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438 夜の食堂で⋯(フゥ視点)

光の精霊の月花様と、光の精霊王様リノ様に振り回されたその夜。

『みんな寝たな』
サーヤたちは気持ちよさそうに、ふかふかのお布団でタオルケットにくるまって寝ています。

「す~す~。ふへ~」
ちょっとずれた掛け布団を直すと、サーヤの顔がへにゃっとなった。それにしても、サーヤ?いつもながら、「ふへ~」って何?幸せそうな顔だからいいか。

『そうね。それじゃ行きましょうか』
私とクゥでちびっこたちを寝かしつけてから、私たちは食堂に移動した。そこにはすでに聖域に暮らす主な大人たちが集まっていて

『『ただ今戻りました』』

『おう!ありがとな!』
『あらあらまあまあ。サーヤたちはちゃんと寝たかしら?』
私たちに気づいたゲンさんと凛さんが、ちびっこたちの様子を聞いてきました。

『はい。みんなタオルケットにくるまって寝てますよ』
『サーヤは相変わらずふやけた顔で寝てました。ふへ~って』
クゥも同じこと思ってたのね。

『くくっ。またか』
『あらあらまあまあ。おおかたもふもふに埋もれてる夢でも見てるんじゃないかしら?ふふふ』
『『そうかも』』
ゲンさんと凛さんも、仕方ないな~と笑いながらも安心したような顔をしてるわね。サーヤにはいつでも笑っていて欲しいと思うのは、みんな共通の思いだものね。ゲンさんと凛さんは特に⋯

『お茶です。夜なのでハーブティーをご用意しました。どうぞ』
『夜なので軽いおつまみですが、どうぞ』
食堂では山桜桃ちゃんと春陽君が皆さんにお茶を配ってます。二人はどんな時でも抜かりはありません。準備万端、急な集まりであろうとお茶やお菓子は欠かしません。すごい!偉い!

『ありがとな。山桜桃に春陽。みんな適当にやるからお前たちも座っていいぞ』
『そうだよ。あとは自分らで勝手にやるから大丈夫さね。特に私らはお茶よりこっちだしね』
そう言って一人一瓶、酒瓶を掲げてニッと笑ってみせるドワーフさんたち。マイボトル?

『は、はい。では何か足りない物などございましたら』
『ご遠慮なく仰って下さい』
ペコっと頭を下げる二人に他のみんなも
『気にしないでいい』
と、言ってくれたので二人はようやく座る気になったみたい。

『山桜桃ちゃん、こっちおいでよ』
『春陽君もこっちこっち!』
手を振りながら声をかけると、私とクゥのいるテーブルに少し申し訳なさそうな顔をしながら向かってくる二人。真面目です。
神様に保護されるまで、酷い扱いを受けていたという二人はどうしても一歩引いてしまうみたい。
ちょっとずつ、良くなってるけど、はやく気を使わないでくれるようになってくれるといいのに。
二人が席に着くと


〖さて、またまた新しい仲間が増えたわけだけど、他の精霊王達も近い内に来るのよね?〗
ジーニ様が長い足を組んでお茶を飲みながらリノ様や結葉様、アイナ様たちに確認を始めました。
なぜ足を組むだけなのに色気があるのでしょうか?ずるいです。

〖はい。私がこちらに来てからすぐに他の精霊王たちに連絡をしましたので、直にいらっしゃるかと。ただ、お姉様たちもお兄様たちも何分自由な方たちなので〗
『いつ来るか正直分からにゃいにゃね~』
アイナ様とニャーニャにゃんが頬に手を当てながら双子のようなポーズでそう言うと

〖まあ、結葉を見てれば納得ね〗
そうですね⋯皆さんもジーニ様の言葉にうんうんと頷いてます。
『ええ~?どういう意味かしらぁ?』
結葉様ほど自由な方はいらっしゃらないと皆さん思ってると思います。だって揃ってジトーっとした目をなさってます。きっとわたしも。思っていないのはご本人だけかと⋯

『そのことなのですが、実は私以外の精霊王が来るのは少し遅れますわ』
リノ様が皆様まだ来られないとおっしゃいました。遅れると『思う』ではなく『遅れる』と断言なさったけど、何かあったのかしら?

『え?そうなのですか?』
『何かあったのにゃ?』
驚いて聞き直すアイナ様たち。おふたりも何も聞かされてなかったようです。まあ、ドタバタしてたから仕方ないかな?

『ええ』
頷くリノ様を見るお二人のお顔から察すると、またいつもの気まぐれかと軽く考えていたと思われるのだけど、
『お姉様?』
『リノ様?』
肯定するリノ様のお顔は怖いくらい真剣なものでした。昼間とは別人のようです。あまりの変わりようにアイナ様たちも戸惑われてるみたい。

〖どうやら何かあったようね。聞かせてくれるかしら?〗
足を組み直し、空になったカップに自分でお茶を足しながらジーニ様がリノ様に話すように促します。まあ、そのティーポットはジーニ様の魔法で浮いてるので、ジーニ様は手を全く動かしてないんだけど。

『リノちゃん、何があったのぉ?』
結葉様もリノ様の肩に手を置いてお聞きになってます。私が見ても硬い表情のリノ様に結葉様も心配そうなお顔をされてます。普段はふざけ⋯コホン。軽⋯ゲホゲホ。えっと、と、とにかく、そんな結葉様もお母様なんですね。

『はい。実は途中まで闇の精霊王と一緒だったのですが』
『あらぁ相変わらず仲がいいのねぇ。お母様嬉しいわぁ。でも、途中まで一緒だったならなんでここまで一緒に来なかったのぉ?』
『お母様、それがですね⋯』

光の精霊王リノ様と闇の精霊王様は、実は大変仲の良いことで有名な双子の姉妹でいらっしゃいます。光と闇は表裏一体。全く逆の存在なれど、お互いなくして存在はありえない。小さい頃からそれはそれは仲睦まじく何をするのも一緒だったと結葉様も仰ってました。
『もうねぇ、じゃれあって遊んでる姿なんて、わんこがじゃれあってるみたいでねぇ。寝る時なんて必ず手を繋いで寝てたくらいなのよぉ。可愛かったわぁ』
『お母様!恥ずかしいからやめてくださいませ!』
『ええっダメですわ!もっと聞かせてくださいませ!』
『そうにゃ!聞かせてにゃ!』
『あのねぇ~夜おねし⋯』バシっ
『お母様!黙って下さいませ!』
『もがもが~』
『ああっお姉様!』
『結葉様の口から手を離すにゃ!』
という感じで。
なので、妖精や精霊の間では光と闇の精霊王様がお互いを思いやる大変仲の良い姉妹だということは有名なお話なのです。なのに勝手な人間やエルフたちときたら!⋯っと、それは今は置いといて

『それがですね、どうも外界の様子がおかしいのですわ』
え?どういうこと?

〖外界⋯とは、聖域の外の事ね?おかしいとはどういうことかしら?〗
『はい。ねぇ、アイナ。アイナはここに来るまでにおかしいと思ったことはなかったかしら?』
ジーニ様の問に対し、リノ様はアイナ様に質問なさってます。どういうことでしょうか?

『私ですか?申し訳ございません。私は転移で直接こちらに来ましたので外界の様子は見ていないのですわ。ね?ニャーニャ』
『はいですにゃ。ドワーフの里にいた時も気づかなかったにゃ』
『そう。では、ドワーフの里の周辺に異変はありませんでしたか?』
『異変、ですか?特には』
『なかったにゃよね?』
リノ様に質問されて、思い出そうとされているアイナ様とニャーニャ様。う~んとこめかみに指を当てて、やはり同じポーズで悩んでいらっしゃいますが

『私たち、そう言えばここの所、引きこもりでしたからね』
『そうにゃよね。里が居心地よすぎて全く外出てなかったにゃ』
『『う~ん』』
引きこもり⋯ですか。

『では、質問を変えますわね。どうして引きこもりになったのかしら?』
悩むアイナ様にリノ様が新たな質問をされました。確かに。明るい性格のアイナ様とニャーニャ様です。社交的とも言っていい方たちなのに引きこもり?確かに違和感があるような?

『どうして?どうして⋯そうですわ。私たちの里を出てお散歩してるとなんだか少し気分が優れない気がして』
『そうにゃね、気にしないくらいの違和感が重なって次第に⋯』
『おかしいですわね⋯』
『そうにゃね⋯』
顔色を青くして黙り込んでしまいました。

『そうなのですわ。私たちも同じでしたの。今回、私たちはお互いのパートナーであるフェニとグリに乗って、空からこちらに向かっておりましたの』
後から聞いたお話ですが、パートナーとは、フェニ様がリノ様の聖獣のフェニックス様、グリ様が闇の精霊王様の聖獣グリフォン様だそうです。
『アイナのニャーニャと同じですわ。とってもいい子たちですのよ』
『ええ。美しくてかわいいですわよね』
『ニャーニャにも優しくしてくれるにゃ。いつも精霊王様たちのネーミングセンスの無さに三人で嘆いてるのにゃ』
と、仰ってました。ネーミングセンス⋯確かに。
『あら、何が悪いのですの?』
『そうですわ!これ以上の名はないではありませんか!』
『『ね~』』
『自覚なしにゃ。救いようないにゃ』しくしく
あははは、ニャーニャ様ごめんさい。ノーコメントとさせていただきます。

『それで久々に空から地上を見て気づいたのですわ。違和感に』
違和感、ですか?

『⋯やはりか』
じっと目を閉じ、腕を組んで椅子にもたれるようになさっていたアルコン様。組んでいた足を下ろして、今度は机に肘を着くように座り直されました。その仕草がいつもより思い詰めているような、そんな印象を受けました。

〖アルコン?〗
ジーニ様も何かを感じ取られたようで、他の皆さんもアルコン様に注目されています。

『いや、我も今日まで気づかなかったのだが、月花を探している時に、ふとな⋯』
〖そう言えば、あの時何か感じてたわね〗
『ああ』
アルコン様はリノ様のお話に思い当たることがあるようです。アルコン様とジーニ様はあの場では相応しくないと思い、お話を保留にしていたようです。

『私たちはいつからか外界とあまり関わらなくなりましたわ。傲慢な人間とエルフ達に嫌気がさしたのも要因の一つ。ですが、闇のが言ったのです。そもそも、人間やエルフたちもいつから、何がきっかけでこうなったのかと⋯遠い遠い昔、私たちは確かに共にいたのに、と⋯』

しーん、と、水を打ったような静けさです。

『そこで、空の上から下界を見渡して更に気づいたのですわ。目を凝らさなければ気づかない靄のようなものが点在していることに。アイナ、あなたは私たちの誰よりも強い眼を持っていますわね。すなわち、私たちの誰よりも感じる力が強い。ですから⋯』
『無意識にその違和感から逃げていた。ということかしらねぇ?』
言葉を引き継いだ結葉様に、こくんと頷くリノ様。
『そんな⋯』
『ご主人⋯』
更に顔色を悪くされるアイナ様にニャーニャ様が頭を擦り付けて慰めています。

『更に言うと、その『気づかない』というのが一番気持ち悪い。違和感に気づいているのに気づいていない。こんな気持ちの悪いことはない』
眉間に皺を寄せて話されるアルコン様の言葉にみんながハッとしました。

『そうですわよね。ですので、私と闇のは姿を隠して近くの靄のようなものに近づいて、様子を見てみたのですわ』

え?精霊王様たち、自ら?

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お読みいただきありがとうございます。
今回、久々のちょっとシリアス回。フゥ視点を混じえてみました。長くなりそうなので、ここで切らせてもらいました。

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