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19話 ギフト[壁]、僕の思い通りに動いてくれるかな?

ミズセに関しては、まず体調を整え、体力をつけさせる。
冒険者として活動していく上で、これは前提条件だ。

あとは彼女のギフトと魔力の完全欠損、聖女様の言っていることが正しいのであれば、ギフトを取得するには、魔力を生み出す器官そのものを身体の中で新たに作り出すしかない。理屈はわかるのだけど、そんな行為は医者でも不可能だろう。でも、僕のギフトが点滅している以上、それが多分可能なんだ。

可能だと仮定すれば、どんな方法があるのか?

これまで培ってきた経験を基に、僕なりに考えた結果、一つの方法が思い浮かんだけど、それをいきなりミズセで試すのは危険過ぎる。だから今回、自分の身体でその方法を試し、効果の有無を確認するつもりだ。

「ここが貧民街……あの……怖いです」

初めての人はこの暗い雰囲気を見ると、気後れするのも当然か。僕も7歳の時、初めて父さんと共にここへ訪れた時は、その薄暗い雰囲気に圧倒されて、気後れしたんだ。この地域一体は[貧民街]と呼ばれ、この地に住む人々のリーダーは、上位貴族に陥れられ、爵位を剥奪された元貴族のオースコットという男性だ。父と同じ36歳で、父はその人と学院時代からの友人、貴族でなくなった今でも、その関係を保ち続けている。その男性のおかげで、貧民街もきっちり統制され、各ギルドとの連携も為されたこともあり、最低限の生活が取れようになったと聞いている。ここに住む人々の新規の働き口を探すべく、皆で悩んでいる時、僕が『誰もやらない靴磨きなどの雑用を自分達で商売にすればいいんじゃないの?』と言ったら、それが採用され、僕も仲間として認められたんだ。

「大丈夫、ここに住む人たちも君と同じで人見知りだけど、仲間として認めてもらえれば……」

話している時に、1人の8歳くらいの男の子が曲がり角から現れた。大通りを歩く平民の子供たちの服装に比べると、少し貧相に見えてしまうけど、ここで鍛えられている分、平民の子供たちよりも、強い生活力を保持している。

「あ!! みんな~~クロード兄ちゃんがいるぞ~~~」

その声を聞いた子供たちが、5人くらい一斉に曲がり角から現れ、ミズセも怖くなったのか、僕にしがみつく。

「ハルト、久しぶり」
「兄ちゃん、あの噂は本当なのか? ギフトが[壁]で、[神の死らせ]ていう不幸の呪い付きだって?」

う~ん、少し語弊があるけど、嘘じゃないな。

「ああ、本当だよ。この子はミズセ、僕はこの子と2人で、冒険者として活動しているところなんだ」

ハルトは訝しげな目で、ミズセを見る。

「こんなか細いのが兄ちゃんの仲間? 大丈夫なの? 僕と同じ9歳くらいだろ?」

それを聞いたミズセはショックを受けたのか、身体を震わせる。

「おいおい、彼女は僕と同じ12歳だぞ。少し前まで病気だったから、身体が弱く小さいだけだ。僕は依頼を受けて、彼女を元気づけている最中なんだ。最低でも半年間は、一緒に行動する。みんなも、ミズセと仲良くしてくれ」

12歳と聞いて、6人全員(男の子4名;女の子2名)が驚いている。背格好が、ここにいる6人(8歳前後)と同じに見えるのだから無理もない。

ここにいる子供たちは、いつも死と隣り合わせで生きている。貧民街にいる者は平民と見做されておらず、いつも一部の者たちから虐げられている。そういった生活環境のせいで、[神の死らせ]という名称を聞いても、誰も怖がらない。

「へえ~訳ありなんだ。でもな~、背も低いし、胸もないし、どう見ても12歳には見えないや。呼び名は、ミズセでいいや。クロード兄ちゃんのような頼れる存在になったら、ミズセ姉ちゃんって呼んでやるよ」

何故、上から目線? 
まるで、ハルトの方が兄みたいな言い方だ。

ミズセの方も、自分の胸に両手を添えて、何もないと悟ると、シュンと項垂れる。体調が回復すれば、そこも大きくなるから心配することもないと思うけどな。ハルトが認めてくれたおかげで、他の5人の視線がミズセの方へ向き、色々と話しかけていくので、僕は気づかれぬよう、彼女と少し離れて、ハルトの方を向く。

「ハルト、今日来たのは溝掃除をするためだ」

「げ!? Fランク依頼の中でも、体力を使うし、報酬も割に合わないって言われているアレを引き受けたの?」

「まあね。今からギフトを使って、僕1人で掃除していくよ。ハルトは、案内人を頼む。報酬は鉄貨5枚の500ゴルド(500円相当)だ」

ここの子供たちにとって、500ゴルドでも大金だ。僕も懐に余裕がある時、こうして役目を与えながら、少ないながらも報酬を提供している。

「マジで!? やるやる!!」

さて、ギフトの新規開拓に挑んでみるか。


○○○


「手始めに、この区画からやっていくか」

「兄ちゃん、本当にやるの? 言っちゃ悪いけど、王都の中でも貧民街の溝って、めちゃくちゃ汚いよ。国の役人連中も冒険者ギルドに押し付けるだけで、奴等は何もしない。肝心の冒険者だって、重労働で報酬の低さで誰もやらない。そのせいでヘドロが相当蓄積して、雨になったら漏れ出てきて、臭いもきつい。だから、僕らが定期的に少しだけやっているけどさ」

「ハルト、勿論わかっているさ。さあ、僕から離れてくれよ。今から始める」

建物の境界線沿いに設けられた溝、一応地下にある下水道へ繋がっているけど、ここから見える範囲内でも、相当ヘドロが蓄積しており、流れ出る汚水の流速も遅い。水の中には栄養分も含まれているけど、そういったものは水に溶け込んでいるから、僕も視認できない。今回の場合、視認できる汚い物体だけを溝の真上の空中へと集めていき、壁として形成させればいい。

ローラと別れて以降、廃品などを利用して、色々と壁の試作を重ねたことで、いくつか分かったことがある。僕が『これは壁になれる』と認識した時点で、その指定物は壁として、僕の意のままに操れるようになる。マーニャに見てもらった土壁がいい例だし、薄氷壁に至っては空気中の水分を氷壁に形態変化させているし、解除後は元の水分へ戻っている。実際、どんな廃品でも形状変化を起こし、イメージ通りの壁になってくれた。

ここで行う第一段階の実験内容は、【どんな物でも、僕のイメージ通りの壁になってくれるのか?】だ。廃品は箒、箪笥、木刀、ゴミ箱などの物体で、今回のドロドロ固形物に関しては、初めて扱う。廃品と気体で成功しているのだから、こんな汚物でも壁にできるはずだ。

壁のサイズについては、溝の体積に合わせよう。集めたヘドロを溝と同じ形に押し固め、溝に沿って真横の地面の上に置いていけばいい。今回、大規模で行うのは初めてだけど、今の魔力量でどこまで出来るかも問題だな。


………2時間後


「やった、第一段階は成功だ!! これで、貧民街の全区画のヘドロが一掃されたぞ!!」

今、貧民街の溝に沿って、蓄積され押し固められたヘドロが並べられている。周囲の大人たちが僕の行動を聞きつけ、興味本位でヘドロと、まるで新品同然となった溝を見て大騒ぎしている。ミズセを含めた子供たちは、あちこちの溝を確認しながら、その度に驚いている。

目撃者がいてくれないと、僕がやったことにならないから助かるよ。

「兄ちゃん、すげ~~よ!! あのドロドロベタベタで臭かったヘドロが固形化されて、臭いも薄くなったし、溝だってすげえ綺麗だ。ギフト[壁]って、なんでも壁にしちゃうんだね!!」

ハルトも子供たちも、大喜びでなによりだ。

完全に固形化させ臭いも押し固められたことで、かなりマシになっているんだ。ここまでの魔力消費量は80程度、これだけ広範囲に動いたのに、80の消費で済むのか。

さて、問題はここからだ。
僕の思った通りの結果になってくれよ。
僕の思い通りの壁に形状形態変化ができるのなら、成功するはずだ。

「でもさ、これだけ大量のヘドロをどこに廃棄するの? 運び出すだけで重労働だよ」

「ハルト、そこも勿論考えているさ。みんな~~~~、今からギフトを行使するから、ヘドロをよ~~~く観察してくれ~~~」

ここから、第二段階の実験に入る。

壁を作った後、用がなくなれば、必ず元の形状に戻し、元の場所へ返しているのだけど、ここで一つの疑問が湧いた。固形物の形状変化、固体から気体への形態変化ができるのなら、壁にしたものに関しては、『構造を破壊して、バラバラに分解することもできるのでは?』というものだ。ギフトの行使には、強いイメージと揺るがない自信が必要、壁に関わるものであれば、なんでもできると強く思い込めば、ヘドロという汚物から【アレ】を抽出できるかもしれない。

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