バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

28話 目覚めたら真っ赤でした

皆の視線がエミルに集まる。
彼女は、何を見たのだろう?

「私が見た未来、始めの映像は、誰かが漆黒の禍々しい魔剣を持っている立ち姿、暗闇の中だから、シルエットだけで誰かはわからない。2番目の映像は、その人が血を流して倒れていて、今度はクロードお兄ちゃんが床に落ちている剣を拾い上げる場面だった。そして持った瞬間、お兄ちゃんの何かが壊れて、叫び声をあげながら教会中を走り回る姿が見えた。この場面も殆ど暗闇だったけど、教会内ということだけはわかったの。そして最後の見た映像は、胸を刺され、床に崩れ落ち絶命するお兄ちゃんだった」

悲惨な未来だ。
というか、未来の僕は何故そんな危険な剣を持ったんだ?
剣さえ持たなければ、不幸を回避できるかもしれない。

フランソワ様は僕たちを睨み続け、何も言わない。そんな中、ソフィア様は不安げな目で俯き、何かを考え、その後僕たちを見る。

「それが、あなたの見た未来なのね。なるほど、私たちは黒の魔剣の所在を知らないけれど、近日中に遭遇するわけか。黒霧の件を考慮すれば、始めの持ち主は私かフランソワというわけね。エミル、クロード、ミズセも私たちに怒られる覚悟を持って伝えてくれたこと、感謝するわ。もし、該当する物を見つけたとしても、状況にもよるけど、極力関わらないようにするわ」

ソフィア様は笑顔に戻ったけど、フランソワ様は無表情で僕たちを睨んでいるのが気にかかる。

「ああ、それとフランソワの言ったもう一つの手段と関係のない話だから安心して」

フランソワ様の表情のせいで、何か引っかかるんだよな。そうは言っても、これ以上は踏み込めない。不幸が起こらないことを祈っておこう。

結局、初日に行動を移せたのはここまでだった。というか、魔剣の情報が皆無である以上、僕たちはこれ以上踏み込めない。あとは、天に運を任せるしかないので、エミルが主導となって、僕たちに1~3階までの観光案内を買って出てくれた。その際に見せる彼女の表情は、実に子供らしく、初々しいものだったせいなのか、すれ違う人々全員がエミルを見て微笑んでいた。

そして、夕食後は僕たちの部屋で、子供でも理解できるリバーシやトランプで遊び、就寝することになった。僕とミズセにとって、聖女候補以外で衝撃的だったのは、夕食のメニューだ。予め、ミズセの食事量を言ったおかげで、量自体は適正だったけど、そのメニューがあまりにも豪勢だった。その日のメインはハンバーグ、肉質も最高で、肉汁溢れる中心にはチーズが入っており、とろりとして今までに食べたことのない上品な味わいだった。ミズセとエミルの影響なのか、前菜に胃に優しい野菜スープや、子供好みのドレッシングのかかる大根サラダが提供されていたこともあり、食後に胃もたれも起きず、僕たちにとって非常に有意義な夕食となった。

○○○

うん、何だろう? 奇妙な圧迫感を感じる。

目を開けると、部屋の中は真っ暗で、僕の寝ているベッドには誰もいない。ベッドから起き上がり、カーテンを少し開け外を見る。

「外は真っ暗、まだ真夜中なんだな」

外は暗闇に包まれていて、街の景色も殆どわからない。ただ、さっきから感じる奇妙な胸を締め付けられるような圧迫感は何だろう?

「お兄ちゃんも、胸が苦しいの?」

この声は、エミルだ。カーテンを開けたことで、月明かりが照らされ、彼女も起きていることがわかった。どうやら、僕と同じ圧迫感を感じているようだ。

「うん、急に胸がキュ~~っときたんだ」
「私も同じだよ」

ミズセだけは、エミルの横で熟睡している。当初はあれだけ緊張していたのに、もう部屋の雰囲気に慣れたようだ。この様子から察するに、彼女は何も感じていない。それにしても、さっきから感じる圧迫感が、段々と強くなってないか?

「お兄ちゃん、私たち、どうなるの?」
「まずは、落ち着こう。今から、自分のステータスを確認してみるよ」

名前:クロード・フィルドリア
性別:男
年齢:12歳
職業:無職
称号:不運な祝福者
魔力量:657
スキル:
剣術[D]、体術[D]、動作予知[C]、身体強化[C]、魔力制御[B]、囮[F]、NEW危機察知[F]
魔法:壁魔法(氷壁・風壁・火壁・土壁)
ギフト:【壁】(青く点灯)

げ、ギフト以外が、全部赤く点灯している!? 点滅から点灯って、一番危険な状況を指しているはずだ‼︎ まさか、目覚めた直後に、こんな状況に陥るなんて思わなかった。

「お兄ちゃん?」
「エミル、ギフト以外が全部赤く点灯している」
「え!? ミズセお姉ちゃん、起きて!! 早く起きて!!」

彼女も自分の状況をいち早く理解できたようで、ミズセを起こしにかかっている。多分、僕とエミルが感じているこの感覚は、新しく取得した[危機察知]によるものだ。何かが、この部屋に近づいているんだ。

どうする? 僕とエミルの命を脅かす誰かが、ここへ近づいている。僕だけが剣を取って、応戦するか? そう考えた瞬間、僕の脳内にエミルから言われた映像が思い浮かぶ。もしかして、ここで[応戦する]という選択をした結果が、あの未来なんじゃあ? あの扉を開けて進めば、敵の正体もわかるけど、僕が勝利しても誰かに殺されるのか? かといって、ここでじっとしていても、同じ未来になる。ギフトの使い方次第で、助かる可能性があるのなら、どう行動すればいい。

「むにゃ…クロード、エミルから聞いたけど、今危険な状況なの?」

ミズセは起きたてのせいか、危機感が薄い。未来ではこの光景を見て、攻撃に転じたと考慮すれば……ここは防御に徹してみよう。壁である以上、攻撃より防御の方が向いている。この部屋に何人たりとも侵入できない【絶対不可侵防壁】をギフトで築こう。幸い、四方は壁で囲まれているから、これらをギフトで強化すればいい。これなら魔力消費も抑えられる。

朝まで、この部屋に籠城するぞ!!

しおり