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(22)無茶な依頼

「そうなると……、シーラは加護判定を受けていない貧民層出身で、まさか加護のせいでそんなことになっているとは、自分も周囲も考えが及ばなかったんですね?」
「そういうことだ。メリアの場合はれっきとした公爵家の血筋だが、公爵が愛人に産ませた子供でね。食中毒から全員が回復した後、『メリアが毒キノコを入れて自分達を殺そうとした』と公爵夫人が訴えて、殺人未遂で投獄されそうになった」
「なんですか、それは! 言いがかりにもほどがありますよ?」
 ロベルトは呆れ返り、怒りの声を上げた。カイルも半ばうんざりしながら話を続ける。

「元々、氏素性の知れない愛人が産んだ娘なんて、正妻には目障り以外の何者でもなかったんだろう。メリアの他にも、婚外子を数人引き取っているし」
「うわぁ、ろくでもねえ……。あ、いや、失礼しました」
 思わずロベルトは本音を漏らしたが、カイルは苦笑したのみだった。

「いいさ。一応血の繋がりのある叔父だが、数多くいる頭を下げたくない品性下劣な人間のうちの一人だ」
「言いますね。でも……、公爵家? 叔父、ですか?」
「公爵家当主夫妻である大叔父上達の間に子供がいないからと、先代陛下が父の異母弟を押しつけて、公爵位と領地を乗っ取らせたんだ。それで大叔父上は、公爵邸ではない別の屋敷に住んで、宰相としての俸給だけで生活している」
 かつて近衛騎士団勤務なだけあって、王家の系図は記憶にあったらしいロベルトが、現宰相についての情報を頭の片隅から引っ張り出す。

「宰相閣下と養子縁組したってことですか……。本当にろくでもないな。でもそうするとメリアさんはれっきとした王家の血を引いていて、カイル様とは従姉弟に当たる関係ですよね?」
「代々王家は子沢山だから、従兄弟《いとこ》再従兄弟《はとこ》は何人いるか正確には分からない。一生顔を合わさない人間の方が多いと思うし」
「それはそうでしょうね」
「大叔父上は爵位と領地は譲っても家中の権威までは失っていなかったから、義理の息子夫婦の騒ぎを一喝して、自分の屋敷にメリアを引き取ったんだ。それで話を聞いて、もしかしたら何らかの加護が働いたかもしれないと推察し、色々試して詳細が判明したらしいな」
 そこでロベルトは、新たな疑問を口にした。

「メリアさんは公爵家の血を引いているのに、加護認定とかは受けていなかったんですか?」
「公爵家に引き取られたのは八歳で、それまでに加護認定は受けていなかったからな。引き取られた後も、何もしていなかったそうだ」
 その説明を聞いたロベルトは、納得して頷く。

「そういう事情ですか。その夫婦も馬鹿ですね。そんな無敵の加護保持者、護衛に重宝しますよ」
「大叔父上は『変な奴らに気付かれるとまずいし、あの加護を最大限活かすために、お前付きにしようと思う』と言って私の側近にしたのだが……。未だに私が、彼女に相応しい主君であるかはどうかは分からない」
「そう卑下するものでもないでしょう。なかなか良い主君じゃないかと思いますがね」
「そうかな?」
 少々照れくさそうに笑ってから、カイルは表情を引き締めて話を変えた。

「話が長くなってすまないが、これからが本題だ。昨夜、君に『加護は祝福ではなく試練ではないか』と言ったのは、今語った通り、加護があらゆる人間に幸福と安寧をもたらすものではないと思っていたからだ」
「はい、俺もその通りだと思います」
「昨夜、じっくり考えてみた。私の加護は大体どういうものか推察できたが、今後もきちんと行使できるかどうか分からない。もしかしたら暴走とか加護の収奪以外の働きが、出てくるのかもしれない。万が一そうなってしまった場合、手段は問わないから私を止めて欲しい」
 真剣な面持ちで告げられ途端、ロベルトは綺麗に表情を消した。そして少ししてから、押し殺した声で確認を入れる。

「……伯爵? 自分が言った事の意味を、本当に分かっていますか?」
「そのつもりだ。加護持ちの上、私付きで色々苦労してきた皆に、間違っても危害を加えたりしたくない」
 すこぶる大真面目に述べたカイルに、ロベルトはかなり嫌そうに言葉を返した。

「力尽くってことになりますと、まず俺が伯爵の周囲に恨まれた挙句、孤軍奮闘しないといけなくなると思うんですがね?」
「それは重々承知の上なんだが、加護がなくなって心底安堵していたらしい君の顔を見ていたら、やってくれそうな気がした」
 そんな事を微笑みながら言われてしまったロベルトは、小さく舌打ちして腹を括った。そして苦笑いの表情になりながら、悪態じみた台詞を吐く。

「ああ、もう、仕方がありませんね! 分かりました! そんな万が一の緊急事態の時は、伯爵をぶん殴るなり手足の腱を切るなり川に突き落とすくらいのことはやってあげますよ! 安心して、俺の主君をやっていてください!」
「そうか。ロベルト、よろしく頼む」
「ええ、お任せください」
 カイルはそこで笑顔になり、軽く頭を下げた。そんな主君をしげしげと眺めながら、ロベルトは一人、考えを巡らせる。

(本当に、性格の良い元王子様だよな。かと言って、あの一癖も二癖もある連中が主君と認めているってことは、お飾りとか世間知らずってわけでもなさそうだ。他にやりたい事もないし、俺がどの辺りで一番役立てるのか、じっくり見極めていけば良いか)
 密かにそんな決意をしたロベルトは、それから少しの間カイルとの雑談に集中した。カイルはロベルトの放浪中の話に予想以上に食いつき、次の休憩までの時間を最大限有効に使うことになった。


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