第21話 とりあえずお城に行くことになりました。
「如何でしょうか?」
ってことは、どういうこと?
えーと、誘ってくれているのがこの国のお姫様で、両親も喜ぶということは、国王や王妃に会うってこと?
無理!絶対無理!
だって王様だよ。
王様ゲームの王様じゃないよ。
やったことないけどね。
とにかく、無理だ。
何か断る理由を考えなくっちゃ。
お姫様の周りには、侍女だと思われる綺麗なお姉さんや、霊長類最強のあの人を彷彿させるようなガタイの良い騎士服の女の人達が居て俺を睨んでいる。
やっぱ無理。
あっそうだ。
今の俺って着の身着のままで風呂も何日も入っていないし。
だって、あんな綺麗な服を着て良い匂いもするし。
騎士服の人だって、清潔そうだし。
王様に会うのにこんな汚い格好じゃ失礼過ぎるだろ。
これは充分に断る理由になるぞ。
「すいません。お城には行けません。
こんな格好ですし、風呂も入っていないから汚いですので。」
「き、貴様、姫様にお声掛け頂き、あまつさえ温情を戴けるというのに、なんて不敬な奴だ。
貴様など、今すぐわたしが刀の錆にしてくれるわ。」
霊長類最強、おお怖~。
本当に刀を抜いちゃったよ。
ほーら、狭い店の中で刀なんて抜くから、棚やワゴンに当たってるじゃないか。
「やめなさい、ルシール。
この方は、わたし達の命の恩人ですわよ。
それに、あなたには一瞬で10頭近いシルバーウルフを倒せるのですか?
この方が本気になったら、わたし達なんて瞬殺ですよ。」
お姫様かなりおかんむりのようです。
「し、失礼いたしました。ではこんな奴…失礼、この方が、ランス副団長がおっしゃっていた姫様の探し人でございますか?」
「ええ、そうです。間違いありません。」
姫様はルシールを諫めながら俺の方を向く。
「伴の者が大変失礼いたしました。
わたしはこの国の第2王女イリヤ・フォン・エレクトスと申します。
お名前をお聞きしても構いませんか?」
「俺、いやわたしはヒロシと言います。」
「ヒロシ様、ヒロシ様のご都合もお聞きせずに、突然お誘いして申し訳ありませんでした。
改めてお誘いさせて頂きたく思いますので、お住まいだけでもお教え下さいませんでしょうか。」
「クマの手という宿屋に泊まっています。」
「では、改めてお誘いさせて頂きますので、その時はお受け下さいませね。」
面倒なことになりそうな予感がするな。
この国を出ることも考えた方がいいかも。
「あっ、そうそう、王城内には大きなお風呂がございますのよ。
是非お待ちしておりますね。」
「はい、お邪魔させて頂きます。」
たくさんの荷物に囲まれて、王城に戻って行く姫様が最後に残した言葉に思わず即答してしまった。
日本人だから仕方ないよね。
すぐ後に出てきたミーアを連れて、俺は冒険者ギルドに向かった。
「あら、ヒロシさん。今日はお休みじゃなかったの?」
受付にいたミルクさんが俺を見つけて、声をかけてくれる。
「ええ、そうなんです。
ミーアの身支度を揃えに買い物に行ってたんですけど、面倒なことに巻き込まれてしまって。
ホールドさんに相談しようかと。」
「分かったわ。今なら部屋にいると思うから、一緒に行きましょう。」
トントン
「ギルド長、少しお時間よろしいでしょうか?」
ミルクさんと一緒にギルド長室に入る。
「やあヒロシ君。どうしたのかな?」
俺は先日の犬っころを倒した話しや今日の姫様とのやり取りをギルマスに話す。
もちろん転移とか、能力のことは話していない。
「そうか、実はこの前のシルバーウルフによるイリヤ王女の件については、俺のところにも話しは来ていたんだよ。
でも実際にイリヤ様達が見たわけじゃ無いし、探しようが無くて困っていたんだ。
そうか、ヒロシ君がその時のヒーローだったわけだ。
それで君を偶然見つけたイリヤ様に城に誘われたと。
今日着いて行かなかったのは正解だな。
ミーアを連れて行っていたら、魔法師団長のマリルに魔人だと見破られて、大変なことになっていたかもしれないからな。」
本当だ。ミーアが魔人だということをすっかり忘れてた。
「まぁ、経緯から考えると王城に行くのは決定事項みたいだから、行かなきゃ行けないだろうね。
その間ミーア君は、わたしが預かっておくよ。」
俺はホールドさんにお礼を言ってミーアと一緒に「クマの手」に戻った。
クマの手の俺の部屋に、立派な紋付き袴と手紙が届いたのは、翌日の早朝のことであった。
昼前には迎えに来ると手紙に書いてあったので、俺はランスさんに休みをもらい、ミーアを連れてギルドに向かった。
ミーアをミルクさんに預けて、部屋に戻った俺を待っていたのは、クマの手ご主人のシモンさんと数人の女性。
部屋の真ん中には大きなタライが置かれてお湯が張ってある。
「ヒロシ様ですね。イリヤ王女様の指示によりお迎えに上がりました。
とりあえずこちらに服を脱いでこちらにお浸かり下さいませ。」
タライを指差され、俺は悟った。
小一時間後、身体中を綺麗に磨かれ紋付き袴に身を包んだ俺は、いつの間にか玄関で待っている豪華な馬車に乗せられて、お城に向かっていたのだった。