254章 失われた脳の栄養
ミサキは一曲を歌い終えた。あちらの世界よりは上達していたものの、人に聞かせられるようなレベルではなかった。人に聞かせられるレベルに到達するまで、200時間以上の練習をカラオケボックスで行う必要がある。
会場内にはあふれんばかりの拍手が広がった。
「ミサキさん、すごいです」
「思っていたよりは、上手だった気がする」
「一生懸命さに胸を打たれたよ」
「ミサキちゃん、よかったのだ」
「ミサキさん、本当によかったです」
「ミサキちゃん、もう一曲」
エマエマ、ルヒカ、ズービトルが近づいてきた。
「ミサキさん、とてもよかったですよ。心にグッときました」
掛け声にこたえようとするも、手を振る力は残されていなかった。脳内の酸素を大量に使用したことで、体全体がフラフラになっていた。みんなの前で歌うのは、膨大な労力を必要とする。
マイは異変を感じ取ったのか、こちらに向かってきた。
「ミサキさん、ミサキさん・・・・・・」
幽体離脱さながらに、意識を失った。死んでいないはずなのに、死んでしまったかのように感じられた。