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440 出発の朝(またまたフゥ視点)

朝日が登ろうとするその頃、精霊樹の下では⋯

『それでは行ってまいりますですわ』
『行ってきますにゃ』
『アイナ、くれぐれも気をつけてくださいませね』ぎゅっ
『はい。お姉様。必ず無事に帰ってきますわ』ぎゅっ
抱き合って無事の帰還を約束するアイナ様とリノ様。朝から美しい光景です。

『ニャーニャもアイナから離れないでくださいませね。なんでしたらこのリボンでお二人を結んで差し上げましょうか?』はあはあ
『結構ですにゃ!』シャーッ!
はあはあしながらアイナ様とニャーニャにゃんを結びつけようとする変た⋯リノ様。

『お姉様⋯』はぁ⋯
『あん。絶対にお似合いですのにぃ』
『いらないにゃ!』シャーッ!
リノ様、そのピンクのフリフリのおリボンはどこから?ニャーニャにゃんが思いっきり威嚇してます。先程の美しい光景はどこへ⋯台無しです。

『まったく朝っぱらから何やってんだ』バシッ
『痛いっですわ!』
『まったくだよ。アイナ様、私らの分も里を頼むよ』バシンッ
『またっですわ!』
『かしこまりましたわ』
『まかせるにゃ!』
おかみさんが今度はアイナ様の手を取って、親方はニャーニャにゃんの頭をぐりぐりして挨拶をかわします。後ろには聖域に暮らすドワーフさんたちがずらり。みんな里に残っている家族や仲間が心配なのです。
『酷いですわ』
そしてリノ様、涙目ですね。背中痛そう⋯ドワーフさんたち力強いですしね。でも仕方ないです。耐えてください。

〖医神、アルコン、お願いね〗
〖アイナとニャーニャのこと、守って上げてください〗
〖分かってますよ。大丈夫。しっかり守りますよ。ですね?アルコン〗
『ああ。任されよう』
神様たちとアルコン様も挨拶をしてると、そこに

『おーい。待ってくれ』
ばたばたと大きなバスケットを持ったゲンさんと山桜桃ちゃんと春陽君が走ってきました。

『ゲンさん?どうされましたか?』
『おはようにゃ。三人ともどうしたにゃ?』

『おう。おさようさん。アイナ様たち朝飯食わずに行くんだろ?有り合わせのもんで悪いが片手でも食えそうなもん中心にコイツに入れといたからよ』
そう言って、にゅっと持っていたバスケットを差し出すゲンさんと山桜桃ちゃんたち。
『今はまだ早朝で食べる気にはならないかと思いますので、適当な時にお召し上がりください』
『一応、何かあった時に備えて二食分と、人数が増えるかもしれないと思いまして少し多めにご用意してます』
『非常用と思ってくれればいいぞ。インベントリに入れときゃ腐らないだろ?だから一気に全部食うなよ?特にアルコン様にエル様』
バスケットをそれぞれに渡すゲンさんたち。釘を刺すのを忘れません。お二人の食べっぷりはすごいですから。特にエル様はあの細い体のどこに入るのか不思議です。アルコン様は、元が大きなドラゴンですから、少しは納得できますが⋯

『分かっている。いくらなんでも一度には食わん。まあ、ありがたく頂戴する』
〖ありがとうございます。朝早くからこんなに。大事に食べますよ〗
そう言っていそいそとインベントリにしまうアルコン様にエル様。本当に大丈夫かしら?

『ありがとうございますですわ。こんなにたくさん、よろしいのですか?』
『ニャーニャにもこんなに用意してくれたにゃ?なんか申し訳ないにゃ』
『大丈夫だよ。気にすんな!それより朝飯は一日の活力だからな?ちゃんと食えよ。スープと飲みもんも入れといたからな。水分補給も忘れずにするんだぞ』
ゲンさんてば、最早みんなのお母さ⋯(ギロッ)んんん。おとうさんですね。

『わかりましたわ。ですが、ゲンさんも、山桜桃ちゃんと春陽君も寝ていないのではないですか?』
『嬉しいけど無理はしないで欲しいにゃ。あとでちゃんと寝てにゃ?』
申し訳なさそうに受け取るアイナ様とニャーニャにゃん。

『大丈夫。言ったろ?有り合わせのもんで申し訳ないって』にかっ
『作り置きしてあった物を詰めただけですので、そんなに時間はかかってないんですよ』にこっ
『ちゃんと睡眠はとりましたので、安心して受け取ってください』にこっ
もちろん、有り合わせだけということはないのだが、そこは内緒。まあ、気付かれてるだろうけど。

『そうですの?では、ありがたく頂戴致しますわ』
『ありがとにゃ。あとでちゃんと休んでにゃ?』
『おう!』
『『はい!』』
アイナ様たちもようやく安心したのか、バスケットを、インベントリにしまってくれました。ちゃんと食べてくださいね。山桜桃ちゃん達は私たちが後で無理やりにでも休ませますから。

『アイナもニャーニャも気をつけてねぇ。これ、あげるわぁ。着けてねぇ』パチンパチンっ
ふらぁっと現れた結葉様がアイナ様とニャーニャにゃんの手首に何かをはめました。ん?着けてね~って着けながら言うセリフでしょうか?

『これは?石ではないですわね?つるつるで気持ちいいですわ』
『それに見る角度で色が違うにゃ!とってもキレイにゃ!』
アイナ様とニャーニャにゃんがしげしげと手首にはめられたものを見てると

『あらあらまあまあ、それって琥珀じゃないかしらぁ?』
『ああ。綺麗な黄金色だな、でも赤みもあるよな。珍しいな』
凛さんとゲンさんが琥珀ではないかと言い出しました。琥珀って、樹液の化石だったっけ?でも、もっと黄色いものじゃ?蜂蜜みたいな黄色も入ってるけど茶色に近い?赤みがかってキレイ。

『それはねぇ、精霊樹の樹液を私の魔力で固めて作ったバングルよぉ。ワンポイントで精霊樹の新芽も入ってるの。お守りくらいにはなるわよぉ。私とも繋がりやすくなるしぃ♪はい。リノちゃんにもあげるぅ。お揃いよぉ』ぱちん
『ええ?私にまで?』
『そんな貴重な物を!?』
『ああっほんとにゃ!ちっちゃい葉っぱが入ってるにゃ!』
慌てて確認するアイナ様たち。そして

『お母様!体調は大丈夫ですの!?』
『そうですわ!この大きさをしかも三つも!』
『精霊樹様もにゃ!大丈夫にゃ?』
『うふふ。大丈夫よぉ』
『安心しろ。その位なら今の我らには負担にはならんよ』
慌て出すアイナ様たちに、結葉様と精霊樹様は笑って大丈夫と仰ってますが、それでもアイナ様たちは結葉様のお顔やら体やらをぺたぺた触って大丈夫か確認してます。でも、精霊樹の樹液なら普段から使ってるような?

〖フゥ、あれはいつも使っているものとは別格だわ。篭ってる魔力が違うもの〗
『ジーニ様?』
ええ?私声に出てたかしら?

〖ふふ。さあ、どうでしょうね?そうそう。あれはね、ちょっと特別なのよ。ん~そうね、いつもの樹液を汗とか涙とかに例えるなら、あれは血液みたいなものね〗
〖しかも、新芽という新しい息吹まで入っていますからね。お守りなんて軽く言ってますけど、そんじょそこらの結界より効き目がありますわよ〗
ジーニ様に加え、シア様も教えてくれたことにびっくりです。

『血液!?だ、大丈夫なんですか?』
『結葉様もだけど精霊樹様は?』
クゥも心配になったみたいで、話に入ってきたわね。
〖多少無理してるでしょうね。でも、サーヤの名付けのお陰で以前より回復してるから大丈夫でしょう。まあ、カッコつけさせてあげましょう〗ふふ
〖そうですね。珍しく母親らしくしてますからね。多少の痩せ我慢は大丈夫でしょう〗ふふふ
ジーニ様とシア様が笑って言ってるけど⋯!

『そ、そんな、あの結葉様が⋯?』よろり
『結葉様、母親だったんですね!初めて実感しました⋯!』よろり
クゥと二人で思わずよろけちゃったわ。だってあの結葉様が⋯!驚愕です!!

〖フゥ、クゥ、 何気に酷いこと言ってるの分かってる?〗
〖まあ、日頃の結葉を見てたら無理もない⋯ですかね?〗
ジーニ様には呆れられ、シア様には苦笑いされてしまいました。確かに、不敬だったかな?でも、でもでもでも!!あの結葉様が!!

〖結葉に対する皆の認識がうかがえるわね〗
〖そうですね。ドワーフたちを見てください。みんな顎が外れそうですよ〗
あっ。ホントだ。みんな目も口も開いたまんま固まってる。みなさん、分かりますよ。

〖みんな、結葉を分かってるようで分かってないわね〗ぼそっ
〖そうですね。曲者の結葉ですからね。絶対に裏がありますよね〗こそっ
ジーニ様たちが何か言ってたみたいだけど、この時の私たちは聞こえてなかったの。

『お母様、ありがとうございますですわ。大切に致しますわ』
『ニャーニャもにゃ!大切にしますにゃ!ありがとにゃ!』
『私、今回はお留守番ですのにてありがとうございますですわ。大切に致しますわ。お母様』
『うふふ。いいのよぉ(むしろこれはリノちゃんの為だしぃ)』
『『え?』』
『何か言ったかにゃ?』
『ん~?何も言ってないわよぉ?』くすくす
『『そうですの?』』
『そうかにゃ~?』
あれ?結葉様のお顔が?なんか、ニヤーってした?

〖ほらね?やっぱり〗ぼそ
〖なにか企んでますね〗こそ
ん?ジーニ様たちも何か言ったかしら?

〖それでは、そろそろ行きましょうか?〗
『そうだな。サーヤたちが起きても困るからな』
『わかりましたわ。では、参りましょうか』
『はいにゃ!行ってきますにゃ!』
アルコン様の一声で皆さん出発するようです。

〖行ってらっしゃい。気をつけるのよ〗
〖無理はしないようにね〗
『助けがいる時は直ぐに連絡を』
次々に留守番組が声をかけます。

『ギン様ありがとにゃ』
『そうですわね。無理をして誰かが傷ついたら、サーヤちゃんたちが傷つきますものね』
『そうだな。必ず連絡すると約束しよう』
〖そうですね。油断せずに対策は多い方がいいですからね〗
皆さん、お約束くださいました。そうですよ。皆さんに何かあったらサーヤが号泣しちゃいますよ!

〖では、今度こそ〗
『ああ。行くとしよう』
『『行ってきますですわ(にゃ)』』
転移の魔法の光と共にアイナ様つが消えていきます。

『『『『『行ってらっしゃい』』』』』

みんなで声を揃えてお見送りします。皆さん、どうかご無事でお戻りください。

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