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26話 幼女エミルと友達になったけど、この子が誰よりも現実を見ていた

僕たちが部屋内で30分程雑談を交わし、部屋の雰囲気にようやく慣れてきた時、扉からノック音が聞こえてくる。僕が扉を開けると、そこには先程出会ったエミル様と侍女の女性がいた。

「クロード様、ソフィア様から事情をお聞きしました。今日から3日間、エミル様のお世話係になる上で、こちらのスケジュール帳をお渡ししておきます。ソフィア様の計らいで、今日のお勉強は全て中止となりました。その代わり、年齢の近いあなた方がエミル様とお友達になって、彼女を楽しませるようにとのことです」

へ~、ソフィア様はエミル様の力を知っていても、怖がらずにきちんと姉のように面倒を見ているのか。それと違い、今話している女性は、エミル様のことをチラチラ見ながら、何処か挙動不審となっており、その状態で早口で話を続けている。

「明日以降、この手帳を見てエミル様を所定の場所へとお連れください。エミル様の希望もあり、3日間はここであなたたちと寝泊まりしてもらいます。食事に関しても、3名分をこちらのお部屋へお届けいたします。不明な点があれば、エミル様ご自身にお聞きください。それでは失礼致します」

「え!? ちょ…」

僕が止める間も無く、侍女の女性は早口で所用を告げると、エミル様に何も言わないまま、颯爽とこの場から逃げるように去っていった。流石に、その扱いは失礼過ぎるだろ? 僕がエミル様を見ると、彼女は慣れているのか、無表情で僕をじっと見つめてくる。お世話係に任命された以上、しっかりと彼女のお世話をしよう。貧民街で子供たちと寝泊まりし遊んだりもしているから、僕的には全然苦でもない仕事だから、別にいいけど、エミル様に対するあの応対はだめだろ? 急に服の裾を引っ張られたので、僕は彼女を見る。

「あの応対には、もう慣れた。あなたが怒ってくれているから、私は嬉しいよ。改めて、自己紹介するね。私はエミル、平民なんだけど、この教会内では、私は貴族扱いされているの。教皇様が私を拾ってくれて、次期教皇になるための教育中なんだよ。エミルって呼んでね」

まだ6歳なのに、なんて礼儀正しい女の子なんだ。

「僕はクロード・フィルドリア、子爵令息だけど、今は平民として生活しているから、クロードでいいよ。僕は貧民街の子供たちと遊んだりもしていて、いつも心を読まれているんじゃないかて言うくらい、心を見透かされているから、君の力に関しては全然怖くないから安心してほしい」

僕が自己紹介すると、ミズセがエミルのもとへやって来る。さっき出会った時もそうだったけど、ここまでの段階で彼女はずっと無表情のままだ。礼儀正しい女の子なんだけど、何かが足りない。

「私はミズセ、一応貴族令嬢なんだけど、訳あって今は平民扱いされているから、ミズセ…お姉ちゃんって呼んでね。私の場合、心を読まれようが、失うものなんて何もないから、全然怖くないよ」

エミルが僕とミズセを交互に見ると、さっきまでずっと無表情だった顔が、急に笑顔となる。

「二人とも綺麗……うん、宜しくね!! クロードお兄ちゃん!! ミズセお姉ちゃん!!」

次期教皇の教育を受けていると言っていたから心配だったけど、エミルは子供らしい笑顔を僕たちに見せてくれた。多分、この子の所持する力は、[未来視]と[読心術]だろう。今後の教育の仕方次第で、この子の未来は大きく変わってくる。僕とミズセは3日間限定のお世話係、短い期間だけど、この子からもっと笑顔を引き出そう。こんな可愛い女の子から、笑顔を奪っちゃダメだ。

○○○

僕たちはエミルと仲良くするため、普段どんな事をしているのか聞いてみたら、礼儀作法・食事マナー・外国語・古代語・経済・現代魔法・古代魔法など多くの座学を学んでおり、最近では魔法の基礎練習を実施しているらしい。話を聞けば聞くほど、6歳で習う内容じゃないことがわかった。たった15分聞いただけで、この子が次期教皇候補なのが嫌でも理解できた。こんな高等教育を敷き詰められていたら、無表情になるのもわかるよ。6歳なんだから、いっぱい遊ばせてあげたい。とは言っても、僕たちの行動範囲は室内の1~3階までだから、外で遊べない。

これから、どう行動しよう?

「エミル、今日は休みなんだから、室内で遊ぼうか?」

ミズセの機嫌が、とても良好だ。何故か貧民街にいる時よりも、生き生きとしているのは何故だろう? お姉ちゃんと呼ばれたのが、相当嬉しかったのかな? あっちでは、誰一人言わなかった言葉だ。

「ううん、遊ばない。そんな余裕はないよ。私は、二人の生き残れる道を探したい」

真剣な眼差しだ。
何故かな?
今ここにいる中で、この子が切実に僕たちの現実を受け止めている気がする。
ミズセもそれを理解したようで、僕を見る。

「僕たちの生き残れる道か、エミルの言った言葉の中でも、黒い霧が何なのかはわからないけど、ミズセのおかげで、それを発するのは聖女候補の二人だけということがわかったんだ。つまり……」

僕が、二人の名前を告げるのを躊躇っていると、それを察知したのか、エミルの方から名前を告げる。

「ソフィア姉様とフランソワ姉様が、何かをやらかすんだね。でも、その前に言った言葉が気になる。どうして、黒い霧を視認できるのが、ミズセお姉ちゃんだけなの?」

心を読めるせいなのか、僕の言ってないことを的確に突いてくる。少し話しただけで、この子の話し方が6歳児じゃないことがわかる。変に強要するよりも、今のエミルに合わせて、僕たちも話していこう。

「それがわからないんだ。元々、彼女は魔力器官の全欠損で、魔力を持たないと言われている。今、僕が自分のギフトを使って、彼女の病を治そうとしている段階なんだよ」

僕は、これまでの状況をエミルに詳細に伝えると、彼女はミズセの顔をじっと見つめ、その後、その視線は何故かお腹の臍の上あたりを凝視するようになる。その場所は、僕の魔力球を吸引する箇所でもある。

「これ、【病】じゃない。巧妙に隠蔽しているけど、これは【呪】だよ。それも、とびきり強力な」

「「え?」」

エミルの口から、とんでもない言葉が発せられたせいで、僕とミズセは言葉を失った。

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