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29話 部屋の外にいる襲撃者は誰だ?

ミズセは起きてから5分ほどで、ようやく目覚めたようで、顔を真っ青にし、自分の置かれた状況を理解してしまった。

「つまり、ここに向かってくる相手は、クロードとエミルが目的なの?」

「僕とエミルだけが、新たに危機察知スキルを取得していることを考えると、そうとしか思えない。正体不明だけど、エミルのおかげで、僕が部屋を出て相手に勝負を挑んだ場合、多分僕が勝利して、その後誰かに殺される」

「それじゃあ、どうするの? エミルを連れて、ここから逃げる?」

「ダメだ。そんな事をしたら、僕とミズセがエミルを誘拐したと判断されて指名手配される」

不幸は何処にいようとも訪れるのならば、ここから逃げても無意味だ。むしろ、悪化すると思う。現在時刻は午前2時03分、夜明けまで約3時間30分か。

「夜明けまで、部屋に籠城しよう。僕のギフトを使い、この部屋に誰も侵入させないようにする」

「そういうのって、一番ダメなパターンなんじゃあ?」

ミズセの言いたいこともわかる。本当なら部屋を出て、誰かに助けを求めるべきだろう。でも、侵入者が教会内にいるにも関わらず、聖女候補の護衛たちが動かないのもおかしい。彼らが動いていれば、何らかの騒ぎが起きているはずだ。でも、窓を負けても静かで、部屋入口の扉を音を立てないようほんの少しだけ開き、耳を澄ましても、騒音は発生しておらず、静けさだけが漂っていた。それにも関わらず、僕とエミルの圧迫感が収まることはない。むしろ、強くなっていき、今に至ってはエミルが立てないほどに悪化してしまっている。

「普通はね。でも、逃げてもダメで、助けを求めようにも、誰が味方か敵なのかも不明だ」

「だから、籠城なのね。もう、ギフトを行使しているの?」

僕はゆっくりと頷いた時、不意に部屋の外から強烈な気配を感じ、視線を部屋入口の扉へ向けた時、扉から物凄い衝撃音が聞こえてきた。

「ぐ‼︎」

僕自身にも、ほんの少しだけその衝撃が伝わってきて、開きっぱなしだったステータス画面の魔力量が4減少する。

「お、お兄ちゃん!!」
「ク…クロード‼︎ これって…」
「ああ、襲撃者のお出ましだ」

今の攻撃で魔力量が減少したということは、ギフトを行使して壁による防御に徹した場合、その耐久力は僕の魔力量になるのか。それで4減ったということは、相手の攻撃力が壁の防御力を少しだけ上回っていることを意味している。

『あ〜何だよ、これは〜。普通の木製扉の硬度じゃねえぞ〜〜〜』

今の声は!? 僕は、すぐに扉へと移動する。この外側にいるのが、本当にあの人なのかを確認する。

「外にいるのは……ソフィアさんですか?」
「あら? その様子だと起きているようね」

さっき聞いた粗野で荒っぽい口調から一変、いつもの優しげなものへと変化する。

「あれだけ、僕とエミルに敵意を向けていたら起きますよ。そのおかげで、危機察知スキルを取得できたので、お礼だけ言っておきます」

ここから3時間の籠城、不安になるな、自信を持て。
僕のギフトは、世界最強だと思うんだ!!

「へえ〜、結構優秀じゃないの」
「こんな時間帯に、ここへ来た目的は何ですか?」

初めに聞こえた粗野で荒ぶる声、そして先程の衝突音、もしかして僕とエミルを殺す気か? 昼前に話した際は、そんな素振りを微塵も見せなかった。

「あはは、あなたは賢いようだから、冥土の土産に教えてあげるわ。私の目的はエミルの殺害よ」

エミルは次期教皇候補、聖女候補でないのだから、ソフィアさんにとって殺害する動機がない。どちらかと言えば、ローラやフランソワ様を内密に殺す方が聖女に近づける。それに、その動機だと僕を狙う理由がわからない。

「さあ、死んでちょうだいな!!」

なんだ!? 今、衝突音とは違う音が聞こえてきた。何かを斬りつけたかのような音だ。

『あ〜ん、斬れないだ〜? おいクロード、てめえ、ギフトを使ってやがるな〜?』

また、声質は同じなのに、粗野な口調になってる。ソフィアさんの性格から考えて、話を逸らすような言い方をすれば、かえって怒らせるかもしれない。

「当たり前です。せめて、エミルを殺す理由と僕を狙う理由を教えてくれませんか?」

『理由だ〜? 面倒くせえな〜。……あ、急に何だ? てめえ、面白がってるな? ち、契約だし、まあいいだろう』

契約?
今、誰かと話し合った? 

でも、外から感じる気配は一つしかない。奴は、スキル[念話]などの通信手段を持ち合わせているんだ。

『おいクロード、よく聞いとけ。エミルの存在は、聖女と教皇の座を狙うあいつにとって邪魔なんだとよ。エスメローラが戻ってきてから事を運ばせる予定だったが、てめえが場を乱したせいで、予定が狂ったそうだ。まあ、私にとっては人を殺せるからどうでもいいんだがな』

違う、こいつはソフィア様じゃない!! 扉の向こう側にいる相手は、ソフィア様であってソフィア様でない者だ。今、出て行くのは危険だ。何とか、この場をやり過ごさないといけない。

「あなたの言う[あいつ]が誰を指しているのか、察しはつくけど、そいつの思惑通りに事を運ばせるつもりはない。僕たちを殺したければ、そこから侵入してこい」

こうなったら、奴の思惑を徹底的に乱してやる!!
僕のやるべき事は、ただ一つだ。

『言っておくが、この周囲は防音結界の魔法陣が展開されている。誰かが助けに来てくれるとは思わないことだ』

「は、そんな事は百も承知している!! これは、僕とお前の勝負だ!! 侵入されたら僕たちの敗北、夜明けまで守り抜けば僕たちの勝利だ‼︎」

『面白え事を言うじゃねか。お前のようなガキが、この私に勝負を挑むとはね。は、望み通り勝負してやるよ!!』

夜明けになれば、執事や侍女、メイドたちが起床する。奴の裏にいるあの人だって、ここで残虐行為に走れば、自分の身も危うくなることはわかっているはずだ。たとえ、防音効果のある魔法陣が発動中であっても、夜明けになり、人々が奴と遭遇すれば、奴とて撤退せざるを得ない。

それまで籠城戦を実行してやる!!

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