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第39話『クイズバラエティ』

 じつは裏で、あんぐおーぐとはしょっちゅう電話していた。
 だから、俺も前回のコラボから1ヶ月も経っていた感覚がなかった。

>>!?!?!?
>>てぇてぇがすぎるんだが???
>>まるでハトみたいにラブラブだぁ(米)

《そろそろいい時間だし、お開きにしよっか。最後におーぐからなにか宣伝とかはある?》

《あるよー。じつは……まもなく、ワタシの『誕生日記念3Dライブ』があります!》

《フゥウウウ! 待ってたぜ!》

>>フゥウウウ! 待ってたぜ!(米)
>>やったーーーー!(米)
>>イロハちゃんの反応が俺らとまったく一緒で草(米)

《日程はこうなってます。「日本時間でのスケジュールはこれデス。日本のミンナも、ぜひ見に来てネ!」》

>>任せろ!
>>絶対に見に行きます!
>>めっちゃ楽しみ!

《ワタシからの宣伝はこれくらいかな? イロハからはなにかある?》

《わたしはもうちょっと先になるけど……ただいま、新衣装の準備中です! まだお披露目の日程も決まってないけど、ぜひぜひお楽しみに~》

>>マジかよ!?(米)
>>え、なに、新衣装!?
>>今日の宣伝、豪華すぎるだろ!(米)

《じゃあ、宣伝もこれで全部かなー》

《イロハちゃんの誕生日は4月だっけ?》

《そうそう。あー姉ぇとおーぐとのコラボ配信にはじめて参加した日だよ。あのときはまだVTuberじゃなくただの助っ人だったけど……それでもやっぱり、VTuberとしてのわたしが生まれたのはあの日、おーぐとはじめて話した瞬間だと思うから》

《……おう》

《あ~! おーぐ照れてる!》

《う、うるさいっ》

>>てぇてぇ
>>てぇてぇ(米)
>>いいぞもっとやれ(米)

《今日の配信はもう終わり! ”オツカレーター、アリゲーター”!》

《はいはい。それじゃあ、みんな”おつかれーたー、ありげーたー”》

>>おつかれーたー
>>おつかれーたー(米)
>>おつかれーたー(米)

   *  *  *

 配信を終えてヘッドホンを外す。
 解放感に「ふぅ」と吐息が漏れた。

「3Dモデル、かぁ」

 これは、あんぐおーぐのマネージャーから聞いた話だが……。
 俺があんぐおーぐの3Dライブに参加する、という案もあったらしい。

 しかし3Dモデルがないことが理由で、お祝いメッセージを送るだけに留まった。
 さすがに今から3Dモデルを用意しても間に合わないし。

「できることの幅がちがう、か。今さらながら、あー姉ぇに怒られた理由がわかった気がする」

 俺の場合は”歌えない問題”があるからどっちにしろ、だけど。
 それを差し引いても……だな。

 それに新衣装や3Dモデル代だけじゃない。
 歌やダンスのレッスン代、機材もまだまだ足りていない。

 VTuber業はこんなにもお金がかかるのか、と驚く。
 視聴者として話を聞いているだけではわからなかった現実が、そこにはあった。

 そしてなにより、登録しまくっているメンバーシップ代を稼がねば!

「たった100人を推すだけでも毎月5万円の固定出費だもんなー。世知辛い」

 とくに最近は情勢不安などで急速な円安、ドル高になっている。
 MyTubeもその影響を大きく受けている。

 最近も価格の改定が起こったばかり。
 今はとくにAIPhone|《アイフォーン》からスーパーチャットを送った場合が酷い。

 黄色のスーパーチャットを投げた場合を考えよう。
 AIPhoneからの黄スパ最低額は1600円。
 Appole税が600円。
 MyTube税が300円。
 さらにそこから所得税が引かれる。

 1600円投げて、配信者の手元に残るのはたった400円。
 すなわち投げた額のたった1/4しか届かない、なんてことも。

 計算に入れていないが、もちろん機材代や作曲代などの費用もかかる。
 事務所に所属しているなら、その取り分も。

「ほんと世知辛い世の中だなぁ~」

 勘違いしてはいけないのは、値上げした側が決して悪いというわけではないこと。
 だれが悪いとかではなく、みんなが苦しい。

 まぁ、俺の場合は、その収入をさらにスパチャやメン代として投げてるわけで。
 ある意味、二重にMyTubeくんに税金を納めてるんだけどな!

 そのとき、ピコンとメッセージが届いた。
 ん? なになに? これは……。

「――クイズ企画へのお誘い?」

 とある有名なVTuber企画への招待状だった。

   *  *  *

「というわけで、はじまりました! VTuberクイズバラエティ番組! 本日の解答者はこちら」

「「「「いえーい!」」」」

「端から順番に自己紹介をどうぞ!」

「どうもー。”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす」

>>イロハロー
>>イロハロー
>>イロハちゃんきちゃー!

「というわけで、一人目の解答者は翻訳少女イロハちゃんです。彼女は非常に語学堪能なリアル小学生とのことで。大人のみなさんにはぜひ、負けないようがんばってもらいところです。なにかイロハちゃんから意気込みなどはありますか?」

「この番組に呼んでもらえるなんて、めちゃくちゃうれしいです! 過去の回も全部、視聴させてもらってます! 今日は精一杯がんばります!」

 そうして、クイズバラエティが開幕した――!

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