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32話 魔剣の封印を解いた女が聖女になれるわけがない

「なんで、発動しないのよ!! この!! この!!」

フランソワ様が、ソフィア様の持つ魔剣に浄化魔法を放とうと何度も試みているが、一度も発動に成功していない。当然だ、発動するわけがない。

「クロード、私に何をしたの!?」

聖女候補にとって、浄化魔法こそが聖女になりえる鍵である以上、発動しないと言うことは、今後2度と聖女に選ばれないことを意味する。大方、僕が何かをしたと思っているのだろう。

「そんな顔で睨まないで下さいよ。僕は、何もしていません。何かしたとすれば、それは女神シスターナ様でしょう」

「なんですって!?」

そりゃあ、驚愕するか。
でも、これは本当のことだ。
彼女に、思い出させてあげよう。

「聖女候補として選ばれれば、その身分は伯爵に該当されます。それが聖女ともなれば、公爵にまで跳ね上がる。教会が生活を保障し、その者たちは半永久的に金銭や食生活で困ることはない。ただし、ある一つの盟約を、必ず守らねばならない。【悪事に手を染めるな】」

これは、聖女関連の雑誌に掲載されていたことだ。聖女候補たるもの、高潔・清浄でなければならない。これを読んだ時、当たり前だろと思ったけど、そこから読み進めると、何故か教会の経典にも載っていることが書かれていた。今になって、その意味を真に理解した。一か八かの行為だったけど、僕の仮説が今証明された。

「どういうことよ? 私は聖女候補として、シスターナ様に選ばれたのよ!!」

「それですよ。選ばれたということは、シスターナ様に見られていることを意味します。はっきり言いましょう。悪事に手を染めた聖女候補、女神様がそんな女をそのまま放置しておくと思いますか?」

【悪事に手を染めるな】、女神様が見ているから、聖女と聖女候補は絶対に悪いことをしてはいけないという警告なんだ。

「な、何を言ってるのよ。エスメローラだって、悪いことをしているわよ。現に、無断で教会を抜け出して、護衛を振り切り、一人で街中を彷徨いていたのよ」

まあ、それも悪事に入るのだろうけど、あなたとレベルが違う。

「あなたの場合、ソフィアさんと協力して魔剣の封印を無断で解き放ち、魔剣と協力することで、僕たちやエスメローラ様を今まさに殺そうとしている。これは、立派な大罪でしょう? しかも、教皇の座まで狙っているともなれば、女神様がそんな欲深い聖女候補を放っておくはずがない。あなたは、女神様に見限られた」

「嘘よ…この私が……あ、そんな…加護(小)がない…まさか…本当に」

加護(小)?
もしかして、聖女候補や聖女には、女神の加護があるのか?

「浄化魔法の項目も……ない……見限られたの?」

自分のステータスを確認した行為が止めの一撃となったのか、フランソワ様は床へ崩れ落ち、戦意も無くし、身体を弛緩させ、廃人のように天井を見上げる。自分の欲望のせいで夢自体が潰えたのだから、僕達に逆恨みすることもないだろう。

「鈍い女だね〜〜。警告しておいたのに、やっと認識したか」

残るは、魔剣とソフィア様だ。
聖女様ですら倒せないこの魔剣に、どうやって勝てばいいんだ?

○○○

フランソワ様は戦意を喪失し、床に両膝を付けたままでいる。それに対して、魔剣の方は真正面から僕を見据えている。

「魔剣、お前は何者なんだ?」

「私の名前はダーインスレイヴ、人の中にある全ての情報を食べることで強くなる魔剣さ。私は、これまで様々な人に寄生して、善人悪人共を斬り刻み、その中身を食い尽くしてきた。ただ、ちょ〜っと目立ち過ぎたせいで、二代前の聖女アルテイシアに目を付けられちまってね。その勝負に敗北して、封印されたってわけだ」

ダーインスレイヴ? 

僕はその名前を知らないけど、それだけ目を付けられたのなら、冒険者たちや騎士たちなら知っているかもしれない。聖女様でも破壊できない魔剣に対して、僕はどうやって勝てばいい?

「けどね、その封印は不完全なものなのさ。私は地下宝物庫に連れられ身動きできない状態だったが、一定範囲内であれば、いくつかのスキルは使えた。だから、私はずっと機会を窺っていたのさ。行使可能なスキルを最大限に活用し、この宝物庫に侵入可能で弱味に漬け込める人間をずっと探し続け、二人を見つけたってわけさ」

こいつ、僕から質問したと言っても、どうしてこんなペラペラと情報を開示するんだ? 質問なんて無視して寄生すればいいのに、何故実行しないんだ? それに、封印が不完全とはいえ、身動きできないのなら何故寄生できるんだ?

「こいつらは余程聖女になりたいのか、私の問いかけに戸惑い、迷いを生じさせた。だから、念話を飛ばして、『魔力を5000ずつ譲渡してやる。そして、どちらかに寄生して、歴史上最高峰の聖女にしてやろう』と伝えたら、初めにフランソワが地下の宝物庫に無断侵入してきて、『聖女になりたいから、私と契約しろ』と契約を求めてきた」

もう一つの手段って、魔力の譲渡を指していたのか。
人同士は不可能なのに、人と魔物間では可能なのか?
いや、情報そのものを食ってきたこいつだから可能な所業なんだ。

「この女は、欲深いね〜。ソフィアに寄生させ私に情報を食わせた後、自分がそれを取り込むつもりだった。まあ、そこは女神に阻止されたけど、私にとってはどうでもいいことだ」

さっきから、僕の知りたい情報をペラペラと喋っているけど、何かおかしくないか? 僕にとっては好都合なことだけど、奴にとってその行為は意味を成さない。僕が夢中になって考えていると、急に何かが繋がったような感覚を受けた。まるで、初めて念話で相手とパスを繋げたような感覚だ。

「あははは、ようやく繋がったか。最後に、いいことを教えてやる。私は他の魔剣と違い、寄生するには【ある条件】をクリアしないといけないんだ」

「クリアって……まさか、その条件って!?」

ペラペラと情報を開示されたことで、僕は奴の過去の一部を知った。

「察しがいいね。【相手と心を通わせること】、さ。手っ取り早く私の過去を話せば、その分、相手は感情移入しやすい。これをクリアできたら、私に直接触れなくても寄生できるのさ。寄生距離は最大半径200メートル、残念だったね。出会った時点で、ソフィアの右腕を切断し、私から引き離していれば、あんたにも勝ち目は残っていたのに」

やられた!!
何か理由があると思っていたけど、そんな条件なんてわかるわけがない!!

「クロード、私はお前のギフトを気に入った。ここにいる女共の命を助けてやる代わりに、お前の身体をよこせ」

僕が犠牲になれば、ミズセ、エミル、フランソワ様、ソフィア様が助かる。聖女候補はともかく、その選択をすれば、ミズセとエミルに悔恨が残ってしまう。

【お兄ちゃんが食い尽くして】

エミルの言葉と魔剣の言動のおかげで、勝利への糸口は掴んでいるけど、かなり危険な賭けだし、たとえ勝利したとしても、その後の展開が読めない。どの選択を取れば、生存ルートに繋がるんだ? 

考えても仕方ない、僕も勝利のために自分の命を賭けよう。

「君が僕に寄生し、僕の意志に打ち勝てば君の勝利だ。でも、僕が勝ったら、君の意志は消滅する。それでも寄生したいのか?」

「面白い冗談だ。私の意志が人に負けるとでも? 生まれてから今日まで、そんな者はいなかったぞ」

「それじゃあ、僕が君に勝てた唯一の人間になってやる!!」

僕の意志だけでは不可能でも、そこにギフト[壁]が機能すれば、まだ可能性はある。負けてたまるか!!

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