21話 ローラと別れて5日目の朝がやってきた
「クロード…本当にそれを私の中に入れるの?」
なんか、嫌な言い回しに聞こえるのは何故だろう? ローラが去ってから5日目の朝、僕たちは朝食を食べる前に、部屋の中である事を試みようとしている。
「君も見ていただろ? 今度の球の根源は、下級ポーションだよ。体力や小さな怪我を治す成分も魔力球に入っているから、これをお腹に入れれば、君の体調も変化することはないと思う」
ギフトの名称が、どうして[壁]だけなのか、今になってわかった気がする。【どんな物でも、壁になりうる】、今、机に並べられている3つのポーションも、弾除け用の壁にだってなり得るのだから。そして、僕が壁と認識したら、それを意のままに操れる。今のところ、物限定だけど。
「どうして、お臍のあたりなの?」
「それは、僕にもわからない。あれから何度か自分で試したけど、どういうわけか臍の少し上辺りに吸収されてしまうんだ。もしかしたら、魔力を生む器官は、臍の上にあるのかもしれない」
医者に聞いたらわかるだろうけど、今の段階では知識不足だ。
「さあ、いくよ。臍を見せなくていいからね」
僕は、魔力球をミズセのお腹に近づけると、吸引力がかなり弱いけど、少しずつ吸われていくのがわかる。
「むきゅう~~~なんか変!! なんか変な感じがするよ~~~」
なんで、顔を赤くして恥ずかしがるかな!?
こっちも、変な気分になるじゃないか!!
「我慢して。自分で実験してわかったことだけど、吸引されているということは、身体が求めているということなんだ。つまり、君の身体にもほんの微量ながら、魔力があるんだよ」
「うにゅううう~~~」
う~ん、僕の話を全く聞いてない。おかしいな、自分で実証した時は、そんなおかしな気分にならない。もしかして、魔力の有無や体質で何か違うのかもしれない。
「よし、全部入った!!」
「やっと終わり~~~、力が入らないよ~~~」
ミズセは立っていられないようで、ベッドに横たわり、少し汗をかき息を荒くしている。これって、人に見られたら不味いような気がする。間違っても、マーニャのいる前では絶対にやらないでおこう。
「これから毎朝、これをやっていくよ」
彼女の体調次第で、1日の回数を増やしていこう。幸い、ギブソンさんから貰ったお金も余っているし、金銭的に余裕がある時にやっておこう。
「毎朝やるの~~~~」
ミズセの調子が戻り次第、朝食を食べにいくか。
ローラと別れてから五日目の朝だ。
朝刊の一面に、何が載っているのだろう?
○○○
「な!?」
僕とミズセが宿の1階で朝食を食べている時、宿に置かれている朝刊が籠に戻されたので、早速僕はそれを借りて一面を見ると、とんでもないものが目に入った。
【聖女候補たち、ドラゴンゾンビの浄化に成功!!】
大都市ワナイキア付近で突如出現したドラゴンゾンビ、勇ましい冒険者たちが戦いに挑むものの、様々な状態異常攻撃により次々と戦線を離脱していく。この攻撃は非常に広範囲となっており、当時3キロほど離れていたにも関わらず、その影響が都市にまで到達し、多くの住民が複合型の状態異常に陥り、都市機能が完全停止に陥る。
ドラゴンゾンビがあと1キロと迫り、絶望に染まりかけた時、我らの希望、聖女候補エスメローラ・フロライン、フランソワ・トパーズ、ソフィア・アイルイズの3名が街に到着し、早々にドラゴンゾンビとの戦闘に入る。戦いは死闘を繰り広げたものの、エスメローラの戦術級浄化魔法により、ドラゴンゾンビの完全浄化に成功する。また、これだけでなく、この魔法は街全土を覆い尽くし、状態異常で苦しんでいた住民全てを癒すことにも成功する。
エスメローラ・フロライン(12)、彼女こそが聖女に最も近い女性であろう。
「クロード、どうしたの? この記事に、何かあるの?」
そういえば、ローラのことで、まだミズセに言ってないことがある。
「僕が、エスメローラ様と遭遇した時に言われたことがあるんだよ。『5日後の朝刊を見て。あなたは、もう引き返せない位置にいる』ってね」
なるほど、彼女がこれだけの功績を叩き出したら、教会側も僕を放っておかない。活性化させたのなら、他の2人にも同じことをしてくれと頼まれるかもしれない。
「魔力を活性化させたのはクロードなんだから、教会に目を付けられたってこと?」
「近日中に、何らかのアクションを仕掛けてくるかもしれない」
教会側が僕に何か仕掛けてきたとしても、それはあくまで依頼という形になると思う。そこから、どんな不幸がもたらされるんだ? 新聞の一面の最後を見たら、この朝刊の出る本日の夕方までには帰還し、帰還パレードを開催する予定となっている。新聞を読んだ限り、行きと帰りの日数が合わない。もしかして、転移魔法とかで戻ってくるのかな? 一応、教科書を読んで知ってはいるけど、習得者は国内でも5人といないはずだ。
「今日の昼以降、騒がしくなるね。でも、ドラゴンゾンビか~、見てみたいな~。もし、その巨体を運んできてくれるのなら、絶対見に行きたい!! どうせ絡まれるのなら、こちらから行ってもいいと思う!!」
ミズセ、そんなウキウキした顔で言われたら、こっちも断れないよ。
不幸の襲撃よりも、好奇心の方が優っているのかな。
浄化に成功しているのなら、危険もないか。
僕も気になるし、凱旋パレードを見に行ってみよう。