288章 地獄絵図
ミサキは海鮮焼きそばを完成させた。
エビ、イカ、ソースは香ばしさを感じた。香りをかいでいるだけで、幸せな気分になれる。
「シノブちゃん、できたよ」
「ミサキさん、腕をあげましたね」
ミサキは褒められたことが嬉しかったのか、頬の筋肉はおおいに緩んでいた。
「シノブちゃん、ありがとう」
シノブはできたての焼きそばを、お客様のところに運んでいく。
「焼きそばになります。ゆっくりとご堪能ください」
女の子の甲高い声が、厨房にはっきりと届いた。
「大食いガールの焼きそばに近いよね。焼きそばの盛り付け方に、とっても特徴がある」
「そんな感じはするね。食材の香りも、いつもよりも柔らかい」
オリジナル焼きそばになったことで、個性ははっきりとあらわれるようになった。焼きそばの見た目だけで、誰が作っているのかわかることもある。
「ミサキちゃんはお休みと書かれていたけど、出勤しているのかな」
「それはないと思う。大食いガールは、休日出勤しないよ」
「出勤していなければ、焼きそばに説明をつけられないよ」
女性客の一人は、シノブに声をかける。
「シノブちゃん、大食いガールは出勤しているの」
「はい。午前中だけですけど・・・・・・」
「ホームページには、欠勤と書かれていたよ」
「他の店員が欠勤したので、ピンチヒッターとしてお呼びしました。従業員の人数の関係で、極秘情報にさせていただいています」
5人分の仕事を2人でするのは無理。シノブのやり方は、妥当といえるのではなかろうか。
「ミサキちゃんと会話したい」
「申し訳ございません。今日は焼きそばづくりだけを、やってもらうようにします」
シノブの口調からは、苦渋の決断であることをうかがわせた。
「ミサキちゃんの焼きそばは食べられる?」
「はい。そちらは問題ありません」
「ミサキちゃんの焼きそばを食べられることを、友達に発信しよう」
「そうだね。友達も食べたがっていた」
「私も友達に連絡するぞ」
シノブは三人に対して、補足を付け加えていた。
「人数が増えすぎた場合、サイン会、握手会に変更することもございます。あらかじめご了承ください」
「そっちのほうがいいかもね」
「うん。サイン会、握手会ならもっと喜ぶ」
「友達にすぐに連絡を入れないと」
3人の会話を聞いて、混雑は避けられない見通しとなった。シノブは未来の混雑に対して、頭を抱えていた。