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18話 ギフト[壁]の新たな使い方を思いついた

僕たちはミズセ用の冒険者服や武器防具類を調達するため、まずは服屋へ向かう。その道中、彼女の魔力欠損や強さに関して質問してみた。

とある貴族として生まれて以降、ミズセはどれだけ訓練しても、魔力というものを理解できなかったし、相手の魔力を感知することもできなかった。当初、両親も必死に励ましてくれたようだけど、7歳の時に行われた専門医による生体検査診察により、その原因が判明した。ここから虐めが行われるようになったけど、邸内掃除や食事量の制限といった軽いもので、彼女自身も魔力欠損という欠陥を自覚しているので、その行為を受け入れていた。

そこから5年後、祝福の儀から2日後に聖女様に身体を診察してもらい、治癒不可能と判断されたことで、皆から酷い虐めを受けるようになる。僕は聖女様に何を言われたのか気になったので聞いてみると、ミズセは暗い顔となる。

「あの方は私の症状について、わかりやすくはっきりと教えてくれたの。決して悪気があって言ったことじゃないのはわかるけど、もう少し希望のある言い方をして欲しかった」

聖女様が診察しても魔力を感知できず、最高位の回復魔法でも回復しなかった。7歳の時に診断された器官欠損、これが部分的ならまだ可能性はあったかもしれないが、完全に欠損したまま健康体で生きているからこそ、回復魔法であっても治せないというのが、聖女様の見解だ。

女神様からギフトを贈呈されなかったのも、その器官の有無が大きく関わっていると断言されてしまい、ミズセも両親も絶句する事態に陥ったという。僕が聞いた限りでも、相手に希望の言葉を与えることなく、真実を告げていることがわかる。もしかしたら、聖女様自身も、ここで言った方が賢明かと判断したのかもしれないが、それがキッカケで虐めが酷くなったのだから、もう少しミズセの将来を考えて言ってほしかったと、僕でも考えてしまう。

僕は、この日一日全てを使ってミズセの情報を知り、冒険者として彼女に必要な物を購入し、宿屋の食堂にて夕食を食べながら、明日以降の行動を詳細に詰めていった。食堂を出る際、受付で部屋をもう一つ借りようかと尋ねると、彼女は僕の服の袖を掴み、身体を震わせ、か細い声で拒絶したので、これは何かあると思い、僕の部屋でその理由を尋ねた。

『私を1人にしないで‼︎ もう1人は嫌なの‼︎ 家族に、いつ襲われるかわからないもの‼︎ 死にたくないの‼︎ お願い、1人にしないで‼︎』

その時の彼女はヒステリックを起こし、かなり錯乱していたので、落ち着かせてから話を聞くと、自分が家族に殺されると判明して以降、ほぼ毎日家族の誰かに殺される夢を見ており、夜1人になる時が一番怖いと、僕に切実に訴えていた。

このため、僕が寝泊まりしていた部屋にミズセを迎え入れて、一緒にベッドで寝ることになった。僕は、ソファーで寝ようと思っていたけど、ミズセが一緒に寝てと懇願してきたので、初めて女の子の横で眠ることになった。彼女は僕の温もりに安心したのか、すぐに寝息を立て、僕も疲れていたこともあり、すぐに寝てしまった。


○○○


「クロード、Fランク掲示板にかなりの依頼が貼られているけど、私はあなたの仕事を見ているだけでいいの?」

翌朝、僕たちは冒険者ギルドへ行き、ギフト[壁]の可能性を広げるため、今の僕らで出来る依頼を探しているところだ。と言っても、ミズセに関しては体力・筋力・持久力といったあらゆるものが不足しているため、当面の間は僕の冒険者活動を見学してもらう。昨日の買い物だけで、体力が尽きているのだから、まずは徒歩から始めていき、基礎体力を向上させないといけない。

「今は、見ているだけだよ。君の魔力とギフトを新規に生み出すためには、今の僕では力不足だ。まずは、ギフト[壁]の可能性を見出していきたい。その間に、君はこの環境に慣れ、基礎体力をつけてもらう。今のままだと、訓練するだけで力尽きるからね」

「昨日も思ったけど……【食べる】【歩く】という行為だけでいいの?」

あはは、昨日話し合った自分の行動方針が恥ずかしいのか、顔を少し赤くさせている。ミズセの青色の長髪と、昨日購入した冒険者服が見事に調和し可愛いと思うけど、かなり細いせいもあって、どこかアンバランスだ。今は食事量を少しずつ増やしていき、体重を増加させることが先決だろう。1・2ヶ月もすれば、かなり可愛い女の子に大変身するんじゃないかな? 一応、護身用として短剣を持たせているけど、今の時点では全く役に立たないだろう。

「いいんだよ。今の君は身体の内部のあらゆる器官が弱っていて細い。軽めの食事から始めていき、機能を正常に戻し、身体をふ…成長させていくことが第一なんだ。焦りは禁物、ゆっくりと進めていこう」

危ない危ない、女の子に[太い]は禁句だ。特にこの子の場合、親兄弟から肉体・精神的な虐めを受けていたから、こういった言葉には敏感になっているはずだ。

「うん、わかった。クロードに早く追いつけるよう頑張る」

う、微笑む顔が可愛い。昨日の時点で、色々と話し合ったおかげもあり、僕は彼女と打ち解けることに成功し、今では普通に話し合えている。ただ、7歳以降の5年間ず~~っと、邸の敷地内でしか生活していなかったことと、家庭環境のせいもあって、少し人見知りだ。彼女の性格が歪まないよう、ギブソンさんがカバーしてくれていたからこそ、この程度で済んだのだろう。

「お、この依頼、今の僕にはピッタリだ」

僕は、Fランク掲示板から一枚の依頼書を剥がす。

「それが、ぴったりなの? 何だか紙が古いよ? それに【溝掃除】って、かなりきついって聞いたことがある」

「あははは、ギフトを開拓する上で、これがピッタリなんだよ。僕の予想通り機能すれば、全範囲掃除したとしても、多分数時間で終わる」

「へ?」

ミズセは驚いているようだけど、溝掃除でもっと驚かせてやりたいな。僕たちは依頼書を受付のミレーユさんのところへ持っていくと、案の定怪訝な顔をされた。

「これを2人だけで?」

この作業をミズセにやらせたら、僕はこの人に1発で嫌われるな。

「いいえ、僕だけです。自分のギフトを開拓するため、色々と試したいんですよ。掃除範囲が広ければ広いほど、報酬額も上がる。最低は1000ゴルド、最高は50000ゴルド、これは間違い無いんですね?」

「え…ええ、そうだけど、あなたのギフトは[壁]よ?」

ミレーユさんも、僕の意図を把握できないのか、かなり困惑している。

「ええ、壁ですね。それを利用するんですよ」
「利用って……どうやって?」

「それは、内緒です。まだ、うまくいくかもわかりませんので。ああ、ギフトの行使に失敗しても、きちんと最低条件[幅40センチ、長さ10メートルの範囲内を必ず掃除すること]、これは必ずやり遂げますので」

ミレーユさんは僕を見ると、少し溜息を吐かれたけど、依頼を受理してくれた。

「あなたを見ていると、何故か期待しちゃうわね。何をするのかわからないけど、無理だけはしないように」

よし、これで出発できる。
僕の思惑通りに事が運べば、短時間で50000ゴルドを入手できるぞ。
溝掃除の場所とされる貧民街区域へ移動しよう。

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