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第13話『学校図書館にて』


 小学6年生の教室。
 うーむ、まいった。と俺は嘆息した。

「イロハちゃんすごぉ~い! また満点だぁ~!」

「あー、うん。まぁ」

 返却されたテストを覗き込んで、マイが賞賛の声をあげた。
 それにつられて周囲の生徒の視線がこちらに集まる。

「最近どうしたのかなイロハちゃん」

「あいつってそんなに勉強できたっけ?」

「キャラ変わったよな」

 ひそひそとウワサされている。
 俺はバツの悪さを誤魔化すように髪先を指で弄んだ。

 この長い髪のように、今でこそ俺は女子小学生になっているが、中身はオッサンだ。
 子ども相手に無双するのはズルしているようで気が引ける。

『あ~、ガキを一方的にボコボコにするの気持ちいい~!』

 くらいに思えたら楽なんだろうけど。
 あいにく俺には、あー姉ぇのように図太い神経は備わっていない。

「イロハちゃんはやっぱり中学受験するつもりなの?」

「そうそれ! 問題はそれなんだよ!」

「えっ、う、うん」

 唐突な勢いにマイが一歩引く。
 大きなため息を吐いて、俺は机に突っ伏した。

 最近、親からの圧がすごいのだ。
 ことあるごとに……。

『自分の力を試してみない?』

『この学校は授業でこんなおもしろいことするんだって!』

『建物もキレイで施設も充実してるわよ!』

 などと言われるようになってしまった。
 いや、ちゃうねん。べつに俺は頭がいいわけやないねん。

 テストの成績がいいのは人生2周目だから。
 言語習熟については、俺にもわからないナゾの力が働いているから。

 なーんて説明ができるはずもなく……。
 俺はいまだ、あいまいに誤魔化すことしかできずにいる。
 だから余計にこじれている。

「進学校に行ったら、わたしなんてソッコーで落ちこぼれると思うんだけど」

 10で神童、15で才子、20過ぎればただの人。いつまでもアドバンテージがあるわけじゃない。
 そしてなにより、というよりこれこそが一番の問題点なのだが。

 ――勉強に時間を取られると推しを見る時間が減るだろぉがぁあああ!

 俺にとって本当に重要なのは、その一点だけだった。

   *  *  *

 てなことを、雑談配信で話していると……。

>>中学受験は親のやる気と子どもの根気
>>身バレ大丈夫?
>>どこの学校受けるとかは伏せたほうがいいよ

「心配ありがと。でも、このあいだの学力テストは有名中学から過去問を引っ張ってきただけだし、進学候補はほかの学校だから大丈夫だよ」

>>よかった
>>イロハちゃんまだ小学生とは思えんくらいリテラシーしっかりしてるよな
>>むしろ一般的なライバーが大人とは思えないくらい、リテラシー足りてな……おっと、だれか来たようだ

「実際に受験するのは、家から通える距離で、英語科目のある、なるべく偏差値の高い学校になりそう。……なるべく低いところじゃダメ?」

>>なんのための中学受験だよwww
>>本末転倒で草
>>受験するにせよしないにせよ、勉強はしといたほうがいいぞ

「うぐっ、正論パンチが耳に痛い! でも勉強する時間を増やすと、VTuberの配信や切り抜きを視聴する時間が減るのがなぁ~。ただでさえ配信で時間削られてるのに!」

>>配信が面倒ごと扱いなの草
>>VTuberにあるまじき発言でワロタwww
>>「勉強がイヤ」じゃなくて「勉強で時間が減るのがイヤ」なあたり、相変わらず感性が一般的な小学生からかけ離れてて笑う

「いや実際、推しの配信を見るより重要なことってこの世の中に存在する? あっ、推しのライブを見に行くことか!」

>>草
>>一緒じゃねーか!
>>頭良いクセにVTuber絡むと急にバカになるのなんなんだwww

「そうだなー、効率よく勉強する方法とかあればいいんだけど。オススメの勉強法とかない?」

>>睡眠学習
>>俺はマンガでわかる歴史を読んで社会好きになったなぁ
>>ガチで難関中学狙うなら受験塾行くべき

「受験塾! でもお高いんでしょう?」

>>それがなんと、今なら……高いんです!
>>月謝以外にもテキスト代とか講習代とかかかるからな
>>小6だともろもろ込みで100万くらいか?

「ひぇっ!? そんなの絶対ムリだって!?」

>>VTuberの収益でなんとかなるやろ
>>この間、収益化が通ったのはこの伏線だった?
>>¥5000 塾代

「塾代ありがとうございますー。いやそれが、じつは……みんなのおかげで収益化はできたんだけど、収入になるのはまだまだ先なんだよねー。実際に懐に入るのは2ヶ月くらい先らしい」

>>へぇ~
>>知らんかった
>>そうなるとチョイ厳しいな

>>とりあえず教材だけ買って自習とか?
>>まずは夏期講習だけ参加してみるのもアリ
>>受験塾に案件もらってタダで教えてもらおう

「えぇ~~。案件なんてもらったら、勉強しないといけなくなるじゃん~」

>>???
>>??????
>>言ってることムチャクチャで草

>>勉強したいのかしたくないのかどっちなんだよwww
>>とりあえず図書館で教材借りてみたら?
>>母国語(宇宙語)出てるぞ

「日本語だが!? あー、でもそうだね。それが現実的かも。とりあえず学校とか街の図書館行って、問題集借りてこよっかなー。まだ受験するかも決まってないのに買うのはアレだし」

>>親なら教材代くらいいくらでも出してくれそうやけど
>>教材もタダやないんやで
>>金銭感覚が小学生じゃなく自立した社会人なんだよなぁ

   *  *  *

 翌日の放課後、俺は足を階下ではなく階上へと向けていた。
 今日は集団下校もないため、授業さえ終わればあとは自由時間だ。

「イロハちゃん下駄箱はそっちじゃないよぉ~?」

「わかっとるわ!? ちょっと図書室に寄っていこうと思って」

「……? 図書室に下駄箱はないよぉ~?」

「知っとるわぁあああ!」

「ご、ごめんねぇ~。イロハちゃんのことだからてっきりぃ~」

「え、ちょっと待って? わたしってマイからどういう風に見られてるの? そこまで常識ないかな!?」

「うん」

「お前、覚えてろよ」

 絶対に配信でネタにしてやる、と思いながら階段を上がって図書室へ。
 ちなみにマイは置いてきた。「置いてかないでぇ~」と言っていたが当然の扱いだ。

「失礼しまーす」

 ガラガラと扉を開けて室内へ。
 むわっと古い本特有の匂いが充満していた。


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