バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

30話 もう一人の襲撃者が乱入してきた

かれこれ1時間、奴は僕のギフトで強化された壁に、斬撃を浴びせ続けている。

『はははは、オラオラオラ、ははは、いいね〜〜〜クロード、中々の硬度じゃないか。そうら、また威力を少し上げるぞ〜〜耐えろよ〜〜』

完全に遊ばれている。こっちは死に物狂いで強化しているのに、相手の目的はエミルを殺すこと、それだけでどうしてここまでの攻撃力を放てるんだ? 

勝負が始まって以降、ソフィア様の声をした奴は剣だけで、僕の壁を斬り続けている。エミルの未来視通りなら、その剣は魔剣に該当する。もしかして、相当強力なものなのか?

いや、弱気は厳禁だ。どんな剣であろうとも、絶対に崩れることのない壁をイメージし続けるんだ。とは言っても、威力がどんどん向上していき、今では1回の斬撃で魔力量が3ずつ減少していく。このままだと、こっちが力尽きるのは明白だ。何か、手はないのか?

エミルは、苦しそうに胸を押さえたまま、ベッドに倒れたままでいる。
ミズセが彼女を解放していると、僕と目が合い、こちらへやって来る。

「クロード……3時間保ちそう?」
「このままのペースだと、あと1時間くらいで、僕の魔力が尽きる」

ミズセは絶望に満ちた表情となるものの、何かを考えている。
彼女も諦めていないんだ。

「ねえ、今四方の壁をギフトで強化しているんだよね?」
「え、勿論そうだよ」
「それを一点集中できないかな? それができれば、理論上4倍は強化できる」

そうか!! 奴の攻撃は一面のみ、ならそれ以外の力をこの一面に集約させれば、更なる強化が可能だ。

「やってみる!!」

僕は、正面を見据えて、全ての力を集約させる。
ここを突破されたら、僕たち全員が殺される。
絶対に突破させない!!

『クロード〜〜、てめえ、まだそんな力が残ってやがったか〜』

そう言うやいなや、今までで最も重い一撃が、壁に放たれる。衝撃が僕自身にも伝わってきたけど、この程度なら耐えられる。そこから5度同じ衝撃が伝わってきたけど、僕の魔力量は現状維持の426のままだ。

「なんだ、急に静かになったぞ?」
『は? この女を人質? そんなんで勝っても面白くもなんともないだろうが!! これは、私とクロードの勝負だ!! てめえは、邪魔すんな!!』

誰かと話し合っている?

『後処理の時間も考えろだ〜? 知るか!! 私は、こいつともっと遊ぶぞ!! 久しぶりなんだよ、これだけ意志の強い人間と会うのはな!! 契約違反じゃあねえよ、こいつの壁はそれだけ頑強なんだ。完膚なきまでに叩き潰すのなら、こっちも力を蓄えないとね。エミルを殺したいのなら、てめえだけでやれ』

何か揉めているようだけど、このまま引き下がってくれるかな?

『待たせたな、勝負の続きといこうか』

そんな甘くないよな。力を集約させることで、制御がかなり楽になったけど、集中力を途切らせたら、ギフトの効果が切れてしまうから、予断を許さない状況だ。

『私はお前のことを気に入った。この女よりも、お前に寄生したほうが楽しく過ごせそうだぜ。勝負に勝ったら、お前の魂を食い尽くし、私がお前の身体を使ってやる』

なんだって!? ソフィア様の声をした者は、僕の魂を食べ尽くして、僕に寄生すると言ったのか? その言い方だと、今はソフィア様に寄生していることになる。 

「あんたが只者じゃない事だけはわかっているから、先に聞いておく。今、ソフィア様はどうなっているんだ?」

僕と戦っている人物は、間違いなくソフィア様の声を騙る偽物だ。

『ソフィア〜? ああ、この器になっている女のことか。まだ、生きているよ。今も、私の心の中で、[身体を返せ]と喚いてやがる。いつでも魂を食える状況なんだが、私はお前と純粋に勝負を楽しみたい』

おい、彼女がもう敵の手に落ちているのなら、僕たちはもう詰んでいるじゃないか!! しかも、奴の話し相手でもあるフランソワ様が動き出したら、僕の手に負えない。くそ、籠城に拘り過ぎた!! 拮抗している間に、僕を囮にしてミズセとエミルを逃がすべきだった!!

「お兄ちゃん…ダメ。籠城が…正解…諦めないで」
「エミル、大丈夫なのか?」

彼女は必死に起き上がり、僕を見る。
その目から諦観は感じられない。

「お兄ちゃんが、あいつを食い尽くすして……」
「エミル!!」

そういうと、エミルは倒れてしまう。
それを見たミズセが慌てて、彼女をだ抱きしめる。

「大丈夫、気絶しただけ」

よかった。ある意味、気絶していた方が楽だろう。
エミルは、さっき[食い尽くしして]と言ったのか?
どう言う意味だ?

『ほうら、こいつはどうだい!!』
「ぐ!!」

逡巡している間にも、奴は重い斬撃をやめない。今は耐えられているけど、あいつはまだまだ余力を残している。それに対して、こっちはいっぱいいっぱいだ。僕が正面の壁に対して手をかざし、力を入れ直した時、左側方の壁から強い気配と殺意を感じた。くそ、そっちに力を注げない!! 距離的に考えて、僕よりもミズセとエミルが危険だ!!

「ミズセ、急いでエミルを連れて、こっちに来るんだ!!」
「え?」
「左の壁から敵が…」

言い終えないうちに、衝撃音が鳴り響き、左側方の壁が崩れ落ちる。そこには、憤怒と殺意に満ち溢れたフランソワ様がいた。昼に見た時は、大人しく控えめな女性だったのに、今は別人に見える。あれが、彼女の本性か。

「ふ…フランソワ様…」

あまりの衝撃に驚いて固まるミズセに対して、彼女はきっと睨みつけ、所持している杖でミズセの顔を殴り飛ばした。その威力のせいで、ミズセがこっちに飛んできた。

「ミズセ!!」

骨は折れてないけど、鼻と口から出血している。すぐに彼女に下級ポーションを渡したいけど、今正面の壁から意識を逸らしたら、その瞬間を狙われてしまう。

「痛いよ…痛いよ…顔が…聖女候補がなんでこんな事…」

「愚図が五月蝿いわよ!! どいつもこいつも、どうして私の思惑から外れた行動ばかりするのよ!! 事が全て終わるまで、部屋で静観する予定だったのに!!」

くそ、最悪な状況だ。
ここからどう行動すれば、勝利に繋がる道を開けるんだ?

しおり