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20話 物事には何事にも限度というものがあるんですね

実験が上手くいくか、いよいよ試す時が来た。

今回、溝沿いに作ったヘドロ壁に関しては、全部まとめて繋げている。
つまり、貧民街にあるヘドロ壁全てが、一つの小さな壁と化している。
これなら1回の行使だけで、上手くいくはずだ。

「壁よ!! 分解しろ‼︎」

おお‼︎
僕の言葉通り、固められたヘドロが粉々になったぞ‼︎
よし、ここからが重要だ。

「ヘドロ内にある魔素よ、僕の魔力を介して、所有者のいない無色の魔力球を作れ‼︎ それ以外は、塵となり、大気中へ‼︎」

僕の言葉が周囲に響いた瞬間、周囲から分解されたヘドロが集まっていき、一つの集合体を形成させると、その後すぐに二つに分かれる。一つ目は半透明な魔力球、二つ目は更に細かな塵となり、塵だけが風に乗って空高くへ舞い上がる。

残った魔力球だけが、フヨフヨと上空へ浮いている。

「なんだ、これ!!」
「クロード、半透明な球が浮いているし、少し輝いているよ!?」

ハルトやミズセだけでなく、周囲の住民全員が驚きを隠せないようだ。かくいう僕自身も、心の中は驚きで満たされている。大気中には魔素と呼ばれる物質が存在していて、それは全ての生命や物体にも宿っている。今回、ギフトでヘドロを壁化させ魔素だけを抽出して、僕の魔力を介することで、色のない半透明な魔力球へと変換させた。

僕の目的、それは壁を形成させたものを分解し、無害な魔素だけを抽出して、所有者のいない半透明魔力球に変換させ、それを自分のものに出来るかどうかだ。これが出来れば、ミズセに魔力を少量ずつ与え、彼女の身体に慣れさせることで、魔力を生み出す器官を作り出す事が出来るかもしれない。

本当は、僕が彼女の手に触れて、直接魔力を譲渡できれば手っ取り早いんだけど、互いの魔力をそれぞれの身体で循環させることは可能でも、他人への魔力譲渡は不可能とされている。多分、魔力自体が指紋のように、独自の色を持っているから、他人には受け付けないんだ。

このギフトを応用すれば、誰の色にも染められていない純粋無垢の魔力を作り出せるという仮説は、これで実証されたけど、問題はここからだ。

【疑念を持つな、自分を信じれば、ギフトの力も強固になる】

最後の実験を試そう。

初めての試みのせいで、僕自身には疲労感がかなり蓄積されている。あの無色の魔力球を吸引することで、魔力を回復できるか、回復すれば僕色に染まったということになる。

……よし、やるぞ‼︎

「魔力球よ、僕の中に入り、力を回復させろ」

言葉通り、魔力球が僕の元へフヨフヨと動いてきて、お腹付近に近づくと、スッと身体の中へと入っていく。その途端、先ほどまでの疲労感が嘘のように軽くなった。ステータスを確認すると、魔力が満タンに回復していることもわかった。

「やった、実験成功だ!!」

あれ? 周囲のみんなが僕に押し寄せてきたんだけど?

「兄ちゃん、ヘドロなんか食って大丈夫なのか!?」
「そうだよクロード、ヘドロだよ、ヘドロ!! あんな汚物を食べたら、お腹を壊すよ!!」

うお!?
ハルトとミズセの言ったことを、他の人たちも連呼している。

汚物汚物汚物って、それを分解して害のない魔素だけを抽出しているから問題ないよと僕がどれだけ説明しても、皆は理解してくれることはなかった。


○○○


貧民街の人たちに依頼達成とその方法を説明すると、大変感謝されたのだけど、皆が僕のお腹の調子を気にしてくれた。『汚物を分解し、無害な魔素だけを抽出して使用しているから問題ないですよ』と説明しても、何故か可哀想な目で見られた。

その後、街を統制し、父と友人関係のあるオースコットさんとも久し振りに出会い、状況報告と依頼達成書へのサインをもらったのだけど、『クロード、[神の知らせ]で挫けるのもわかるが、どれだけ貧困であろうとも、プライドを持て。ギフトで汚物を無害な魔素に変換させて、自分の身体を回復させる発想は素晴らしい。だが、その根源は汚物なんだ。極力、汚物からの変換は控えろ』と言われる始末だ。

【汚物から無害な魔素だけを抽出し、自分の魔力を回復させたとしても、その根源は汚物】

僕以外の人は、その価値観から外れない。
家族や友人たちの前で、これを披露しなくて良かった。

冒険者ギルドへ戻る道中、ミズセにこの依頼を選んだ理由をきちんと説明したら、微妙な答えが返ってきた。

『あのね、私のことを思ってくれるのは嬉しいのだけど、もし私にあの魔力の球を与えるにしても、汚物以外にしてね』

と言われた。元々、そんなつもりはなかったのだけど、ミズセにとって、僕の行為は相当衝撃的だったようだ。この効果を彼女に試すにしても、根源となる物を十分吟味しておこう。

僕は、ミズセと共に冒険者ギルドへ戻る。当初、ミレーユさんに依頼達成を詳細に報告しようと思ったけど、貧民街の皆から止められたので、魔力球のことを伏せて報告した。

すると…

「ギフト[壁]でヘドロを壁として形成させ、それを塵に分解して、大気中に散布したですって!?」

半分言っただけでこの驚きよう、そこから魔素を抽出した行為に関しては黙っておいて正解だった。貧民街の人たちに感謝だ。

「名称が壁だから、ヘドロの形状変化はわかるけど、そこから分解できるだなんて…もしかしたら、あなたのギフトはかなり有用なものかもしれないわね。貧民街全てのヘドロを無くしてくれるなんて、正直助かったわ。あれは、埋没依頼に属するものだから。こちらが最大報酬の50000ゴルド、金貨5枚よ」

ミレーユさんも微笑んでくれているから、新たに見つけたギフトの効果に関しては褒めてくれている。でも、ミズセの魔力回復のこともあるから、僕的には利用できるものはなんでも利用しようと思っていたけど、やはり物には限度があるようだ。

「ありがとうございます。今後も、自分のギフトをどんどん開拓していきますよ!!」

僕は金貨を受け取ると、ミズセと共に、宿屋へ戻るため、ギルドを出る。最後、色々と問題が生じたけど、ギフトの新規開拓には成功したのだから良しとしよう。

「ミズセ、貧民街の子供たちとは仲良くできた?」

「ふえ!? ああ、うん、みんな……根は良い子たちだよ」

何故か目を逸らし顔を赤くして、微妙な発言をしている。
まあ、この様子だと、人見知りも少し和らいだかな。
あそこに住む子供の多くが、何かしらの事情を抱え込んでいる。
境遇だって似ている子もいるはずだから、ミズセも心を開きやすいと思う。


○○○ ミズセ視点


私の身体には、魔力を生み出す器官がない。

7歳で発覚して以降、家族だけでなく、使用人たちからも虐められるようになったけど、まだ耐えられるレベルだった。でも、12歳の祝福の儀にて、事態が大きく急変した。両親も私のギフトに僅かながら期待していたけど、それすらも貰えなかったことで、私を見る目が更に蔑むようになり、虐めもエスカレートした。決定的な出来事となったのが、聖女様による診察だった。

【回復魔法であっても、ないものを作れません。病気でない以上、治療もできません。これは推測ですが、魔力を生み出す器官がないから、ギフトも貰えないのでしょう】と聖女様に断言されて以降、虐めが更に酷くなり、私の身体も痩せていった。聖女様を恨んでいないけど、もう少し控えめな言い方をして欲しかった。

皆が虐めてくる中、唯一私を庇ってくれたのがギブソンだった。

彼だけは、私の身体を常に心配して、温かな夜食を運んでくれる。消化しやすいお粥、茹でた薄味の野菜類、簡単な食事だけど、細くなった私にはそれが限界だった。そんな彼の言葉から、最も聞きたくない絶望の言葉がもたらされた。

『お嬢様、申し訳ありません。あなたの行く末が決まりました。今から10日後、修道院へ行く事になり…その道中、盗賊と遭遇し……殺されます』

ギブソンは苦渋に満ちた表情で告げてくれた。
[魔力とギフトがない]、それだけで私は家族と使用人たちから疎まれ虐められた。
人生の最後も、疎まれている家族に決められたことに、私は絶望した。

その日以降、死へのカウントダウンが始まり、死にたくないという恐怖から震える毎日が続く。決して覆ることのない絶望の日々、でも殺される2日前になって、突然冒険者ギルドへ行かされる事になった。

お父様が……

『我が家は、父の代からギブソンに何度も助けられた。彼からの真摯な願いだからこそ、ミズセに半年間の猶予をやろう。半年後、お前に貴族としての価値があれば、貴族として学院に通うがいい。魔力もギフトもない状態であれば、修道院行きだ。まあ、無駄だと思うが、生きるため足掻くだけ足掻くがいい』

と言い、私はギブソンと共に冒険者ギルドへ向かった。ギブソンからクロードのことを聞いた時、今度はその人に虐められると思い、頭の中は【死にたくない】という恐怖で埋め尽くされる。冒険者ギルドに到着し、部屋の中へ通された時も、ミレーユさんの話す内容が頭に入ってこなかった。でも、クロードの姿を認識した時、この人は邸にいる人たちと何処か違うと思った。震えながら必死にギブソンとの会話を聞いていくうちに、この人は自分よりも、私の命を第一に考えて、物事を進めていることがわかった。気づけば、身体の震えも止まり、私はクロードのことを見つめていた。

私とクロードの両方が幸せになるルート、ギブソンは『【生きたい】という強い意志を持て』と言って、私から離れていった。死にたくない、両親の身勝手な意志で殺されたくない、死にたくないのならどうすればいい? 自分の力で生きようと、必死に足掻くしかない。

彼から今後の方針を聞いた時、そんなのんびりしたペースで大丈夫なのかと不安に思った。彼の言う策が気になったけど、翌日になり貧民街で見せた行動には度肝を抜かれたわ。流石に、汚物を分解してできた魔力を食べたいとは思わないけど、彼が『魔力を少しずつ摂取していくことで、体内に魔力を発生させる器官を生み出せるのでは?』と言った時は驚いた。私も邸内にある資料を閲覧して色々と模索していたけど、そんな方法は思いつかなかったもの。

クロードとなら、幸せな未来に辿りつけるかもしれない。
私は、彼を信じる。
生きたいという意志を強く持って、彼と冒険していこうと心に決めた。

そして初日の今日、貧民街で十人の子供たちと出会ったけど、私と同じで人見知りな子が多いこともあって、あのハルトって子が主導になって、私を紹介してくれた。クロードの仲間とわかったせいか、さっきまでよそよそしかった子供たちが私に話しかけてくれた。始めこそ私も戸惑ったけど、ここの子供たちもクロードと同じで、邸にいた人たちと違い、嫌な感じがしなかったので、すぐに打ち解けることに成功したけど、私が一番年長なのに、誰1人私をお姉さん扱いしてくれなかった。[背が低い][胸がない][細い]の3点セットを言われ続け、友達認定された。もっといっぱい食べて成長して、あの子たちから【ミズセお姉ちゃん】と言わせてやるわ!!

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