ。

 しかし、魔力を通さない結界か……ものすごく興味がある。
 あの宝石を分解してみたい。
 頼んだら、百個くらいくれないだろうか?

「どこを見ている! ファイアランス・ダブル!!!」

 ドグは再び魔法を詠唱した。
 二つの魔法を同時に詠唱する『ダブル』だ。

「どうだ、これこそが僕の力! ダブルを使いこなせる魔法使いはかなり少ない。城の魔法使いでも、三割いればいい方だ。それを僕は使うことができる!」
「ふむ」

 ヤツの言葉に嘘はないが……
 しかし、精度は甘い。
 さきほどよりも狙いは雑で、より少ない動きで避けることが可能だ。

「サンダーランス」

 試しに俺も魔法を放つ。

 さて、どう防ぐ?
 あるいは、どうやって回避する?

 気がつけば俺は、ネコネのためということを忘れていて、純粋に戦いを楽しんでいた。
 魔法の打ち合いは楽しいから仕方ない。

「プロテクトウォール!」

 ドグは魔法の盾で俺の魔法を防いでみせた。

「はははっ、そんな魔法、効くわけがないだろう! この防御魔法も、限られた者だけが使うことができる。愚民には使うことはできない。選ばれたものだけが得る力だ! とはいえ、ふむ……なかなかやるようだね。今まで、僕と決闘をして、一分以上持った者はいなかったというのに」

 ドグは一度、動きを止める。

「君は、平民にしてはなかなかやるじゃないか。その力は認めてあげよう」
「どうも」
「だが、力は正しい者が導いてやらなければならない。そして、僕は正しい者だ。僕に従いたまへ」
「まだ、そのようなことを言っているんですか!」

 話が聞こえたらしく、戦いを見守っていたネコネが強い様子で叫ぶ。

「他者を強引に従えようとして、逆らえば罰と称して暴力をふるう。そのようなこと、正しいわけがないでしょう!」
「はあ……黙っていてくださいよ、無能王女は」
「……っ……」

 王女に対して、やけにひどい口を叩くものだけど……
 ヤツは不敬罪を気にしないのか?

 あと、無能というのはどういうことだ?

「で、返事を聞きたいな。もちろん、それは……」
「断る」
「……今、なんて?」

 即答されると思っていなかったらしく、ドグが顔を引きつらせた。

「だから、断る」
「この僕が慈悲をかけてやろうというのに、それを断る? なんて愚かな……いや。愚かだからこそ、平民なのか。常にバカな選択しかできない。本当に救いがたい愚かな……」
「ファイアランス」
「おぉう!?」

 ダラダラと話していたので魔法を叩き込んでみたのだけど、避けられてしまう。

「貴様……! 不意打ちとは卑怯なっ」
「決闘なんだろう? タイムとか、ないと思うが」
「生意気を言う……いいだろう。ならば、僕の最大の魔法で決着をつけてやろう!」

 ドグは距離を取ると、魔法陣を構築した。

 ふむ。

 ここで発動を阻止することは簡単なのだけど……
 学年主席の魔法、見てみたいな。

 そのまま様子を見ることにした。

「さあ、見ろ! 感じろ! この僕の膨大な魔力を!!!」

 ドグの魔力に反応して、足元に展開された魔法陣が巨大化した。
 おおよそ二倍のサイズに広がり、そのまま発光する。

「これこそが頂点に立つ者の力だ! 恐れおののいて、自分の選択を一生後悔するがいい! くらえっ、アストラルブラスト!!!」
「なっ!?」

 ドグが魔法を放つと同時に、ネコネが驚きの声をあげた。

「あれは、光属性の上級魔法!? そんなものを使用すれば、殺してしまいますよ!?」
「僕は、従えと警告した。それを跳ね除けた愚か者の責任だな」

 極大の光が迫る。
 それは、圧倒的な破壊力が秘められている。
 光の粒子が内部で嵐のように荒れ狂い、触れる者を分解。
 同じ光に昇華してしまうという、凶悪な攻撃魔法だ。

 そんな魔法が直撃したら、さすがに痛い。
 なので……

「ディスペル」

 アストラルブラストを消した。

「…………………………は?」

 忽然と魔法が消失した。
 その事実を認識できない様子で、ドグは間の抜けた顔をする。

「これは……な、なんだ? いったい、なにが起きた……?」
「基本的に、魔法は、魔力と構造式によって構築されている。魔力の流れを乱す、あるいは構造式に介入して書き換える……そうすることで、魔法の特性を強引に変化させたり、そのまま消失させてしまうことが可能だ」
「なにを……言っている?」
「簡単に言うと、お前の魔法を無効化した」
「なっ……!?」

 ドグはふらりとよろめいた。

「魔法を無効化する魔法……だと? 消滅魔法のこと……なのか? バカな……それこそ、ほんの一部の者しか使えない、超高等魔法なのに。平民などに使えるわけがない、ないのだ!?」
「さて。次は俺の番だな」

 足元に魔法陣を展開した。
 ヤツのような大きな魔法陣ではない。

 そもそも、大きくすればいいというわけじゃない。
 大事なのは密度だ。

 三重に魔法陣を構築した。

「立体魔法陣……!?  バカな、それこそありえないぞ!!!? 確かに理論はあるものの、未だ誰も実現させていないはずだ! 机上の空論でしかないはずだ。この世にあるはずのない技術なのに、いったいどうして……!?」
「それは」
「そ、それは……?」
「……よくよく考えると、律儀に教えてやる必要はないな」
「なぁ!?」
「くらえ……インディグネイション」

 神の裁き。
 それを体現するかのような雷撃を放つ。

 直撃させるとさすがにまずいので、ドグの横を走り抜けるように設定した。
 狙い通りに雷撃は駆け抜けるのだけど、

「がっ!?」

 ドグは余波で吹き飛んでしまう。

 それだけでは終わらなくて……
 結界を砕いてしまう。
 地面を大きく抉り、隕石が落ちてきたかのような有様に。

「ふむ」

 そんな光景を見て、俺は、

「結界は全ての魔力を吸収するわけじゃないのか? 一定量を超えると壊れる……まだまだ改良の余地がありそうで、その研究も楽しそうだな」

 という呑気なことを考えていた。

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