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25話 遂に、不幸が始まった…かもしれない

2人の聖女候補方との会談は、フランソワ様の発言で急な終わりとなった。2人の言う[もう一つの手段]と言うのが不明だけど、それは僕たちに関係ないことだ。一瞬、[不幸も起こらず、これで帰れるのかな?]と思ったけど、ソフィア様から意外な発言が飛び出る。

「クロード、ミズセ、あなたたちは3日間だけ、このエリアで滞在しなさい。1~3階までの出入りを許可しますが、同時にこの建物からの外出を禁止します。食事などは、こちらで提供しましょう。その間に、あなたのギフトが点滅した場合、即座に私たちに教えなさい」

さっき僕たちのことを予備と言っていたから、もう一つの手段が失敗した時の保険として、ここへ滞在させたいのか。正直、今すぐ立ち去りたい気分なのに、拒否は許されないよな。僕らにとっては軟禁に近いんだけど、そんな風に思ってないだろう。

「わかりました。随時、自分のステータスをチェックしておきます」
「うふふ、素直で宜しい。良い心掛けよ」

僕の返答にご満悦のようだけど、内心嫌々で言っている。

「そうだわ!! その間は暇だろうし、あなたたちにはエミルのお世話を命じます」
「は?」

エミルって、あの6歳の女の子のこと?
そんな重要なことを、勝手に決めていいのか?
さっき会った時、彼女は侍女を連れていたけど、その女性だって気分を害するかもしれない。

「ソフィア様、先程エミル様とは偶然出会いました。その際、不幸に関わる助言を受けましたが、専任の侍女の方が傍におられたのですが?」

強力な力を持つ女の子なのに、信頼も何もない一般人同然の僕たちが、勝手に彼女の世話係として動くのはまずいだろう。

「へえ、あの子が率先して、あなたの未来を視るなんてね。これは僥倖、尚更あなたたちには世話係になってほしいわ。あの子の機嫌次第で、あなたたちを専任として雇うかもしれないわね」

この人の狙いは、そこか!? 
僕が断ろうとした時、フランソワ様から声がかかった。

「クロード、お姉様の冗談を真に受けないで。ここに滞在する3日間だけのお世話係だから」

「あらフランソワ、半分本気なんだけど? あの子は強力な力のせいで、意図せず視認するだけで、相手の心も読んでしまう時があるの。今は力を抑える手袋を付けているから制御できているけど、それでもみんながあの子のお世話を嫌がるのよ。そのせいで、専任の世話係もいないわ。今は、日替わり制なの。あの子も、自分に対する侍女やメイドたちの怯えを気にしているのよ」

さっき会った時、侍女の女性とエミルとの距離感を疑問に感じたけど、あれは彼女の力を恐れているからか。今の僕にとって、どんな力であろうと、僕とミズセに被害が起こらないのであれば、別に気にならない。

ただ、あんな小さな子を、僕の不幸に巻き込みたくない。
なんとか断る口実を作らないと。

「僕には[神の知らせ]があります。教会関連の不幸が起こるはずなんです。彼女を巻き込みたくありません」

「それなら、尚更彼女を頼りなさい。不幸に関わる助言を受けたのでしょう? そのうち、明確な回避方法を教えてくれるわ。とにかく、これは命令よ。今日から3日間、あなたたちは、エミルのお世話係をするように」

だめだ、完全に逃げ道を塞がれた。3日間限定だし、せめて僕の方から不幸を起こさないよう、細心の注意を払っておこう。

「わかりました、お引き受けします」

多分、ソフィア様とフランソワ様は、3日以内に何かをするつもりだ。ここを乗り越えたら、もう不幸だって起きないかもしれない。それに、教会内にはローラがいる。彼女と合流できれば、何らかの進展を見込めるはずだ。


○○○


「ク、クロード、これから3日間、この部屋で…寝泊まりするの?」

ミズセの声が震えている。聖女候補様方との会談後、ここまで連れてきてくれた騎士様が、僕たちを3階の客室へ案内してくれて、エミル様が来るまで待機するよう言われたのだけど、中に入るとあまりにも豪華だったので、僕も固まってしまった。ミズセの事情に関しては話していないけど、このエリアの客室自体がお偉い様用なので、僕たちは特別に1室だけ借りることができた。

「そ、そうみたいだね。正直、豪華過ぎて眠れそうにない」

僕の両親の寝室よりも、豪華だ。いくらお偉い様用だとしても、ここまで豪華にする必要はないだろ? 女神様を祀る教会の権威を、周囲にわからせたい思惑があるのかな? 絵画、壺、食器類など、見ただけで超一流品だとわかる。一つでも破壊したら、奴隷行きかもしれない。多分、ここって宿屋で言うところのスイートルームなんだ。ダブルサイズのベッドが2台あるから、いつも寝ている宿屋よりは優雅に眠れるかな。

「わ、私たちにとっては、拷問に等しいかも?」
「あはは、ある意味その通りだね」

エミル様が来るまで、大人しくしていよう。この部屋に慣れるためにも、何か雑談でもしようかな。二人で会話を交わしていけば、緊張も和らぐと思う。

「ミズセ、さっきの会談で殆ど喋らなかっただろ? 君は、何を見たの?」

彼女はパレードで、黒い霧を見ている。僕の隣にいた彼女は、話を真剣に聞いていたけど、挨拶以降は一言も喋っていない。一体、何を見たのだろう?

「え…あはは、実は怖くて何も言えなかったの。あの二人の中でも、気をつけなきゃいけないのは……多分フランソワ様の方だと思う」

え、フランソワって……あの黒い髪の女性の方だよな?

「あの会談、ソフィア様が殆ど喋っていたよ? フランソワ様は、彼女の発言にフォローを入れていただけだ。もしかして、黒い霧が出てたの?」

「うん。会った当初から、黒霧自体は二人から少しだけモヤッと出ていたの。でも、最後のもう一つの手段について話した時、フランソワ様から濃密な黒霧がブワ~って出現したわ。しかも、私たちを無視して、ソフィア様に絡みついていった。見ていて、気持ち悪かったから、必死で表情に出ないよう我慢していたの」

これは、もう確定だな。

エミル様の言った3日以内が、ここに滞在する3日間と合致するし、二人の聖女候補もその3日以内に何かするつもりなんだ。

『黒霧と黒の魔剣には気をつけて』

黒霧は聖女候補を指しているのはミズセのおかげでわかったけど、【黒の魔剣】は何を指しているのだろう? 今の僕では、対処できないとも言っていた。まだ不明な情報があるけど、僕の不幸は、もう間近に迫っている。

僕は、どんな事件に巻き込まれるのだろう?

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