第23話 お風呂上りはやっぱりコーヒー牛乳だよね
王城の奥、王家の住む中央棟の1階に大浴場はある。
広い浴槽は源泉かけ流しのお湯で溢れ、濃厚な硫黄の香りがここが間違いなく温泉であることを意識させる。
少しとろみのあるお湯を手で掬い頭からかぶる。
うーん、良い気持ちだ。
やっぱり温泉は違うなあ、って言っても庶民は風呂すら入ってないけど。
そりゃ、風呂に入れるだけ水を汲むのも大変だし、ましてお湯を沸かすのはもっと大変だしな。
普通の庶民じゃ、タライにぬるま湯で行水がせいぜいってとこだよね。
やっぱり王城は違うな。なんたって温泉があるんだから。
うん? 待てよ、温泉って。この国は温泉が出るのか~!!!
そうか、じゃあ地下を掘ったら温泉が出たりして。
「ヒロシ様、お湯加減は如何でしょうか?
お背中お流しいたします。」
「ちょっちょっと。皆さん、俺はひとりで洗えますから。」
「「「いえ、これはわたし達の仕事ですから。」」」
風呂まで案内してくれたメイドさん達がいきなり入ってきて、ちょっと驚いたが、これもラノベの定番中の定番。
恥ずかしいけど、されるがままに。
かなりドキドキしたけど、残念ながらムフフ18禁のようにはならず、淡々と身体を洗われるだけで終わってしまった。
もちろん大切な場所を奪い合うことも無く、自分で洗わされたよ。
30分ほど温泉を楽しんだ後、タオルを腰に巻いたままクールダウン。
「お飲み物をお持ち致します。
ご希望はございますか?」
「コーヒー牛乳で。」
もちろん、風呂上りと言ったらこれ一択。
「コーヒー牛乳?
コーヒーと牛乳をお持ちすればよろしいでしょうか?」
「はい、ってコーヒーがあるのですか?」
「はい、最近西方諸国連合よりもたらされたという、あの黒くて苦い飲み物のことですね。
わたしには飲めませんが。」
あるんだコーヒー。
「そうです、そのコーヒーです。
あと牛乳も同量あれば助かります。」
「承知致しました。少しお時間を頂きますがよろしいでしょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
10数分後、俺の前に熱々のコーヒーと常温の牛乳が届けられた。
冷まさなきゃ。さあどうする?
そういや、水魔法中級を覚えたっけ。
たしか、氷も出せたよな。
「アイス!」
目の前の机の上に氷の塊が出現した。
そこに熱々のコヒーをゆっくり入れる。
少しづつ氷が解け始め、全てが入れ終わる頃には溶けなくなった。
その上に牛乳を入れてかき混ぜると、はいキンキンに冷えたコーヒー牛乳の出来上がり。
本当は砂糖を入れるのが正解なんだけど、どうも砂糖は高級品みたいだし、俺は入れない方が好みなのでそのまま飲むことにした。
「うん、美味い。」
氷からグラスに注いだ即席コーヒー牛乳を仁王立ちで腰に手を当てて飲む。
満足度満点で辺りを見渡すと、メイドさん達が興味深々でこちらを見ている。
「ちょっと飲んでみます?」
「「「はいっ!」」」
メイドさん達にコーヒー牛乳を作ってあげる。
おそるおそる飲む1人のメイドさん。
「美味しい!」
「マリア様、砂糖をお持ち致しました。」
「リリーご苦労様。あら、更に甘くなってこれも美味しいわ。
皆さんも頂きなさい。」
コーヒー牛乳に群がるメイドさん達。
砂糖入り派と無し派で半々くらいか。
「ヒロシ様。ありがとうございました。大変美味しく頂きました。
あのお、出来ればわたし達にもコーヒー牛乳を作る許可を頂ければと思うのですが。如何でしょうか?」
マリアさんとか言ったっけ。
たぶんメイド長か何かだよね。
「別に構いませんよ。国王陛下や姫様達にも作ってあげて下さい。」
「ありがとうございます。
王族の方々のみに提供させて頂きます。」
風呂上りのコーヒー牛乳1つで大騒ぎになったけど、そのまま控室に連れて行かれて、豪華な服を着せられた。
身体中に油や香水を振りかけられ、髭の手入れとか無駄毛を剃られたりと30分ほど。
いつの間にか部屋に入っていた、いかにも執事って人に連れられて、広い廊下を歩いている。
迷子になりそうな長い廊下を行くと、巨大で豪華な扉に行き着いた。
「さて、わたくしはこちらまででございます。
謁見の作法は、道中お話しした通りです。
中から扉が開かれましたら、中へお進み下さい。」
そういい終わると、執事さんぽい人は数歩後ろに下がり廊下の隅で控えている。
やがて豪華な扉が前方に開かれる。
真っ赤な絨毯と金色の太い柱が目に入った。
すげえ。本当に王城謁見の間だよ。
ラノベで見た通りだ。ちょっと違うのは、和風の壺が飾ってあるくらいかな。
そうそう、俺の衣装も裃だから、おかしくないちゃおかしくないわな。
「ヒロシ様、御出座ー。」
扉の内側にいた警備の人に促され、前に進む。
ちょうど部屋の真ん中あたりで90度回って正面、玉座の方を向く。
玉座というか畳敷でちょっと高い場所に豪華な椅子。
首には襞襟(子供の頃頭洗う時に被ってたやつみたいな)を巻いて、教科書で見たザビエルを金ピカにしたみたいな格好をした王様が座っている。
その隣には畳の上にじかに座っている豪華な着物を着た女性。
首には綺麗なミンクみたいな毛皮のマフラーが巻かれている。
少し離れて、中世ヨーロッパの社交界にいるような豪華なドレスに笏(公家さんが手に持ってるやつ)を持つ少女。
なんか中世ヨーロッパと江戸時代が混じっているみたいな変な空間がそこにあった。
そのおかしな光景に少し戸惑ったが、気を落ち着けて前へと進む。
たしか10歩って言われてたっけ。
そして片膝をついて顔を伏せる。
「そなたがヒロシ殿か。面をあげるがよい。」
国王陛下の声が謁見の間に響き渡った。