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249章 世界で一枚だけのサイン

 2番手として、タウダルヒカが登場した。他は誰もおらず、一人だけだった。

「タウダルヒカです。最初はオリジナル曲である、「お腹すいた」を歌います」

 ミサキをモチーフにしたような曲名である。腹ペコ少女は、恥ずかしさに包まれることになった。

「ドラム、ギターなどはいないので、純粋な歌をお楽しみください」

 自信を持っているからこそ、歌だけで勝負できる。ミサキは歌に対して、大いに興味を持つこととなった。

 歌声を聞いた直後、世界観に引き込まれていくのを感じた。ルヒカは声、歌唱力、息継ぎのテクニックのどれも抜群だった。ミサキはどんなに練習しても、彼女に追いつくことはできない。

 ルヒカは一曲目を終えると、頭を深く下げる。

「二番目の歌は、「ずっと会いたかった」です」

「ずっと会いたかった」の歌詞には、二人の女の子が登場。一人はルヒカ、一人はミサキだった。

 1カ月前から会いたかったという歌詞が登場。ルヒカはホテルを予約した日から、ミサキと会うのを楽しみにしていた。

 タウダルヒカは歌い終えたあと、頭を深く下げる。15人前後の観客は、あふれんばかりの拍手を送っていた。

 このまま退場するのかなと思っていると、視線はこちらに向けられることとなった。

「ミサキさん、握手をお願いします」

 ズービトルに続き、タウダルヒカとも握手する。ファンからすれば、たまらない状況といえる。

 ルヒカと手を重ねる。超一流の掌は、圧倒的な包容力を伴っていた。

「ミサキさん、ハグをしていただけないでしょうか?」

「ハグですか?」

「はい、お願いします」

「いいですよ」

 男ハグをするのは抵抗があるけど、女性同士なら問題なくハグできる。ミサキは喜んで、体を預けることにした。

「ミサキさんの体温は、とっても優しいです」

「タウダルヒカさんも、すっごく優しいですよ」

 幸せな時間は15秒くらいで終わった。許されるなら、10分、20分と続いてほしかった。

「ミサキさん、サインをお願いします」

 ミサキはサイン色紙に、ていねいにサインをする。歌を披露してくれたことへの、感謝の気持ちを伝えたかった。

「ミサキさん、ありがとうございます」

 ミサキから受け取ったサインを、ケースの中にしまった。

「私からもサインを差し上げます。大切にしてくださいね」

 タウダルヒカのサインは、世界で数枚しか存在しないプレミア商品。1枚で1000万ペソはくだらない、超激レアサイン。サイン1枚をもらうことで、ホテル代の10倍以上の価値を得ていることになる。予想していなかったところで、大きな恩恵を受けることができた。

「今回は特別版です。世界に一枚だけのサインです」

 タウダルヒカは、サイン色紙をケースの中に入れる。心の底から大切にしてほしいというのが、こちらにも伝わってきた。

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