275章 神の恵み
玄関の扉を開けると、パン屋で働く女性が立っていた。
「ミサキちゃん、ヤッホー」
ホノカは会うたびに、気さくな性格になっている。焼きそば店から解放されたことで、本来の良さを開花させているように感じられた。
彼氏と過ごしていることも、プラス材料になっていると思われる。ホノカは人生の絶頂期を迎えている。
「ホノカちゃん・・・・・・」
ホノカは右手に、大きめの袋を抱えている。
「ミサキちゃん、パンをおすそわけ。おなかのすいたときに食べてね」
自販機の故障もあって、いつもの100倍、200倍もありがたく感じられた。
「ホノカちゃん、ありがとう」
ミサキは空腹なのか、とんでもないスピードでパンを食べ進めていく。10個のパンは、3分と立たないうちになくなった。
パンを食べたことで、少しばかりの元気を取り戻す。30~40分くらいなら、問題なく動けそうだ。
「ミサキちゃん、すごいスピードだね」
「おなかがすいてしまって・・・・・・」
「自販機はどうしたの?」
「メンテナンス中で、2時間くらい使えないみたい」
ホノカの視線の先に、エマエマ、シノブが顔を見せる。
「エマエマさんがどうしてここに・・・・・・」
「諸事情があって、しばらくはうちに泊まることになった」
普段はゆったりまったりしている女性は、鼻息が非常に荒くなっていた。エマエマと顔を合わ
せたことで、理性をしばし忘れてしまったようだ。
「エマエマさん、曲を聞かせていただけないでしょうか?」
エマエマは首を縦に振らなかった。
「ミサキさんの食事が最優先です」
シノブはパン屋の娘に声をかける。
「ホノカさん、食料を買い出しに行きましょう」
「シノブちゃん、OKだよ」
シノブ、ホノカは食料の買い出しに向かった。ミサキ、エマエマは二人の背中を静かに見守っていた。